冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる

水城ひさぎ

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満月は、吉兆か凶兆か

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「あっ、でも、千隼さんがお嫌でしたら、西園寺さまにはご納得いただけるよう、説得するつもりでいます。千隼さんにだって、お幸せになる権利はあります。これから先、お好きな方と結婚することもあるでしょう。いくら、父の名乗りをあげないと約束しても、血を分けた子がこの世にいることは変わらないのです。生涯、会えぬ我が子を思いながら生きるのは、おつらいのではないかと」

 一気に言う。まくし立てるように言ってしまっただろうか。不安になって、彼をぬすみ見ると、やはり彼はけげんそうだった。

「西園寺さんのことを言っているのですか?」
「えっ、……あ、そうではなくて。ただ、千隼さんの心配を……」

 そう答えると、千隼さんは息をつくように笑った。

「つゆりさんは俺の心配ばかりする。何度も言いますが、心配は無用なのですよ。俺は結婚しないし、子を残すつもりもないのです」
「そう……なのですか?」

 彼は確かにうなずく。

「事情は話しました。俺は桐生であって桐生ではない。それを知ったとき、子孫を残してはいけない人間だ。強くそう思いました。幸い、桐生にはもう一人、正式な後継ぎがいます。弟の千蔭ちかげももう、二十歳をすぎ、立派な青年です。桐生家のすべては、千蔭に託します」
「それでは……、千隼さんがあまりにも……」
「かわいそうですか?」
「あ、そんな意味では……」

 戸惑う私を見て、千隼さんはくすりと笑う。

「実を言うと、好きな女性はいるのです」
「え……っ」

 予想だにしない話が飛び出して、胸が急にバクバクと音を立てる。

「その女性には婚約者がいましてね。叶わない恋と諦めていました。彼女と結婚できないなら、生涯独身でかまわないのです」
「そ、そうだったのですね。そのような方がいらっしゃったのですね……」
「ええ。ですから、つゆりさんが俺の子を産みたいと覚悟したなら、最大限の協力をします。西園寺家でしたら、つゆりさんも子も、末永く幸せに暮らせるでしょう」
「千隼さんは暮らせないのですか……?」
「俺は西園寺家とは無縁です。何も心配しないでください」

 千隼さんは心配いらないと何度も言うけれど、本当にそれでいいのだろうか。黙り込んでいると、彼の手が、そっと私の手に重なってくる。

「千隼さ……」
「このままホテルへ行きますか?」
「えっ!」

 唐突な誘いに驚いて、大きな声を出してしまい、ハッと口に手を当てる。そんな様子がおかしかったのか、千隼さんは目を細めた。

「来週から忙しくなります。今夜が一番、ゆっくりとふたりで過ごせると思うのですが?」

 そうだった。来週から仕事が忙しくなると、昼間に聞いたばかりだったじゃないか。彼にはあまり時間がない。

 さっさと済ませて……というものでもないとは思うけれど、彼にとってはその程度のことかもしれない。そうでなければ、私を抱くだなんて承知しないだろう。

「こ、今夜って、今すぐ?」

 往生際悪く尋ねると、ふと、彼は真剣な目をした。

「惣一郎さんの死は、いつまでも隠し通せるものではないでしょう。惣一郎さんの子であると見せかけるには、はやい方がいいと思いますよ」

 これは遊びではないのだ。色恋沙汰など何もない。私たちは、西園寺家のために最良の選択をさせられているだけ。

 動揺したりして情けない。私は、綾城つゆり。綾城の名に恥じぬよう、西園寺家に嫁がねばならない。何度、肝に銘じたら気がすむのだろう。

「わかりました。では、私の部屋へいらしてください。裏口からでしたら、誰の目にも触れずに私の部屋へ来られますから」
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