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Shall we Step and Stop?
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もうどれだけ歩いただろうか。
足が錆びた鉄棒のようになり、もう一歩踏み出そうと自身を奮起しても、ソレが動くことはない。強い葛藤の末、私のカラダはついにただの人形のようにパタリと重力に従い、くらい歩道の真ん中に伏せた。
人の声や街灯から湧き出る煩わしい光など一切見えない。そのことに今までにないほどに安心してさらに力が抜ける。指一つ動かせない。ああ、もう私が元のニンゲンへと戻れることはないのだ。これから私はどうするべきなのだろうか。
こんな場所に、しかもこの深夜に人が通るとは思えない。それに今になって気がついたがここは随分と寒い。私の心臓が一つなるごとに、風も一つ吹き荒れて、私の体温をじわりと奪ってゆく。最後の希望を搾り取るようで、とても気分が悪い。私はもうこのまま、意識が尽きるのを待つしかないのだ。ああせめて、私があの時歩き出していなければ、ここまで希望の存在しないさいごを迎えることはなかったのだろうか。それともこんな寂れた場所を選び、歩いてきたのが間違いだったか?いやしかし、あの時の私に選択肢だなんてものは!
「大丈夫ですか?」
その時、心地の良い芯の通ったテノールの声が風や鼓動の音をかき消し、耳へと入ってきた。気がついたら、私はその声へ返答をしていた。
「ぇえ、大丈夫、ですよ」
声を出したのは何時ぶりだろうか。かすれた醜い声は、なんとか彼の耳へと届いたようだ。
「はは、繕わなくてもいいのに。あなたもこのバスに乗りに来たのでしょう?」
「バス?」
予想していなかった言葉に動かなかったはずの首はひとりでに回転し、彼の声がする方へ目をやった。そこには一人の会社員のような風体のほっそりとした男性がいた。その顔は、私の記憶の中にあるニンゲンのものよりもずっと青白かった。
「もしかして、このことを知らずにここへたどり着いたのですか」
「ええ。えっと、バスとは、どういうことですか?こんなところにバスだなんて……」
「あなた、思っていたよりもずっと限界なんですね。ほら、あなたのすぐ右横にあるでしょう、バス停が」
右を見ると、そこにはしっかりと、私のわずか五歩先ほどにバス停の看板があった。錆びてほとんど文字やデザインは見えなくなってしまっている。
「きっと、もうすぐで来ると思いますよ。ああ、ほら、噂をしたら――」
彼の言葉通り、私の進んできた方向から一台の鉛色のバスがやってきて、私の眼前にあるバス停へと止まった。
「あなたも、ご一緒に乗りますか?歩かずとも勝手に自身を運んでくれるだなんて、きっとあなたが求めていたものそのものだと思いますが」
その彼の言葉は痛いほどに的を射ていた。錆びたカラダは勝手に動き出して、そのバスを目指していた。一歩、また一歩、バスに近づき、そしてついにバスへ乗る段差の前まで来た。その段差は、私が幼き頃にのったバスのそれよりも遥かに低かった。これぐらいなら、自身の擦り切れた体力でもなんとか乗り込むことが出来る。片足を震わせながら上げて、段差へと裏側をつける。その足へ重心を移し替えて、もう片方の少し力が入らなくなった足を宙へと持ってきて、そして段差の上へと置いた。
ああ、乗れた、乗れたんだ――
瞬間、とてつもないほどの多幸感に襲われる。このバスに乗っていたら、元の道へと帰れるかもしれない。感極まって、バスの床に這いつくばり、幸福に酔いながら呻いた。赤子のように何度も、何度も呻き続けた――
私が今の状況を客観的に見られるようになったのは、おそらくその数時間は後の話であった。気がつけば、私はバスのドアにもたれるようにうずくまっていた。多幸感はもう存在せず、記憶も少し曖昧なものの、先程は確かに今までにない程幸福であったということだけは断言ができる。
バスは今も動いたままらしい。周りを見渡しても、あの時の彼と、運転手が一人、そして運転手と私達の客席を妨げる少し濁った仕切りが一枚、それ以外には何も見つけられなかった。あのうざったらしい光や、人のざわめきすら入ってこなかった。よくよく見ると、バスの窓はすべて黒塗りにされているようだ。それは私にとってありがたかったものの、少し不気味であった。私はとりあえずその場から立ち上がり、椅子に座っていた彼に声をかけることにした。
「あの、えっと、すみません」
「ああ、起きたのですか。もう元気そうですね」
そういえば、あの時疲れ切って動かなくなっていた私のカラダは、もうすっかりと回復して動かせるようになっていた。こう感じることはとても久しぶりで、そのせいかとても気分がいい。
