冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる

水城ひさぎ

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ひたひたと迫る厄災

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「いやですか?」
「あ……、いいえ。慣れなくて……緊張してしまったみたい」
「そういう時もありますね。今日はやめておきましょうか?」
「せっかく来てくださったのに、それでは申し訳が立ちません……」
「俺の準備はできていますけどね。気持ちが乗るまで、話をしましょうか」

 そう言いながら、つゆりをひざの上へ抱きあげる。小柄な彼女は、すっぽり腕の中へおさまってしまう。

 子を得るための行為とは関係ないからと、拒んだりしない彼女がより愛おしく、髪をゆるりとなでる。

 こうして身体を寄せ合って、穏やかな会話を弾ませる時間は、抱き合っているときとはまた違う幸福を覚える。つゆりもきっと、以前と変わらず、俺との会話を楽しんでくれているのだろう。

「今日は、華道教室でしたか」

 つゆりの日常に思いを馳せる。彼女は西園寺家に嫁ぐために、綾城堂でさまざまな研鑽を積んでいる。

「はい。今日は桜の生け方を。もうすぐ桜の季節ですので」
「桜を自宅で楽しめるのは、ぜいたくですね」
「お花屋さんで購入できますし、お手軽に楽しめると思います」
「そうは言っても、俺はやらないなぁ」

 笑うと、つゆりも目を細めてほほえむ。

 彼女の笑顔を見ると心が穏やかになる。だから俺も、ついつい、じょうぜつになる。

「春になると、新しい生徒さんが増えますね」
「新しい生徒さん……、そうですね、今日も……あ、いいえ、なんでも」
「何か?」
「いえ、何も」

 余計なことを口走ったと反省するように、彼女は口をつぐむ。

「気になりますね。新しい生徒の方が来られましたか?」
「生徒さんではないんですけれど」
「生徒じゃないとは、どういう?」
「あの、心配はいらないと思うんです。あやしむところは何もなくて、たまたまだったのかと」

 口ごもりながら、早口で言うから、要領がつかめない。

「つゆり、落ち着いて。もっとわかるように話してください」
「……実は、先月から西園寺家を何度かのぞいてる男性がいるのです」

 思いがけない話だ。

「西園寺? 綾城ではなく?」
「はい。伊吹が何度も見かけるというので心配していたのですが、今日、その男性が誰かわかったんです」
「どなただったんです?」
「岩山颯太さんという方です。岩山学習塾を経営されている方で、奥さまと産まれたばかりのお子さんがいらして、とても快活な明るい方なんです」

 その岩山という男が、綾城堂へやってきたのだというが、口ぶりからして、あやしい雰囲気など何もない青年なのだろう。

「その男が西園寺家をのぞいていた、と」
「ですから、たまたまだったのかも」
「たまたま……とは考えにくいですけどね。西園寺家をどなたかのお宅と間違うとは考えにくいですし」
「飯田さんが気にしてくださると言っていたので、千隼さんはご心配なさらず」

 俺を心配してか、つゆりは深入りしないようにと釘をさす。

 飯田という人は、たしか、綾城家専属の運転手だったか。彼に気づかれないよう、俺も注意して、つゆりの部屋を訪ねている。

「俺の出入りがバレてなければいいですけどね」
「そうですね……、千隼さんにもお伝えした方がいいでしょうか。岩山さんのお車は青いスポーツカーなんです。ナンバーは控えましたので、えっと、メモが……」

 メモを取りに行こうと、つゆりが離れようとするから、そっと腰を引き寄せて行かせないようにする。

「千隼さん……?」
「あとでいいです。そろそろ、よろしいですか?」
「よろしいって……」

 耳もとに顔を寄せ、抱きたいです、とストレートに誘うと、つゆりがほおを赤らめて、はい、と小さくうなずくから、そのまま彼女を抱き上げて、隣の寝室へと進み入った。
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