冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる

水城ひさぎ

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満月は、吉兆か凶兆か

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 裏口の鍵を持っているのは、私だけだ。すぐに鍵をかけると、離れへと向かう。

「婚約が決まったときに、離れを用意してもらいました。こちらには誰も来ませんので、お気になさらず」

 引き戸を開け、中へと千隼さんを案内する。

 座敷へ入り、座布団をすすめる。お茶を用意していると、彼は周囲の様子をうかがいながら言う。

「でしたら、気兼ねなく本音で話せますね」
「本音で?」

 湯呑みを差し出す。のどが渇いていたのか、彼はすぐに口をつけて、小さく息をついた。

「冨永さんでしたか。気配は消していましたが、俺たちの話に聞き耳を立てているようでした。すべて西園寺さんに筒抜けでは、本音は言えませんよね?」

 千隼さんも、冨永さんの存在には気付いていたようだ。彼なりに気を張っていたのだろう。

「あちらでお話したことは、すべて嘘偽りのない本音です。千隼さんが違ったというなら、どうぞ、おっしゃってください」
「ああ、いえ、西園寺さんの目を気にして、心にもない約束をしたわけじゃないんです。惣一郎さんを……、婚約者を亡くしたのに、気丈に振る舞うつゆりさんが、無理をしているのではないかと気になりまして」
「ありがとうございます。私は大丈夫なんですよ」

 にこりと微笑むのに、彼の方がつらそうに眉間にしわを寄せる。

「泣いてもいいんですよ」

 優しく言うから、その気持ちにほろりと涙が出そうになるけど、首を横に振る。

「泣きません。惣一郎さんとは対話を何度も重ねてきたのです。このようなことは想定外でしたが、何があっても覚悟を決めて生きようと誓い合いました。泣いてなどいられません。もし、私に万が一のことが起きたときには、惣一郎さんも同じようになさったでしょう」
「信頼し合っていたのですね」
「はい。惣一郎さんは、私が西園寺に嫁いだものとして、生涯、困らないようにしてくださると約束してくれました。子を授かることができましたら、これも、惣一郎さんの残してくれた幸せなのだと信じます」
「そうですね。後継ぎが生まれれば、つゆりさんの立場は確固たるものになるでしょう」

 私の決意に納得してくれたのか、千隼さんは神妙にうなずく。

 裏口の鍵を座卓の上へ静かに置く。

「鍵は一つしかありません。千隼さんがお持ちになっていてください」
「好きなときに来ていいと?」
「千隼さんを受け入れたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 後ろへさがり、三つ指をついて頭を下げる。

 気配がして顔をあげると、歩み寄ってきていた彼が、私の前でひざをつく。いつの間にか、スーツの上着を脱いでいる。

「あの……」
「つゆりさんの気持ちはわかりました。俺もすべてを受け入れましょう」

 そう言うと、私の腕を優しくつかみ、背中へ腕を回してくる。

 思いがけず、近づいた距離に緊張して、無意識に身体がこわばる。千隼さんとは、これまでも、今日以上によくお話をしてきた。だけど、こんなにも近づいたことはなかった。
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