「ええ、このバスのおかげですよ。ゆっくり休憩できて、もうすっかり回復しました。えっと、ところでこのバスは今どのあたりを走っているのですか?」
「さあ?まったく検討もつきません。バスが動き出してからどのくらい経ったのか、どの程度の速さで、どの道を進んでいるのか、すべて私にはわかりません」
「……どういうことですか」
「私も、あなたと同じ状態だということです。先程まで、幸福に浸っているただの人形だったのですよ」
「私と同じ……すみません、意味がわからないのですが、結局このバスは何なのですか?」
「ああ、説明していませんでしたね。このバスは、人間社会に限界を迎えた者たちが乗る、”小さなノンステップバス”です。一度乗れば、自身の今後の選択意思と引き換えに、命尽きるまでの幸福をくれるのです。しばらくすれば、また先程のような幸福に包まれることが出来ますよ」
「……それは本当なのですか?」
「ええ、私が嘘を付く理由なんてないではないですか」
「そんな……でもそんなの、私は……」
「必要なかったですか?本当に?このバスがなければ、あなたはどうせあそこで死んでいました。それよりも、このバスに乗っていたほうが何倍も充実した最期を味わえる、そうでしょう?」
「たしかにそうですが……えっと、というか、どうしてあなたはわかっていてこのバスへ?あなたも限界だったのですか?」
「ッ……ぇえ、私はえっと、私は弱いので、その、他の人達みたいに挑戦しながら生きることに疲れてしまいまして。周りには、私よりずっとずっと有能で、ポジティブで、それとあと、周りを元気にできる人ばっかりで。私みたいに、すぐ逃げてしまう脆い人間だなんて、その、いませんでしたから……」
いままで芯を持っていたはずのその声は、確かに震えていた。その眼はもうニンゲンとして生きることを諦めていた。それに対して、どうしようもないほどの恐怖や嫌悪感を抱く。それが同族嫌悪でないことを願う。そんな足掻きはもう無駄なのか?私も同じそれを持っているのだろうか?いや、そんなはずはない。私はまだ、ニンゲンの道へと戻ることが出来るはずだ。バスはしばらくすれば止まるのだから。その時に降りて、またニンゲンの道を目指せば良い、それだけの話だろう?今の私には、それが出来るほどの体力があるのだから……
「無理ですよ。あなたはきっと、ここから降りようと考えているでしょうけれど、それは無理なんです」
「どうしてですか?というよりどうして私の考えていることが分かって……」
「あなたの瞳は、少なくともまだ希望を持っていますから。しかし、どれだけ願ってもこのバスからは降りられませんよ。次の駅に着く頃には、私達はもう死んでいます。これは終点まで、私達が最期を迎えるまで、”ノンストップで走るバス”なのです」
「そんな、じゃあ……いや、きっとそれはただの噂話です。きっとここから出られる方法がどこかに……最後まで希望を持っていれば、いつかは!」
「……ねえ、もう、諦めましょうよ。」
「……ぇ?」
やけに冷たい声だった。
「私の勝手でこんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思っています。ですが、私達のようなニンゲンのなりそこないにとって、幸福に包まれながら最期を迎えられるというのはとても贅沢なことでしょう?それに、出られたところでニンゲンの道に帰るだなんて出来ませんよ。これはどうせ、ニンゲンの道へ向かうバスなんかではなくて、ニンゲンの道から更に遠くへと向かうバスです。ここからあがいたって、すべてが無駄ですよ。どうせニンゲンの道へ帰るまでに疲れ切って野垂れ死ぬのがオチです。先程少し言ったように、私達には選択の自由などもうないのですよ」
「ああ、そうなんですか……希望だなんて、ないのですか……」
「ええ、それに、きっともうすぐでまた幸福に浸れますよ。何も考えなくていい、ただただ自由な時間がくるのです。それは、あなたが望んだものそのもの、でしょう?」
ああ、そうだ、そのとおりなのだ。私は何十年も前から今まで、自由を求めて旅をしていたのだ。それなのに目の前にある自由から逃げるだなんて、そっちのほうが愚かじゃないか。結局、もう希望も絶望も何も無いんだ。だったら、私の醜く擦り切れた命を目の前の快楽に身を委ねてしまおう。こんな命を捧げるだけで幸福を味わえるだなんて、ずっとずっと幸運で、光栄なことじゃないか……
そう決意した瞬間、体内の小さな幸せを自覚する。
それは心臓が一つなる事に大きく、手がつけられなくなっていく。
だんだんと、脳に幸福が供給されていって、ピリピリと電流がぜんしんに走って、カラダがまひしていく。
いしきが、と切れそうになってくる。
ああ、なんてさいこうな結末なんだ!
