冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる

水城ひさぎ

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満月は、吉兆か凶兆か

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 シャツ越しに伝わってくる雄々しさとは正反対な、さわやかな香りがするのだと思う。いつも穏やかな彼にふさわしい、媚びない香りに包まれていく。

 こんな風に彼に触れられる日が来るなんて思ってなくて、思いが高ぶる。

 惣一郎さんとの婚約が決まったとき、正直、そうなる日が来ることはわかっていたから、好きな人がいても思いを告げてはならないと理解していた。

 でも、千隼さんに会うたび、きっと私は望んでた。たった一度でもいいから、過ちを犯してみたいって。

 それが叶う日はなくて、胸に想いを秘めたまま、惣一郎さんのもとへ嫁ぐのだと思ってた。

 相手が誰でもよかったわけじゃない。千隼さんだったから、私は拒まずにここまで来れた。そうでなければ、きっと、冨永さんに泣きついていた。

 覚悟だなんて大嘘。
 私はただ、千隼さんを好きなだけ……。

「ベッドはどこです?」

 彼の声が耳元で聞こえて、現実へ引き戻される。

「あ……、ベッドはなくて……。お布団を、敷いてきます」

 顔が見れないまま、彼の腕の中からするりと逃れ、隣の部屋へ駆け込む。

 バクバクと音を立てる胸に手を当て、押し入れから敷布団を取り出して、たたみの上へ広げる。

 二つあるはずの枕が一つしか見あたらなくて、どうしたらいいだろうと戸惑っていると、後ろから回ってきた大きな腕に抱きすくめられた。

「千隼さ……」
「あとは、俺が」

 くるりと身体を敷布団の上に転がされて、あっ、と声にならない声をあげる。ネクタイをほどいた彼が、かぶさってくる。

 ほおをひと撫でされて、かんざしが抜かれてしまう。ほどけた髪に指を通した彼が、顔を近づけてくるから、押し返すように胸に手を当てていた。

「キスは……、必要ですか……?」

 千隼さんには必要ないもののような気がして、そう尋ねていた。

「必要ですよ」

 そのまま、唇が触れ合った。

 千隼さんのぬくもりを直に感じて、戸惑う。ずっと好きだった彼は中性的で繊細なイメージだったのに、思うより肉厚な感触がやけにリアルだった。

 どうしたらいいのだろう。このまま、彼と身体を重ねるのが怖い。思いもよらない現実を突きつけられて、引き返したくなる。

「千隼さん……、あの、やっぱり……」

 乱れてもいない胸元をぎゅっと握りしめると、骨太の指がたやすく私の指を一本一本引きはがしていく。

「今さら、反故にしてはいけないですよ」
「こ、このようなことは実は初めてで……心の準備が……」
「初めて」

 少々驚いたように、組み敷かれた私の全身を眺めおろした彼は、何も聞かなかったかのように着物の前身に手をかけた。

「あの……」
「今夜は、嫌われようとも引けませんので」
「お待ちになって。あっ……」

 無意識に、逃げようと身がよじれた。意図せずして肩から着物がずるりと下がり、胸元があらわになってしまう。

 あわてて隠そうとする前に、大きな手に覆われて、指が食い込んでくる。同時に、耳に唇が触れて、顔をあげるとそのまま唇を塞がれた。

 二度目のキスは、遠慮がなかった。深く重なれば重なるほど、厚みを感じていた唇が、とろけるように柔らかくなる。

 思わず伸ばした指で、彼の髪をすいた。手を伸ばせば、彼に触れられるなんて、と目頭がじわりと熱くなる。
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