冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる

水城ひさぎ

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寄り添う心に新たな出会い

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***


 真夜中の西園寺家は、しんと静まり返っている。鳥や虫たちさえも、息を押し殺しているかのように沈黙している。跡取りを亡くした、深い悲しみに包まれているようだ。

 裏門から駐車場に入り、裏道を通って、つゆりのいる離れへとつながる裏口へ向かう。

 すべて、裏。それは俺の人生をあざ笑う、見事なまでの裏。

 西園寺惣一郎が表なら、桐生千隼は裏だ。同じ父を持ちながら、惣一郎の陰に生きてきた俺が、表の世界に出ることはない。それを忘れるな、と戒められているようだ。

 それならば、俺とつゆりの間に生まれてくる子は、裏か。穏やかで幸せな家庭で育ちながら、出生の秘密に苦しむ未来があるのだとしたら、俺はもう、つゆりに会うべきじゃない。

 そう思うのに、俺は今夜もまた、裏口の鍵を開けるのだ。

「さすがにもう、寝てるか……」

 離れの入り口を照らす灯り以外、俺を導く光はない。今夜は曇りで、月も見えない。

 あれから、毎夜と言っていいほど、つゆりに会いに来ている。

 彼女は、いつ来るかもわからない俺を、ほとんど起きて待っているが、寝いすにもたれて眠っていることもある。

 起きて待っているときは、彼女もそのつもりがあるのだと、勝手な想像をふくらませ、欲望を満たすがごとく抱いていた。眠っているときは、唇を合わせてみたり、肌に触れたり、それこそ、彼女が許す限りの愛撫をした。

 つゆりの肌はとてもきめ細やかで綺麗で、触れるだけで疲れを癒やせる。そんな彼女に指一本も触れなかった惣一郎は、よほど彼女を大切にしていたのだろう。

 俺はそんな気持ちを踏みにじり、西園寺武彦の命令に逆らえないつゆりを、騙すかのように抱いた。

 初めてつゆりに出会ったのは、彼女が高校生の時だった。若く、あどけない美貌と、落ち着いた透明感のある清楚さを兼ね備えた彼女は、お人形のように美しかった。

 六歳年上の俺は当時、大学生だった。同期、知人、友人……その誰よりも美しいつゆりに、瞬く間に心を奪われた。

 つゆりが好きだ。会うたび、その思いは膨れ上がった。しかし、まだ高校生だった彼女に思いは告げられず、この気持ちは隠してきた。

 そうして過ごすうちに、彼女の婚約が決まった。よりによって、異母兄弟の惣一郎が相手だった。

 諦める以外の選択肢なんて、俺には与えられていなかった。

 その後、何人かの女性と付き合ってみたが、うまくいかなかった。綾城堂へ行けば会えるつゆりが、やっぱり好きだった。

 つゆりでなければ、結婚はしない。子どもも望まない。そういう人生でいいのだと思って、仕事に没頭する毎日を過ごしていた。その矢先、惣一郎が死んだ。

 なぜだ。なぜ、死んだ。つゆりを残して。あまりにも無責任じゃないか。

『惣一郎さん……どこ……』

 心地よく目覚めたはずの、あの朝のつゆりが忘れられない。

 つゆりを初めて抱いた翌朝、彼女の身体にはまだ俺の余韻が残っていたはずなのに、隣で眠る俺にすがるのではなく、惣一郎を探した。わかってはいたが、つゆりが俺を好きになる日など来ないのだと打ちのめされた。

 俺たちに与えられた時間は、半年だという。半年もすれば、つゆりは惣一郎を忘れ、俺を好きになるだろうか。

 限りなくゼロに近い可能性を胸に、だけれど、ゼロではない可能性を信じ、今日も寝室の戸を開ける。
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