かいらくをまえにわたしは、なにも反こうせず、じがを、いま、はなす――
足が錆びた鉄棒のようになり、もう一歩踏み出そうと自身を奮起しても、ソレが動くことはない。強い葛藤の末、私のカラダはついにただの人形のようにパタリと重力に従い、くらい歩道の真ん中に伏せた。
人の声や街灯から湧き出る煩わしい光など一切見えない。そのことに今までにないほどに安心してさらに力が抜ける。指一つ動かせない。ああ、もう私が元のニンゲンへと戻れることはないのだ。これから私はどうするべきなのだろうか。
こんな場所に、しかもこの深夜に人が通るとは思えない。それに今になって気がついたがここは随分と寒い。私の心臓が一つなるごとに、風も一つ吹き荒れて、私の体温をじわりと奪ってゆく。最後の希望を搾り取るようで、とても気分が悪い。私はもうこのまま、意識が尽きるのを待つしかないのだ。ああせめて、私があの時歩き出していなければ、ここまで希望の存在しないさいごを迎えることはなかったのだろうか。それともこんな寂れた場所を選び、歩いてきたのが間違いだったか?いやしかし、あの時の私に選択肢だなんてものは!
「大丈夫ですか?」
その時、心地の良い芯の通ったテノールの声が風や鼓動の音をかき消し、耳へと入ってきた。気がついたら、私はその声へ返答をしていた。
「ぇえ、大丈夫、ですよ」
声を出したのは何時ぶりだろうか。かすれた醜い声は、なんとか彼の耳へと届いたようだ。
「はは、繕わなくてもいいのに。あなたもこのバスに乗りに来たのでしょう?」
「バス?」
予想していなかった言葉に動かなかったはずの首はひとりでに回転し、彼の声がする方へ目をやった。そこには一人の会社員のような風体のほっそりとした男性がいた。その顔は、私の記憶の中にあるニンゲンのものよりもずっと青白かった。
「もしかして、このことを知らずにここへたどり着いたのですか」
「ええ。えっと、バスとは、どういうことですか?こんなところにバスだなんて……」
「あなた、思っていたよりもずっと限界なんですね。ほら、あなたのすぐ右横にあるでしょう、バス停が」
右を見ると、そこにはしっかりと、私のわずか五歩先ほどにバス停の看板があった。錆びてほとんど文字やデザインは見えなくなってしまっている。
「きっと、もうすぐで来ると思いますよ。ああ、ほら、噂をしたら――」
彼の言葉通り、私の進んできた方向から一台の鉛色のバスがやってきて、私の眼前にあるバス停へと止まった。
「あなたも、ご一緒に乗りますか?歩かずとも勝手に自身を運んでくれるだなんて、きっとあなたが求めていたものそのものだと思いますが」
その彼の言葉は痛いほどに的を射ていた。錆びたカラダは勝手に動き出して、そのバスを目指していた。一歩、また一歩、バスに近づき、そしてついにバスへ乗る段差の前まで来た。その段差は、私が幼き頃にのったバスのそれよりも遥かに低かった。これぐらいなら、自身の擦り切れた体力でもなんとか乗り込むことが出来る。片足を震わせながら上げて、段差へと裏側をつける。その足へ重心を移し替えて、もう片方の少し力が入らなくなった足を宙へと持ってきて、そして段差の上へと置いた。
ああ、乗れた、乗れたんだ――
瞬間、とてつもないほどの多幸感に襲われる。このバスに乗っていたら、元の道へと帰れるかもしれない。感極まって、バスの床に這いつくばり、幸福に酔いながら呻いた。赤子のように何度も、何度も呻き続けた――
私が今の状況を客観的に見られるようになったのは、おそらくその数時間は後の話であった。気がつけば、私はバスのドアにもたれるようにうずくまっていた。多幸感はもう存在せず、記憶も少し曖昧なものの、先程は確かに今までにない程幸福であったということだけは断言ができる。
バスは今も動いたままらしい。周りを見渡しても、あの時の彼と、運転手が一人、そして運転手と私達の客席を妨げる少し濁った仕切りが一枚、それ以外には何も見つけられなかった。あのうざったらしい光や、人のざわめきすら入ってこなかった。よくよく見ると、バスの窓はすべて黒塗りにされているようだ。それは私にとってありがたかったものの、少し不気味であった。私はとりあえずその場から立ち上がり、椅子に座っていた彼に声をかけることにした。
「あの、えっと、すみません」
「ああ、起きたのですか。もう元気そうですね」
そういえば、あの時疲れ切って動かなくなっていた私のカラダは、もうすっかりと回復して動かせるようになっていた。こう感じることはとても久しぶりで、そのせいかとても気分がいい。
「ええ、このバスのおかげですよ。ゆっくり休憩できて、もうすっかり回復しました。えっと、ところでこのバスは今どのあたりを走っているのですか?」
