パワー・オブ・ザ・デッド

喜多朱里

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 その日は重苦しい曇天空だった。
 日差しの隠れた朝は厳しい寒さで、関東地方も最低気温でマイナスを記録する地域が存在した。
 地方都市『比良坂』もまた、その内の一つで、通学・通勤中の住人はマフラーに首を埋めて、凍える身体を震えさせながら足早に歩いていた。

 誰も彼もが昨日と変わらない日常を過ごしていた。
 そしてこれからも何も変わらない日々が続くのだと思い込んでいた。

 ――始まりは交通事故だった。

 交通網のハブになっている比良坂中央駅の前を通る道路を一台の大型トラックが走っていた。
 信号は青に切り替わったばかりで、トラックはスピードを緩めず交差点に進入する。直進でそのまま抜けていくところだったが、ビルの隙間から飛び出してきた人影が赤信号を無視して飛び出してきた。

 飛び出してきた人影――帽子を目深に被った青年は、酔っ払っているのか足元はふらついており、クラクションを鳴らされてもその場から動こうとしなかった。
 トラック運転手は慌てふためいて、ブレーキを踏み込みながらハンドルを切った。
 横転したトラックは歩道を突っ込んでいき不運な歩行者を巻き込んだ。

 通勤ラッシュ時の不幸な事故に戦慄した。
 轢かれそうになった青年を助けようと突き飛ばした女子校生が、運悪く横転するトラックに巻き込まれてしまい、頭を強く打ち付けて首が不自然な方向に曲がっていた。

 素人目に見ても即死だと分かった。
 その死んだ筈の女子校生がむくりと起き上がる。
 ショックで呆然としていた友人の女子が駆け寄って抱き締めた。

 奇跡の生存にむせび泣く――その顔を凄まじい力で殴り飛ばした。
 不自然に曲がった首をかくかくと揺らしながら、死んだ筈の女子校生は倒れ込んだ友人に馬乗りになった。血走った目に理性はない。生前の彼女が大笑いした時のように犬歯を剥き出しにして――友人の喉元に突き立てた。

 その背後で、横転に巻き込まれて死んでしまった被害者が次々と立ち上がり出した。
 そして一斉に走り出して、周囲の人間に襲い掛かる。
 死者が生者を狩る阿鼻叫喚の地獄が幕を開けた。
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