異世界転生した俺らの愉快な魔王軍

喜多朱里

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第二章:城塞都市クレイル

生還者(5)

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 コン、ココン、コンコンコン。
 リズミカルなノックの音に釣られて扉を振り向いた。
 クレイルで最も地位の高い都市長に対して、子ども染みた振る舞いをするなんて一体何者だろうか。
 跪いていたブランカの溜息が聞こえてきたので、どうやら彼女には心当たりがあるようだった。

「お邪魔するでー!」

 部屋の主の許可を待たずに勢い良く扉が開かれた。
 ロゼは執務室に入ってきた人物に大きく目を見開いた。

「おやおや、本当にお邪魔してもうたみたいやな」
「王都に残った筈のフィルギヤ副代表が何故ここに……?」
「ウチはそのフィルギヤ副代表やけど……ああ! なるほどなるほど。一応は初めましてになるんやな、第三王女様」

 まるでレナーテのように慇懃無礼な態度でお辞儀をした。

「ウチはレネ・フィルギヤ。もう一人の副代表をさせて頂いております」

 顔を合わせればきっと驚くとリーサから予め伝えられていたが、その意味をよく理解できた。
 鏡写しのようにレネとレナーテはそっくりだった。
 服装は王立魔法研究所の制服とは違って、一目に高級品とわかる豪奢なローブを身に纏っていたるが、それ以外は雰囲気や振る舞いの癖まで気持ち悪いぐらいに瓜二つだ。

「レネ嬢、何度も申し上げているが、ノックというものは返事を待たなければ意味がない」
「この顔触れの中で堅いこと言うのは無しやで、ブランカちゃん」
「王女殿下がいらっしゃるのだが」
「仲良し小好しの同盟を結んだから問題ないんよ」
「同盟、ですか」

 ブランカは空いている椅子をレネに勧めて、リーサがいつの間にか紅茶を注いだティーカップを差し出そうとして――物の見事に何もないところで転けて盛大にぶちまけた。
 レネは慣れた様子で飛び散る紅茶を避けた。

「失礼致しました」

 リーサは何食わぬ顔で立ち上がると、【片付け魔法】ですべてを元通りにした。
 レネは入れ直した紅茶を受け取ると苦笑を浮かべる。

「リーサちゃんは相変わらずやね」
「フィルギヤも悪戯が過ぎますよ」
「ネタばらしはローウェルが作った仮設研究所ですればええやろ」

 レネはニヤリと笑いながらロゼに視線を向けてきた。

「レナーテが知っていることはウチもすべて知っているという前提で話してもらえれば構わへん。改めてよろしゅうな、王女様」
「……リーサさんは、あなたを室長とお呼びしましたね」

 まさか別行動でレナーテ本人もクレイルにやって来ていたのだろうか
 それならばそっくりである理由も納得できる。何せ本人なのだから。

「ほら、リーサちゃんがヒントを出し過ぎるから」
「私はロゼさんの味方ですので」
「ふーん、ロゼさんね……なるほどやんな」

 レネはやれやれと大きく肩を竦めた。

「そう難しい話ではないんよ。ウチはレネやけど、レナーテでもある。逆にレナーテはレネでもある。正真正銘の同一人物。ウチらは【双体魔法】によって生み出された肉体を使って別の場所に同時に存在できるんや」

 まだ理解が完全には追い付いていないがなんとなく把握できた。

「つまり同時に二人の自分が居るために便宜上、名前を使い分けているのですね」
「大正解や。毎日寝ている時に記憶や経験を同期するから、ほぼほぼ同一人物と考えてもらっても問題ないで。でもどっちがどっちか決めておかないと不便やし、同期を取れない状況が続けば経験の違いで別の存在になっていく。だからあくまでウチはレネとして扱うようにお願いします」

 ふと引っ掛かりを覚える。
 レネは自身の固有魔法を【双体魔法】と呼んでいたが、果たして二つの体というのは正確にはどういう意味を持つのだろうか。

「一つ疑問があるのですが」
「ん? 何が気になるん?」
「王都に居るレナーテさんとここに居るレネさん……どちらが本体なのでしょうか」
「あっはっ、どっちやと思うー?」

 レネは嘲笑いながら質問を質問で返してきた。
 答える気がないのは明白だった。

「……いえ、愚問でしたね」
「ふふっ、ウチもレナーテと一緒で王女様のこと嫌ってへんよ。ただなあ、お互いに深い話するには、もうちょーっと仲良くなってからやな」

 レネは優雅に紅茶を口に運ぶ。
 王女と都市長の座る交渉の場に相応しい一流の所作だった。

「王女様はブランカちゃんと大切なお話の最中だったんやろ。良ければウチも混ぜてくれへん?」

 場を荒らすだけ荒らした張本人にも関わらず、何事もなかったかのように話を戻した。
 横暴というほど勝手ではなく、自由と呼ぶにはわがままで、なんとも本心の掴めない振る舞いだ。

(まだフィルギヤ商会の真意は掴めませんが、私との関係性は安易に明かしていい手札ではない。つまり辺境伯は取り込む価値のある存在ということなのでしょうね)

 意図を汲み取ったことを目配せで伝えると、レネは愉しげに頬をつり上げた。
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