星のこころを奪って、捧げてみせてよ。

夕木

文字の大きさ
1 / 1

第一話 おひさまの下で遭う

しおりを挟む
 「人はみな輝いている」という言葉は真だと思う。

 病床につく人もくたびれた社会人も、全員にそれなりの価値があって、心は眩しく光っているんだろう。"生きている"というだけで。


 でも……






 
 それがどうしようもなく、苦しいんだ。


 ____________



 仕事の昼休憩に、リフレッシュのために散歩に出てみようと思い立った。13時になるころに、自分の勤め先のクリニックを後にした。

 ぼーっと道路を歩く。この住宅街は、人の気配が少ないせいか、どこか静かで、時間が止まったような空気をしている。

 聞こえるのは、自分の足音と、木々が風に揺れる音だけだった。

 6月上旬の昼下がりは暑い。けれど、吹き抜ける爽やかな風が心地よくて、思った以上に気分転換になりそうだ。暗い気持ちがすっと消えていく。

 10分ほど気分に従い歩いたところで、複数人のはしゃぐような声が聞こえた。高さからして、きっと子供のものだろう。気になって、声のする方へ行くことにした。

 進んだ道の突き当たりには、公園があった。サッカーコート程度の、かなり大きめの公園だ。
 入口から奥までは一本の砂の道が伸びていて、それ以外は芝生だ。またブランコや鉄棒、滑り台、登り棒など、様々な遊具が点在している。

 右手側では保育園児と先生による色鬼ごっこが開催中。黒から虹色まで、色とりどりな会話をするその声、表情、仕草の全てからは楽しさが溢れ出ている。

 左手側には対照的に一人しかいない。東屋のような場所で、こちらに背を向けて座る少女だ。高校の制服と思しき服を着ているから、きっと高校生だろう。藍のショートヘアを風になびかせながら本を読んでいる。
 流石に感情は読み取れないが、後ろ姿が全くと言っていいほど動いていないから、読書に集中しているんだろう。

 また、砂の道をたどった奥には自販機があった。ちょうどいい、紅茶でも買って、そろそろ引き返そう。そう、前に進みながら考える。

 ふわり。自分の足元へ、風に乗って何かが運ばれた。思わず拾い上げる。それは栞だった。星空を白い額に閉じ込めたような柄。

 ああ、彼女のものだ。瞬間的に理解し、東屋へと足を運ぶ。

「すみません。この栞、あなたのものですか?」

 くるり、彼女がこちらを見る。少し水色を帯びた瞳と視線が合う。

「あっ、私の!ありがとうございます!」

 こちらまでつられて笑ってしまいそうなほど、明るい声だった。まるでアニメの世界から出てきたみたいな、はっきりとした笑顔。でもなんだろう、どこか……

「これ、大切にしてるやつなんです!お兄さん、本当にありがとうございます!」


 言い終わると、より一層ニコッと笑う……その時だ。




 ――その笑顔の奥に、ひび割れたガラスのような脆さが、確かに見えた気がした。




 心が大げさなほどにギュッと縮む。

 ああ、高校生というのはそういうものなのか?はたまた自分が過剰に反応しすぎているだけなのか?分からないが――



「いえいえ……ところで、どんな本を読んでいるんですか?」



 このまま去ってしまうとすぐに消えてしまいそうで、いつの間にかさらなる質問を投げかけていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...