28 / 60
ひたひたと迫る厄災
4
しおりを挟む
***
つゆりは部屋にいなかった。暖房が効いた室内には、さっきまでいたであろう彼女の気配が残っている。待っていれば、すぐに戻るだろう。
座卓の前であぐらをかき、目の前にある茶封筒に目を落とす。封筒の右下には、『さわやま病院』と印字されている。
何かの検査結果だろうか。気になって持ち上げると、封筒に重なっていたパンフレットが、たたみの上に落ちた。
「不妊外来……」
パンフレットに刻まれた文字を、確認するようにぽつりと読み上げたとき、ふすまがゆっくりと開く。
「千隼さん、いらしてたんですね」
パジャマ姿のつゆりが、気恥ずかしそうに姿を見せる。
綾城堂では、着物姿の彼女と対面することが多く、気品にあふれた清楚な女性だなと思っていたが、パジャマ姿の彼女は、まだ22歳の、年相応に可愛らしい女性だ。
生乾きの髪はゆるく波打ち、保湿された肌は艶やかだ。化粧をしていなくても、とても美しい顔立ちで、俺にもっと見せてほしいと願うのだが、彼女はやはり恥ずかしいようで、今さらだが、あまり見ないでほしいとうつむき加減に俺の隣に座る。
「ご覧になりました?」
つゆりの視線は、俺の持つパンフレットに注がれている。
「ああ……、勝手にすみません」
中までは見てないと、封筒とパンフレットを元に戻すと、彼女は最初から隠す気などなかったようにすんなり言う。
「先日、さわやま病院で婦人科の検診を受けてきたんです。千隼さんにご迷惑をかけているのに、私の体のせいで赤ちゃんができないなら申し訳なくて」
「そんなことは気にしなくていいと思いますが、検診は否定しませんよ。結果はどうでしたか?」
つゆりの気の済むようにしたらいい。尋ねると、彼女は明るく笑む。
「はい、大丈夫でした。でも、最近は結婚前に不妊スクリーニング検査というものを受けられる方もいると教えてもらいました」
「それが、このパンフレットですか」
「悩むぐらいなら、受けてみてもいいと思うんですけど……」
「そうですね。俺も調べてみようかな」
改めて、パンフレットを開き、気軽に言うが、つゆりは驚いたみたいだった。
「千隼さんが?」
「そうですよ。つゆりに、俺の子を産んでもらいたいと思うので」
さらりと言えば、彼女は恥ずかしそうにほおを赤らめる。
「あの……、それは、その……」
「ん?」
「あ、いえ……、西園寺さまのお言いつけだから、ですよね」
何を動揺してるんだろう。ちょっとからかってみたくなる。
「つゆりが好きだから、と思った?」
「あ……、ち、違いますっ」
激しく首を振るしぐさを見ていると、苦笑してしまう。どうして、冗談まじりにからかってしまったのか。彼女の反応次第では、勢いに任せて告白してしまおうとでも、俺は考えていたか。
つゆりは部屋にいなかった。暖房が効いた室内には、さっきまでいたであろう彼女の気配が残っている。待っていれば、すぐに戻るだろう。
座卓の前であぐらをかき、目の前にある茶封筒に目を落とす。封筒の右下には、『さわやま病院』と印字されている。
何かの検査結果だろうか。気になって持ち上げると、封筒に重なっていたパンフレットが、たたみの上に落ちた。
「不妊外来……」
パンフレットに刻まれた文字を、確認するようにぽつりと読み上げたとき、ふすまがゆっくりと開く。
「千隼さん、いらしてたんですね」
パジャマ姿のつゆりが、気恥ずかしそうに姿を見せる。
綾城堂では、着物姿の彼女と対面することが多く、気品にあふれた清楚な女性だなと思っていたが、パジャマ姿の彼女は、まだ22歳の、年相応に可愛らしい女性だ。
生乾きの髪はゆるく波打ち、保湿された肌は艶やかだ。化粧をしていなくても、とても美しい顔立ちで、俺にもっと見せてほしいと願うのだが、彼女はやはり恥ずかしいようで、今さらだが、あまり見ないでほしいとうつむき加減に俺の隣に座る。
「ご覧になりました?」
つゆりの視線は、俺の持つパンフレットに注がれている。
「ああ……、勝手にすみません」
中までは見てないと、封筒とパンフレットを元に戻すと、彼女は最初から隠す気などなかったようにすんなり言う。
「先日、さわやま病院で婦人科の検診を受けてきたんです。千隼さんにご迷惑をかけているのに、私の体のせいで赤ちゃんができないなら申し訳なくて」
「そんなことは気にしなくていいと思いますが、検診は否定しませんよ。結果はどうでしたか?」
つゆりの気の済むようにしたらいい。尋ねると、彼女は明るく笑む。
「はい、大丈夫でした。でも、最近は結婚前に不妊スクリーニング検査というものを受けられる方もいると教えてもらいました」
「それが、このパンフレットですか」
「悩むぐらいなら、受けてみてもいいと思うんですけど……」
「そうですね。俺も調べてみようかな」
改めて、パンフレットを開き、気軽に言うが、つゆりは驚いたみたいだった。
「千隼さんが?」
「そうですよ。つゆりに、俺の子を産んでもらいたいと思うので」
さらりと言えば、彼女は恥ずかしそうにほおを赤らめる。
「あの……、それは、その……」
「ん?」
「あ、いえ……、西園寺さまのお言いつけだから、ですよね」
何を動揺してるんだろう。ちょっとからかってみたくなる。
「つゆりが好きだから、と思った?」
「あ……、ち、違いますっ」
激しく首を振るしぐさを見ていると、苦笑してしまう。どうして、冗談まじりにからかってしまったのか。彼女の反応次第では、勢いに任せて告白してしまおうとでも、俺は考えていたか。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました
春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる