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君へ贈りたかった歌
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もしかしたらまたこの話の続きを書くかもしれません。
ジャンル――青春、切ない
今は、六時間目の国語の授業。先生が何かを話しているが、あまり耳に残らない。最近はなんだかやる気がでなくて、授業をよく聞いていないときのほうが多い。私は『五月病』ならぬ『七月病』かもしれない。
今にも落ちてしまいそうな眼を、校庭でバスケットボールをする一年生の子たちを見てなんとか保つ。年が一つしか違わないのに、なんであんなにも純粋で、元気いっぱいに見えるんだろう。中学生にとっての一年間の重みは、想像よりもずっと重いらしい。そんな事を考えて、授業が終わるのを待つ。
「――部分について、少し難しいかもだが、どうしてこんな行動をしたと思う?」
あ、これ先生の気分で当てられるやつだ。やばい、質問を全く聞いていなかった。まあ聞いていたとて、答えがなにか検討もつかないだろうけど……どうか当てられませんように。
「じゃあ……睦月、答えろ」
右隣の席に座った、私の『昔なじみ』、睦月 蒼が当てられる。よかった、きっと蒼なら正解するから、私にこの質問が飛んでくることはないだろうな。ほっと胸を撫で下ろす。
「はい、自分の本心に気づいていながら、それを認めるのが怖かった主人公ですが、最終的に人は変わっていくものだとそれを受け入れたからだと思います」
「ああ、完全正解だ。すごいな、睦月」
「ありがとうございます」
蒼がなんとでもないような冷静な面持ちで口を閉じる。その様子が昔の共に遊び回った『あおい』とはどうも重ならなくて、私なんかより遥かに成長した姿を突きつけられて、胸騒ぎがする。
多分、これを嫉妬というんだろう。持つことをはばかられる感情だ。でも、こんな状況下なら仕方ないんじゃない?だって蒼は勉強、特に国語は大の得意だし、運動も平均以上、果てには並外れた芸術センスもあるんだから。そんなふうに、壁に貼られた『睦月 蒼 殿』へ送られた絵画コンクールでの金賞を称える賞状を踏まえたら思ってしまうんだ。これは言い訳なのかな……。
「……」
私は黙って蒼を見た。窓からの日差しが彼の横顔を優しく照らしていて、その光景があまりにも眩しくって――胸の奥がチクリと痛む。
(蒼はもう昔のあのあおいじゃないんだ)
――夕焼けの中で一緒に作った秘密基地。二人だけの合言葉。夏休みに食べた80円のバニラアイスの味――
全部覚えているのは私だけなのかもしれない。そう思うと、どうしようもないほどさみしくって、虚しくなる。
ふと、蒼がこっちを向く。少しのまごつきと驚きを表現するその顔は、いざ正面から見るとかなり整っていた。思春期真っ盛りの女子中学生ならば、すぐにころっと恋に落ちてしまいそうな罪を背負っている。でも、私はそんな少女たちの心情をはっきりと理解することができない。私は、恋や愛ができるほどに大きくなれてはいないんだ。
「……どうした?」
かすれた、小さなささやき声。蒼だけどあおいじゃない声。ああそっか、声変わりなんてものがあったな。
「――別になんでも。窓からの光が眩しいから、こっち向いてただけ」
蒼は眉を少し八の字に歪める。瞬時に戻ってしまったけれど、少しあおいの面影が見えて、嬉しかった。
「そう。くれぐれも、授業はちゃんと聞いとけよ」
そう言い残して、彼は前に向き直った。ああ、退屈な時間が始まった。チャイムの音がなるまで、また外で体育の授業を受ける一年たちを眺めていよう。
小学校卒業からわずか3,4ヶ月しか経っていない子たちの目は、確かに私達のものよりキラキラしていて、寂しさを覚えた。
ああ、そういえば、蒼と遊ばなくなったのもちょうど一年前ぐらいだったっけ。自然と中学校に入って距離が遠ざかっていったんだ。別のクラスだったし、蒼は部活に入っていないのに対して私は週4放課後練、週3朝練があるバレーボール部に入っているから登下校の時間もなかなかあわなかった。それに、蒼は蒼で厳し目の集団塾に行ってて、平日はもちろん、土曜も一日中勉強らしいからね。
今年は一緒のクラスになったけど、新学期の日にみた蒼は、小学生の頃一緒にはしゃぎまわっていた『あおい』とは雰囲気も何もかも違った。いかにも優等生という感じで、中学校でできたらしい友人と穏やかな会話をしていた。未だに小学生の頃と同じように、部活仲間たちとキャーキャー騒ぎながら勉強なんてせずに過ごしている私とは大違いだ。
キーンコーンカーンコーン、と聞き飽きたチャイムがなる。学級委員の合図に合わせて起立、気をつけ、礼を形だけでもして、授業は終わった。
今日は私じゃないみたいに落ち込んでしまった。はあ、もう疲れたし、今日は部活もサボってすぐに帰ろうか。そんな思考の外では、面倒なだけの終礼がなされていて、先生が教壇で話している。
――ああでも、帰るだけじゃもっと落ち込んでしまうのかな。でも部活し得るほどの気力はないし……。
そうだ。学校の屋上でぼーっとしていよう。私達の学校は、屋上がずっと開けられているのだ。もう新年度が始まってからかなり時間がたったし、カップルとかがやってきたとしても、流石に屋上の端っこ、貯水タンクの裏までは来ないだろう。日当たりも良くて、夏風が感じられて、一人になれる。なんていい場所なんだろう。そんなこんなで、今日の放課後の予定が決定した。
その後先生にさようなら、と言って、終礼は終わった。
カバンに今日は一度も見なかった教科書たちを詰めて、屋上へ向かう。途中同じバレーボール部の友達から一緒に部活へ行こうと誘われたけれども、今日は用事があるから休むと嘘を言って、強引に振り切ってきた。
四階にある階段を登り、屋上への扉を開く。いい塩梅で日があたり、風が吹いている。八ヶ月ぶりにきたが、やっぱりとても気持ちがいい。一人だと、より一層理解できる。屋上の隅に腰を下ろして、いつもと違うアングルから毎日通る道を見る。
歩いて下校する人、学校の周りを何度も走る陸上部の人。先輩も後輩も、ここから見たらみんな小さくて、でも私よりずっと心は大きいように見える。
風が吹くたびにもやもやが飛ばされて心が楽になっていく。けれど次の風が来るまでに、胸の奥がまたチクリと痛んだ。
ぐるりぐるりと血とともに廻る感情を、どうにかして止めたい。そう思うたびに回転速度はさらに速くなっていく。目が回ってしまいそうだ。ふらふらする。
その時、風に乗って美しい音色が響いてきた。きっとフルートの音だ。ああなるほど、このすぐ下にあるのは音楽室だ。きっと吹奏楽部が練習をしている最中の音色を、音楽室の空いた窓から風が運んできてくれたんだろう。
その歌は何度も聞いて、歌った曲だった。小学校四年生ぐらいの夏休みに、暇だからって秘密基地で蒼といっしょに何度も奏でた曲だった。
爽やかな音階が私の心を刺激する。気づけば、私もその歌を口ずさんでいた。あの時の私と蒼がユニゾンして奏でる音色を思い出す。今と比べたらもちろん下手だ。でも、そのユニゾンによるハーモニーは、もう今はどう頑張っても聞けないものだ。もう蒼はこの高さの音が出せなくなっているだろうから。
だんだんと、この曲に対する思い入れは増していく。私は昔の私達に混ぜてもらうように、その歌を歌う。私の頭の中では、三人のハーモニーが紡がれていく。これも、風に乗って気持ちとともに誰かに届いていくのかな。そうだったら嬉しいな。
そうしていると、なんだか気持ちが楽になってきた。もう大丈夫そうだ。自然だけは、私のすべてを流してくれる。落ち込んだらまたこの場所にきて、太陽や風たちに向かって無邪気に歌を歌おうかな。
でも、そろそろ太陽が沈み始めてしまいそうだ。もう、帰ろう。
私は階段を駆け下りて、校門をくぐり、太陽を背にして、家への道を歩き始める。
その道筋にいた、他のクラスメイトと話しながら歩いている蒼には、見て見ぬふりをして。
ジャンル――青春、切ない
今は、六時間目の国語の授業。先生が何かを話しているが、あまり耳に残らない。最近はなんだかやる気がでなくて、授業をよく聞いていないときのほうが多い。私は『五月病』ならぬ『七月病』かもしれない。
今にも落ちてしまいそうな眼を、校庭でバスケットボールをする一年生の子たちを見てなんとか保つ。年が一つしか違わないのに、なんであんなにも純粋で、元気いっぱいに見えるんだろう。中学生にとっての一年間の重みは、想像よりもずっと重いらしい。そんな事を考えて、授業が終わるのを待つ。
「――部分について、少し難しいかもだが、どうしてこんな行動をしたと思う?」
あ、これ先生の気分で当てられるやつだ。やばい、質問を全く聞いていなかった。まあ聞いていたとて、答えがなにか検討もつかないだろうけど……どうか当てられませんように。
「じゃあ……睦月、答えろ」
右隣の席に座った、私の『昔なじみ』、睦月 蒼が当てられる。よかった、きっと蒼なら正解するから、私にこの質問が飛んでくることはないだろうな。ほっと胸を撫で下ろす。
「はい、自分の本心に気づいていながら、それを認めるのが怖かった主人公ですが、最終的に人は変わっていくものだとそれを受け入れたからだと思います」
「ああ、完全正解だ。すごいな、睦月」
「ありがとうございます」
蒼がなんとでもないような冷静な面持ちで口を閉じる。その様子が昔の共に遊び回った『あおい』とはどうも重ならなくて、私なんかより遥かに成長した姿を突きつけられて、胸騒ぎがする。
多分、これを嫉妬というんだろう。持つことをはばかられる感情だ。でも、こんな状況下なら仕方ないんじゃない?だって蒼は勉強、特に国語は大の得意だし、運動も平均以上、果てには並外れた芸術センスもあるんだから。そんなふうに、壁に貼られた『睦月 蒼 殿』へ送られた絵画コンクールでの金賞を称える賞状を踏まえたら思ってしまうんだ。これは言い訳なのかな……。
「……」
私は黙って蒼を見た。窓からの日差しが彼の横顔を優しく照らしていて、その光景があまりにも眩しくって――胸の奥がチクリと痛む。
(蒼はもう昔のあのあおいじゃないんだ)
――夕焼けの中で一緒に作った秘密基地。二人だけの合言葉。夏休みに食べた80円のバニラアイスの味――
全部覚えているのは私だけなのかもしれない。そう思うと、どうしようもないほどさみしくって、虚しくなる。
ふと、蒼がこっちを向く。少しのまごつきと驚きを表現するその顔は、いざ正面から見るとかなり整っていた。思春期真っ盛りの女子中学生ならば、すぐにころっと恋に落ちてしまいそうな罪を背負っている。でも、私はそんな少女たちの心情をはっきりと理解することができない。私は、恋や愛ができるほどに大きくなれてはいないんだ。
「……どうした?」
かすれた、小さなささやき声。蒼だけどあおいじゃない声。ああそっか、声変わりなんてものがあったな。
「――別になんでも。窓からの光が眩しいから、こっち向いてただけ」
蒼は眉を少し八の字に歪める。瞬時に戻ってしまったけれど、少しあおいの面影が見えて、嬉しかった。
「そう。くれぐれも、授業はちゃんと聞いとけよ」
そう言い残して、彼は前に向き直った。ああ、退屈な時間が始まった。チャイムの音がなるまで、また外で体育の授業を受ける一年たちを眺めていよう。
小学校卒業からわずか3,4ヶ月しか経っていない子たちの目は、確かに私達のものよりキラキラしていて、寂しさを覚えた。
ああ、そういえば、蒼と遊ばなくなったのもちょうど一年前ぐらいだったっけ。自然と中学校に入って距離が遠ざかっていったんだ。別のクラスだったし、蒼は部活に入っていないのに対して私は週4放課後練、週3朝練があるバレーボール部に入っているから登下校の時間もなかなかあわなかった。それに、蒼は蒼で厳し目の集団塾に行ってて、平日はもちろん、土曜も一日中勉強らしいからね。
今年は一緒のクラスになったけど、新学期の日にみた蒼は、小学生の頃一緒にはしゃぎまわっていた『あおい』とは雰囲気も何もかも違った。いかにも優等生という感じで、中学校でできたらしい友人と穏やかな会話をしていた。未だに小学生の頃と同じように、部活仲間たちとキャーキャー騒ぎながら勉強なんてせずに過ごしている私とは大違いだ。
キーンコーンカーンコーン、と聞き飽きたチャイムがなる。学級委員の合図に合わせて起立、気をつけ、礼を形だけでもして、授業は終わった。
今日は私じゃないみたいに落ち込んでしまった。はあ、もう疲れたし、今日は部活もサボってすぐに帰ろうか。そんな思考の外では、面倒なだけの終礼がなされていて、先生が教壇で話している。
――ああでも、帰るだけじゃもっと落ち込んでしまうのかな。でも部活し得るほどの気力はないし……。
そうだ。学校の屋上でぼーっとしていよう。私達の学校は、屋上がずっと開けられているのだ。もう新年度が始まってからかなり時間がたったし、カップルとかがやってきたとしても、流石に屋上の端っこ、貯水タンクの裏までは来ないだろう。日当たりも良くて、夏風が感じられて、一人になれる。なんていい場所なんだろう。そんなこんなで、今日の放課後の予定が決定した。
その後先生にさようなら、と言って、終礼は終わった。
カバンに今日は一度も見なかった教科書たちを詰めて、屋上へ向かう。途中同じバレーボール部の友達から一緒に部活へ行こうと誘われたけれども、今日は用事があるから休むと嘘を言って、強引に振り切ってきた。
四階にある階段を登り、屋上への扉を開く。いい塩梅で日があたり、風が吹いている。八ヶ月ぶりにきたが、やっぱりとても気持ちがいい。一人だと、より一層理解できる。屋上の隅に腰を下ろして、いつもと違うアングルから毎日通る道を見る。
歩いて下校する人、学校の周りを何度も走る陸上部の人。先輩も後輩も、ここから見たらみんな小さくて、でも私よりずっと心は大きいように見える。
風が吹くたびにもやもやが飛ばされて心が楽になっていく。けれど次の風が来るまでに、胸の奥がまたチクリと痛んだ。
ぐるりぐるりと血とともに廻る感情を、どうにかして止めたい。そう思うたびに回転速度はさらに速くなっていく。目が回ってしまいそうだ。ふらふらする。
その時、風に乗って美しい音色が響いてきた。きっとフルートの音だ。ああなるほど、このすぐ下にあるのは音楽室だ。きっと吹奏楽部が練習をしている最中の音色を、音楽室の空いた窓から風が運んできてくれたんだろう。
その歌は何度も聞いて、歌った曲だった。小学校四年生ぐらいの夏休みに、暇だからって秘密基地で蒼といっしょに何度も奏でた曲だった。
爽やかな音階が私の心を刺激する。気づけば、私もその歌を口ずさんでいた。あの時の私と蒼がユニゾンして奏でる音色を思い出す。今と比べたらもちろん下手だ。でも、そのユニゾンによるハーモニーは、もう今はどう頑張っても聞けないものだ。もう蒼はこの高さの音が出せなくなっているだろうから。
だんだんと、この曲に対する思い入れは増していく。私は昔の私達に混ぜてもらうように、その歌を歌う。私の頭の中では、三人のハーモニーが紡がれていく。これも、風に乗って気持ちとともに誰かに届いていくのかな。そうだったら嬉しいな。
そうしていると、なんだか気持ちが楽になってきた。もう大丈夫そうだ。自然だけは、私のすべてを流してくれる。落ち込んだらまたこの場所にきて、太陽や風たちに向かって無邪気に歌を歌おうかな。
でも、そろそろ太陽が沈み始めてしまいそうだ。もう、帰ろう。
私は階段を駆け下りて、校門をくぐり、太陽を背にして、家への道を歩き始める。
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