「さあ?まったく検討もつきません。バスが動き出してからどのくらい経ったのか、どの程度の速さで、どの道を進んでいるのか、すべて私にはわかりません」
「……どういうことですか」
「私も、あなたと同じ状態だということです。先程まで、幸福に浸っているただの人形だったのですよ」
「私と同じ……すみません、意味がわからないのですが、結局このバスは何なのですか?」
「ああ、説明していませんでしたね。このバスは、人間社会に限界を迎えた者たちが乗る、”小さなノンステップバス”です。一度乗れば、自身の今後の選択意思と引き換えに、命尽きるまでの幸福をくれるのです。しばらくすれば、また先程のような幸福に包まれることが出来ますよ」
「……それは本当なのですか?」
「ええ、私が嘘を付く理由なんてないではないですか」
「そんな……でもそんなの、私は……」
「必要なかったですか?本当に?このバスがなければ、あなたはどうせあそこで死んでいました。それよりも、このバスに乗っていたほうが何倍も充実した最期を味わえる、そうでしょう?」
「たしかにそうですが……えっと、というか、どうしてあなたはわかっていてこのバスへ?あなたも限界だったのですか?」
「ッ……ぇえ、私はえっと、私は弱いので、その、他の人達みたいに挑戦しながら生きることに疲れてしまいまして。周りには、私よりずっとずっと有能で、ポジティブで、それとあと、周りを元気にできる人ばっかりで。私みたいに、すぐ逃げてしまう脆い人間だなんて、その、いませんでしたから……」
いままで芯を持っていたはずのその声は、確かに震えていた。その眼はもうニンゲンとして生きることを諦めていた。それに対して、どうしようもないほどの恐怖や嫌悪感を抱く。それが同族嫌悪でないことを願う。そんな足掻きはもう無駄なのか?私も同じそれを持っているのだろうか?いや、そんなはずはない。私はまだ、ニンゲンの道へと戻ることが出来るはずだ。バスはしばらくすれば止まるのだから。その時に降りて、またニンゲンの道を目指せば良い、それだけの話だろう?今の私には、それが出来るほどの体力があるのだから……
「無理ですよ。あなたはきっと、ここから降りようと考えているでしょうけれど、それは無理なんです」
「どうしてですか?というよりどうして私の考えていることが分かって……」
「あなたの瞳は、少なくともまだ希望を持っていますから。しかし、どれだけ願ってもこのバスからは降りられませんよ。次の駅に着く頃には、私達はもう死んでいます。これは終点まで、私達が最期を迎えるまで、”ノンストップで走るバス”なのです」
「そんな、じゃあ……いや、きっとそれはただの噂話です。きっとここから出られる方法がどこかに……最後まで希望を持っていれば、いつかは!」
「……ねえ、もう、諦めましょうよ。」
「……ぇ?」
やけに冷たい声だった。
「私の勝手でこんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思っています。ですが、私達のようなニンゲンのなりそこないにとって、幸福に包まれながら最期を迎えられるというのはとても贅沢なことでしょう?それに、出られたところでニンゲンの道に帰るだなんて出来ませんよ。これはどうせ、ニンゲンの道へ向かうバスなんかではなくて、ニンゲンの道から更に遠くへと向かうバスです。ここからあがいたって、すべてが無駄ですよ。どうせニンゲンの道へ帰るまでに疲れ切って野垂れ死ぬのがオチです。先程少し言ったように、私達には選択の自由などもうないのですよ」
「ああ、そうなんですか……希望だなんて、ないのですか……」
「ええ、それに、きっともうすぐでまた幸福に浸れますよ。何も考えなくていい、ただただ自由な時間がくるのです。それは、あなたが望んだものそのもの、でしょう?」
ああ、そうだ、そのとおりなのだ。私は何十年も前から今まで、自由を求めて旅をしていたのだ。それなのに目の前にある自由から逃げるだなんて、そっちのほうが愚かじゃないか。結局、もう希望も絶望も何も無いんだ。だったら、私の醜く擦り切れた命を目の前の快楽に身を委ねてしまおう。こんな命を捧げるだけで幸福を味わえるだなんて、ずっとずっと幸運で、光栄なことじゃないか……
そう決意した瞬間、体内の小さな幸せを自覚する。
それは心臓が一つなる事に大きく、手がつけられなくなっていく。
だんだんと、脳に幸福が供給されていって、ピリピリと電流がぜんしんに走って、カラダがまひしていく。
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