冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる

水城ひさぎ

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隠し切れぬ思いの未来

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 颯太は天音から用紙を預かり、すみれに見せる。そこに並んでいるのであろう、信じがたい文字を見て、彼女はぼう然とする。

「いつ……」

 ようやく、すみれがつぶやくと、武彦が答えた。

「惣一郎は1月18日にこの世を去りました。バイクの事故で、即死だったそうです」
「1月? ……18日って」

 すみれは診断書を颯太から奪い取り、その日付を確認する。

「これには、今日亡くなったってっ」
「隠せるものなら隠したまま、つゆりさんと結婚させるつもりだった」
「そんなことって。じゃあ、つゆりさんは全部知って……」

 身を乗り出すすみれを、颯太がとどめる。しかし、ふたりの目はまっすぐ私に向けられていた。

「18日、惣一郎さんはバイクでお出かけになりました。いま思うと、とても上機嫌だったような気がいたします」

 私はそう言って、すみれの腕に抱かれる叶羽に視線を移した。

 今でも思い出す。あの日の惣一郎さんは、いつもよりとても穏やかだった。

「叶羽くんの誕生日は1月ですよね?」
「……じゃあ、惣一郎さんは叶羽に会いに来る途中に……? だって、18日はお見舞いに来てくれるって」
「惣一郎さんはいつも、どこへお出かけになるのか、私にはおっしゃいません。ただ、信じて待つようにと、それだけです。お約束があったのなら、そうなのでしょう」

 私と惣一郎さんの関係性を、すみれは知らなかっただろう。惣一郎さんが私の話を恋人に話すとは思えない。

 すみれは何を思っただろう。あわれみ、申し訳なさ……、そんなところだろうか。

「そんな……、綾城さんはいつもそんな思いで、惣一郎さんの帰りを待って……」
「惣一郎さんはお優しい方です。無用な心配はさせません」

 それが、私に示した彼の愛情なのだと、毅然と背筋を伸ばせば、すみれは苦しそうに背を丸め、「申し訳ありません」と、くぐもった声で泣いた。

 あなたにはわからないだろう。私と惣一郎さんの絆を。私にもわからないだろう。あなたと惣一郎さんの絆を。だけど、私たちの間にも、絆は確かにあったのだ。

「綾城さん、大変申し訳ありませんでした」

 武彦が天音に謝罪する。彼女も、ハッと我にかえり、胸に手を当てた。

「西園寺さん……、何も知らないこととはいえ、失礼なことを……」
「私の身勝手で、つゆりさんを巻き込んでしまいました。甘えていたのです。つゆりさんなら、西園寺の窮地を救ってくれる、と。本来なら、惣一郎の死を受け入れ、すべて明るみにするべきでした。もし、もう一つ、身勝手をお許しくださるなら、惣一郎の息子であるその子を、西園寺に養子縁組し、つゆりさんとの婚約を解消させていただきたい」

 ふたたび、武彦は深々と頭を下げた。

 誰もが、武彦の申し出に神経を尖らせ、沈黙した。

 静寂が続く中、ピンと伸ばした背中に、そっと手が触れた。温かくて大きな手のひらが誰のものであるかは、すぐにわかった。

 私はようやく張っていた気を抜いて、無言の天音の手に触れた。

「私はかまいません。惣一郎さんと過ごした日々の記憶が、それで消えるわけではありませんから」
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