佐藤くんは覗きたい

喜多朱里

文字の大きさ
50 / 68

佐藤くんは覗きたい(前編)

しおりを挟む
「あんっ」

 挿入した肉棒を抜き出すと、有村さんから可愛らしい喘ぎ声が漏れた。

「ご、ごめん」
「……忘れてっ」
「ナニモ、キイテナイヨ」

 陰茎からコンドームを取り外して、中身が溢れ出さないように縛り上げる。
 指先で摘んでぶら下げてみると、先端の精液溜まりが白く染まり丸々と膨らんでいた。

「一杯出たね」
「うっ」
「これもだめなの!?」
「敏感になってるので、股間も耳も」
「男の子って大変だね」
「……そうだね」

 世の中の男性に頭を下げなくてはならないかもしれない。
 有村さんが身体を起こして、寝転がっていた枕や布団を振り返りぷるぷると震え出した。

「どうしたの?」
「あわわ、汗でぐっしょりになっちゃった」
「寝るところなら幾らでもあるよ、心配しないで。それよりもこのままじゃ風邪を引いちゃうからシャワーを浴びてこようか」
「一緒に入る?」
「……お先にどうぞ」
「佐藤くんが風邪を引いちゃうよ」
「無限ループに入りそうで」

 有村さんが首を傾げる。
 絶頂の余韻で羞恥心が欠けているけどお互いに裸のままだ。風呂に一緒に入れば裸を見続けることになる。もしも賢者タイムを過ぎ去ればすぐさま臨戦態勢に移行してしまう。

「わたしは気にしないから。ほらほら、一緒に行くよー」
「……一緒にイク」
「違うよっ!? あっ……ループって……もう、佐藤くんのえっち。そんなにしたいの?」
「そう訊かれたら回答が一択で困る」
「そ、そんなにしたいんだぁ」
「有村さんは、一択でしたい方だと思うんだ」
「うぅぅっ、引っ掛けられた……」

 有村さんが指を絡めてもじもじと見上げてくる。

「でも、本当にしたくないの?」
「したいに決まってるだろ!」
「嬉しいけどやっぱり恥ずかしいよ!」

 熱血台詞みたいに叫んでみたが、僕の方も恥ずかしかった。

「……馬鹿をやってないで、お風呂行こっか」
「そうだね」

 バスタオルを身体に巻き付けて風呂場へと向かった。
 お風呂場という明るい空間で目にする有村さんの裸は、肌を重ね合った後だとまた見え方が違うような気がした。
 むしろ世界の見え方が変わったのかもしれない。
 これが童貞を卒業した男の視座――なんてくだらない思考を必死で回して、有村さんと二回戦に突入するのを必死で耐え切ったことだけはここに記しておく。


    *


「さっきまでは気にならなかったけど、お布団がさわさわしてくすぐったいね」
「寝る時は着ないって言う人は居るから、慣れると気持ち良いのかもよ」

 有村さんは僕の腕枕に頭を乗せて寝転がると、気恥ずかしそうに口元まで掛け布団を引き上げる。布団の中に隠された風呂上がりの身体は、お互いに一糸まとわぬ姿のままだった。
 髪を乾燥させている間に敷き直した布団は、元々来客用で有村さんが使う予定だったものだ。
 家族なら一緒の布団で寝るよね、という有村さん式家族万能論によって、激しい戦いを生き残ったベッドは、一晩中二人分の体重を支える役目を与えられた。合掌。

「ベッド狭くなっちゃうのに、わがまま聞いてくれてありがとうね」
「こんなのわがままの内に入らないよ」
「今日はたくさん甘えちゃってるから」
「どれも甘えた内に入らないよ。有村さんはもっとわがままになっていいぐらいなんだから。少なくとも僕に対しては好きなだけお甘えてほしい」

