異世界転生した俺らの愉快な魔王軍

喜多朱里

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第二章:城塞都市クレイル

城塞都市クレイル

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 城塞都市クレイル。
 ルベリスタ王国の北方に広がる未開拓地域と接する都市であり、森や山々から溢れ出した魔物を迎撃する防波堤の役目を担っていた。時には未開拓地域にも足を踏み入れて魔物の間引きまで行っており、防衛戦術だけでなく魔物狩りの専門家が多く常駐している。

 クレイルの成り立ちを知るには王国史を紐解く必要がある。
 城塞都市が築かれる前は、一帯の土地を支配していたのは獣人達だった。
 彼らは王国に属さず、あらゆる交渉を退けていた。
 集落の規模を考えれば武力による支配は容易かった。王国が強引な手を使わなかったのは、彼らが建国に貢献した獣人族の子孫だったからである。

 ルベリスタ王国の初代国王は北方の未開拓地域の果てにある雪山を越えた先――現在は八葉連合という小国の集まりがある――からやってきた。
 山越えによって疲弊していた初代国王と仲間達は、森の中で体を休めていると、森に集落を築いていた獣人族に取り囲まれてしまった。
 当時は人間と獣人の間にほとんど交流がなく、現代のように人族という括りで仲間意識は存在していなかった。そのため出会い頭に一触即発の事態に陥った。危うく殺し合いに発展する寸前で両者は矛を収めることになる。
 国王の威光によって平伏した獣人族は、旅の手助けを申し出て一行に加わった、と歴史書には記されている。初代国王を称える逸話の一つとして教育を受けた王国民であれば誰もが知っている内容だ。

 歴史を専門に学ぶ者が触れる資料として、当時の旅に同行していた従者の手記がある。そこには国王の粘り強く巧みな交渉がなければ凄惨な終わりを迎えただろう、と震えた文字で記されている。
 この時、国王が獣人族に語った内容は記録されていない。獣人族側の記録では騙されて利用されたとある。結果的には国王の活躍に嘘はないが、現実は威光によるものではなく、もっと有り触れた出来事だったのかもしれない。
 その後に王国と袂を分かつ獣人が現れた事実を考えれば、種族や生まれ育った風土による価値観の違いによる擦れ違いであったと考えるのが有力だ。

 国王の引き連れた一行は、現在の王都が築かれた平地まで辿り着いた。しかし狩猟文化で育った獣人族の多くは農耕文化に馴染めず、絶えることのない領土争いに嫌気が差して故郷の土地へと帰っていったと記されている。
 長い時が経ち、王国と獣人の交わりは王国史の中だけで語られるようになった頃、王国は南方への領土拡大に乗り出そうとしていた。しかし北方の獣人は既に王都を脅かす脅威に成長しており、決して放置できる存在ではなくなっていた。
 北方の不安を取り除くため、王室は信頼の厚いヴェストファーレン伯爵を交渉人として獣人族の集落に送り込んだ。

 長きに渡る交渉が実を結んで、ヴェストファーレン伯爵は各部族との同盟関係を築くことに成功する。
 各部族の酋長と伯爵は良好な関係を保ち、やがて当時最強の部族であった白狼族の若き酋長が伯爵家に婿養子として入り、家督を引き継くことで完全に王国へと併合される形となった。
 伯爵家当主となった白狼族の酋長は、王国から改めてヴェストファーレン辺境伯の称号と北方地域における強い独自裁量権を与えられて、現在まで続く城塞都市クレイルの都市長を代々兼任することになる。

 併合後の城塞都市クレイルは、北方から現れる魔物以外にも大きな問題を抱えていた。
 その一つが王国――文明の発展を敵視する獣人族との対立だ。
 ヴェストファーレン伯爵の活躍で、一度は関係の絶たれた王国と獣人は和解したように見えたが、同盟時や併合時に王国の支配下に置かれることを嫌った者達が、クレイルから飛び出して未開拓地域内に独自の集落を作り上げてしまったのである。

 彼らはセフィロト教の原理主義を貫くマーテル派を名乗った。マーテル派誕生の経緯を遡れば建国に協力した獣人族に辿り着く。
 王国に対して積極的に攻撃を仕掛けてくることはないが、北方の森や山に王国民が踏み入ることを嫌っており、開拓作業が進まない最大の原因になっていた。
 魔物の間引きや調査依頼で踏み入る冒険者が少数精鋭にならざるを得ないのは、大人数で行けば彼らとの関係悪化を免れないためだ。
 無闇に自然を破壊したり、動植物に横暴な振る舞いをしない限りは警告に留めてくれるので、最悪の事態にまだ陥っていないのが不幸中の幸いだった。

 そして現在、城塞都市クレイルに新たな問題が幾つも降り掛かっていた。
 遡ること二週間前、北方未開拓地域の奥深く、深い森を抜けた先に広がるマルクト丘陵を襲った【流星魔法】が原因で、これまで絶妙な均衡を保ってきた生態系に大きな変化が生じてしまった。
 最も大きな被害は魔物の出没頻度が激増したことである。激化した縄張り争いによって棲家を奪われた魔物が続出しているのだ。

 更には未知の魔法は陰謀論を生み出した。
 森に住まうマーテル派とクレイルの市民はお互いの仕業ではないかと疑心暗鬼に囚われてしまい、これまで築き上げてきた僅かな信頼にも亀裂が入ってしまった。
 王国領土のどこからでも見ることができた【流星魔法】は、都市に様々な思惑を持った者達を引き寄せた。限られた者達だけが出入りする都市に余所者が増えれば治安は悪化する。魔物だけでなく人族の犯罪者に対しても目を光らせる必要が出てきてしまった。

 賑やかになる都市の裏で陰謀と疑念が渦巻く。
 もはや後戻りはできない。
 たった一つの魔法で城塞都市クレイルの生活は変わり果てたのだ。

 ――という情報を、先行して潜伏中のサンドワームのトシゾウは地中奥深くで聞くのであった。
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