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ひたひたと迫る厄災
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裏口から頻繁に婚約者の部屋を訪ねてきては、夜な夜な何をしているのか、天音はわかっているのだろう。
結婚式を来月に控えた中、体の具合が悪いと言いながら、婚約者を頻繁に抱きにくる。結婚式前に子を作ろうと焦ってるのではないか、焦るほど具合が悪いのではないか、天音は心配しているのだ。
それは一見、好都合で、私は沈黙するしかできない。
「つゆり。お母さんはつゆりの身体を心配しているんですよ。お腹が気になるようなら、早めにお医者さまに相談しないと」
「……わかっています。大丈夫ですから」
「本当に大丈夫なのね?」
「お医者さまには行っていますから」
そう言うと、天音はまだ何か言いたげではあったが、あまりうるさく言いたくないのか、話題を変えた。
「今日は岩山さんがご夫妻で来られるのよね」
「散歩がてら、30分ほど寄られるとうかがいました。お子さんはご主人が見ているそうなので、奥さまは講義の様子を少し見学できたらと思ってるみたいです」
颯太からの電話で受けた話の詳細を告げる。
「お子さんとご主人はつゆりにお願いしようと思ってるの」
「はい、任せてください」
そのつもりでいた。胸に手をあてて力強くうなずくと、天音もようやくほおをゆるめて笑む。
「では、お願いしますね」
岩山颯太とすみれ夫妻は、10時前に綾城堂を訪れた。
講義が行われる部屋へ案内すると、あいさつもそこそこに、天音が柔らかな笑みで、すみれの抱っこする赤ちゃんの顔をのぞき込む。
「男の子? 凛々しいお顔」
「ええ、はい」
すみれは少し戸惑うように後ろへさがり、ひかえめにうなずく。彼女は大人しく、あまり会話にグイグイと入ってこないタイプだろう。
「なんてお名前?」
天音は遠慮がない。すやすや眠る赤ちゃんが起きてしまうのではないかと、見てる方がヒヤヒヤする。
「トワ、と言います。叶えるに、羽で、叶羽」
「そう、叶羽くん。良いお名前」
天音がそう言うと、すみれは唇をキュッと引き締める。そして、緊張をほどくように肩でひと呼吸したあと、少し大きめの声を発した。
「彼が……、彼が考えてくれたんです。自由を得て大きく羽ばたき、夢を叶える子に育ちますようにって願いを込めて。窮屈な人生になりませんようにって。幸せを得ることさえ強要される人生なんておかしいでしょう、と」
口数の少ない女性だと思っていたすみれが、挑戦的に語ったから、私と天音は少々驚いて顔を見合わせた。
結婚式を来月に控えた中、体の具合が悪いと言いながら、婚約者を頻繁に抱きにくる。結婚式前に子を作ろうと焦ってるのではないか、焦るほど具合が悪いのではないか、天音は心配しているのだ。
それは一見、好都合で、私は沈黙するしかできない。
「つゆり。お母さんはつゆりの身体を心配しているんですよ。お腹が気になるようなら、早めにお医者さまに相談しないと」
「……わかっています。大丈夫ですから」
「本当に大丈夫なのね?」
「お医者さまには行っていますから」
そう言うと、天音はまだ何か言いたげではあったが、あまりうるさく言いたくないのか、話題を変えた。
「今日は岩山さんがご夫妻で来られるのよね」
「散歩がてら、30分ほど寄られるとうかがいました。お子さんはご主人が見ているそうなので、奥さまは講義の様子を少し見学できたらと思ってるみたいです」
颯太からの電話で受けた話の詳細を告げる。
「お子さんとご主人はつゆりにお願いしようと思ってるの」
「はい、任せてください」
そのつもりでいた。胸に手をあてて力強くうなずくと、天音もようやくほおをゆるめて笑む。
「では、お願いしますね」
岩山颯太とすみれ夫妻は、10時前に綾城堂を訪れた。
講義が行われる部屋へ案内すると、あいさつもそこそこに、天音が柔らかな笑みで、すみれの抱っこする赤ちゃんの顔をのぞき込む。
「男の子? 凛々しいお顔」
「ええ、はい」
すみれは少し戸惑うように後ろへさがり、ひかえめにうなずく。彼女は大人しく、あまり会話にグイグイと入ってこないタイプだろう。
「なんてお名前?」
天音は遠慮がない。すやすや眠る赤ちゃんが起きてしまうのではないかと、見てる方がヒヤヒヤする。
「トワ、と言います。叶えるに、羽で、叶羽」
「そう、叶羽くん。良いお名前」
天音がそう言うと、すみれは唇をキュッと引き締める。そして、緊張をほどくように肩でひと呼吸したあと、少し大きめの声を発した。
「彼が……、彼が考えてくれたんです。自由を得て大きく羽ばたき、夢を叶える子に育ちますようにって願いを込めて。窮屈な人生になりませんようにって。幸せを得ることさえ強要される人生なんておかしいでしょう、と」
口数の少ない女性だと思っていたすみれが、挑戦的に語ったから、私と天音は少々驚いて顔を見合わせた。
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