「うぅぅ……佐藤くん、優し過ぎるよぉ」
「有村さんは一人で頑張り過ぎだよ」
「そんなに言うならもっともっと甘えちゃうからね」
「遠慮なくどうぞ」

 甘えられるのはむしろご褒美だ。

「……もうちょっと、くっついてもいい?」
「ここからもうちょっと?」
「こうするのっ」

 有村さんが身を捩りながら寄せてきた。
 肘先から二の腕まで頭を動かして、胸元に額を押し当ててきた。

「んふふー」

 にんまりと笑う顔に腕の痺れも吹き飛んだ。

「あの時、佐藤くんに声を掛けて良かった」

 透き通る秋空、鮮やかな黄葉、静かな校舎――情景のすべてが一瞬で脳裏に蘇る。教室前のベランダに寄り掛かって、ぼんやりと秋模様を眺めていると、背後から呼び掛ける声があった。

 ――佐藤くん。

 今となっては耳に馴染んだ普通で特別な呼び方。

「……ずっとね、みんなが仲良くできたら良いのにって思ってた。でもあの人のこと、どんどん変わっちゃう友達のこと……一杯一杯になって、そんな時に佐藤くんを見付けたの」

 教室の隅でぼっちを貫く僕の姿に有村さんは憧れたと言っていたのを思い出す。人の輪に混じらなくても自分を見付けられて自由に振る舞える。そんな柵のない生き方が眩しかったのだと。

「声を掛けるようになって佐藤くんを知っていくと、どんどん好きになった。一緒に居たいと思った」

 有村さんは唇を尖らせた。

「でも佐藤くんはわたしがあんなにアピールしても何も反応してくれなくて……佐藤くんは誰にでも優しいから、わたしのことたくさん見てくれるけど、特別だなんて思えなかった」
「ぼっちに察しては難易度が高過ぎるよ」
「……気付いてたのにスルーしてたの知ってるんだからね」
「はい、ごめんなさい」

「ふふ、わたしこそ意地悪を言ってごめんね。でも佐藤くんがのらりくらりとするから、絶対に逃がすもんかーって頑張れた!」
「……とっくに観念してました」
「口に出さなかったら分かんないもん」
「ごもっともです、はい」
「冗談っぽい言い方だから反省してないのはお見通しだよ」

 これまでに僕が覗きを繰り返していた間、有村さんもまた僕の心を覗き続けていた。きっとこの先、僕は隠し事をできなくて苦労するのだろう。

「佐藤くんへの気持ちが、どんな形を求めていたのか今日になってようやく気付けて……他の何もなくても、みんなの中に居なくても、佐藤くんと居るだけでわたしはわたしで居られるの」

 有村さんが儚げに微笑んだ。
 考えも想いも見抜いていて、それでも遠回りしてきたのは臆病だったから。本当にその通りなのか確信を手にしたくて、あの手この手で反応を誘う。
 大切な気持ち抱いてしまった瞬間から急に視野は狭くなり、何もかも疑うようになって簡単な思いさえ見落としてしまう。

「これで全部……特別なところなんて一つもない、ありのままのわたしだよ」
「それが僕にとっての特別なんだよ」

 僕は有村さんを力強く抱き竦めた。
 かつて果たせなかったみんなが笑顔になれる教室――それを特別な力がなくても求め続けてきた姿が、何よりも眩しくて、愛おしくて、幸せにしたいと思ったんだ。

「みんなに向けてた気持ち、佐藤くんにだけ向けるんだよ。きっと重い女だよ」
「知ってる」
「ふふ、否定してくれないんだ」

 儚い雰囲気は笑顔に溶けて消えた。

「あっ、そうだ、良いこと思い付いた」

 有村さんが布団に潜り込んだ。
 前髪がお腹をくすぐって腰が震えてしまうが、有村さんの腕がぎゅっと回されて身動きを封じられた。

「うっ……!」

 湿った感触が触れたあとお腹に鋭い痛みが走った。
 僕の体をよじ登るように布団から顔を出す。

「これで佐藤くんはわたしだけのもの……なんてねっ」

 お腹を撫でると有村さんにキスマークを付けたのと同じ辺りの肌が熱を帯びていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...