アプロディーテの大殺界

佐藤ののり

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アマニール公爵邸への潜入(1/5)

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今日はいよいよアマニール侯爵邸に潜入する。
大事な使命があるがそれとは別で今日になるのが楽しみで仕方なかった。1年3ヶ月ぶりに大好きなハミルお兄様に会える。
ウキウキした気分でパーティに行く準備をする。今日のドレスはシオンが急遽手配してくれたものだ。一緒に潜入してくれるだけでもありがたいのにドレスまで用意してくれるなんて何だか申し訳ない。
シオンは私の好きな薄水色に濃灰色のオーガンジーを合わせたドレスを贈ってくれた。オーガンジーでできたドレープが柄のようになっていてすごく素敵。今日の活動がしやすいひざ下丈なところがありがたい。せっかくなので母から借りた黒曜石とブルーダイヤで作られたアオスジアゲハのブローチをつけてみる。
マルティナさんに化粧と髪型を施してもらう。最近のマルティナはルーズな編み下ろしスタイルがブームで髪を横に編み下ろした。芸術を専攻しているだけあって手先も器用だしバランスをとるのが上手い。
「髪の飾りはどうしましょう?」
「髪飾りとピアスはつけて来ないでって言われてるんですよね・・・。」
シオンは皇太子邸であるアークトゥルス宮のエントランスに私を迎えに来てくれた。私はまたレオンハルト殿下とシオンが鉢合わせしないかハラハラしている。
シオンは濃灰色のスーツと濃さの違う灰色のストライプのシャツと薄水色のタイをしていた。色の配分は違うものの明らかに私のドレスと対になっていた。
(今日も見目麗しいわね。)
彼は私の髪にガラス製の造花のバラを刺してくれた。そしてピアスは以前の茶会で話題になったお互いの色を一つずつ使ったピアスを耳につけてくれた。金とルビー、プラチナとブルーダイヤのもの。
「またリナのプロデュース?」
私が不満そうに聞くとシオンは笑って答えた。
「そう、Brillianeeブリリア二ーのハニーコネクションシリーズだって宣伝してほしいそうだよ。」
私の親友は本当に商売上手でしっかりしてるわ・・・。
シオンは私の頬に手をあてた。
「世界中の花をすべて集めても君の美しさには適わないね。そのアオスジアゲハのように虫が寄ってこないように俺は気を張っていないと。」
「ふふ。あなたも衛星アルネの煌めきも霞むほど麗しいわ。さて、出発しましょうか。」
私たちは自分たちが言った気恥ずかしい社交辞令を笑ってからアマニール邸に出発した。
***
アマニール侯爵家に到着して受付を済ませる。私たちは車を降りた時点から注目の的だった。
こうやって注目を浴びることによって、婚姻を匂わせつつワイマール侯爵家がマクレガー子爵家の後ろ盾となることを伯父達に見せつける。
私はまずハミルお兄様に接触するために会場を見回す。
兄と私が話した後はレオンハルト殿下がマリカ様やアマニール一派の気を引き、私、シオン、アダルベルト様とフィリーナ様の4人はお父様に教えてもらった秘密通路から極秘文書が隠されている部屋で証拠の確認をする。
ハミルお兄様もレオンハルト殿下も、たくさんの人に囲まれていた。
フィリーナ様とアダルベルト様がいる場所も確認してから、ハミルお兄様に近づく機会を狙う。
アマニール侯爵が挨拶してハミル・アマニールの一時帰国を歓迎するパーティが始まった。マリカ様がハミルお兄様とダンスする。
私はマリカ様に軽く嫉妬しつつもエスコートしてくれたシオンとダンスする。パリシナに行くためにレオンハルト殿下とダンスの練習をするまでは、ダンスといえばパートナーはシオン、私の2人の兄と従兄弟だけだった。他の男の子とダンスすると何かしらの揉め事に巻き込まれることがあったのでなるべくダンスは避けていたからだ。
「久しぶりね。こうやってシオンとダンスするの。」
「これからは機会も増えるよ。」
にっこりとシオンに微笑む。
そうね。婚約して結婚すればシオンと踊る機会も増えるわね。何か重いものが私の体にのしかかったような気がした。
ダンスが終わり互いに礼を取る。
シオンとダンスしたい女の子たちに声をかけられる前に私とシオンはハミルお兄様のところへ向かう。
「ハミルお兄様!」
ハミルお兄様は破顔する。
「僕の愛しい子猫ちゃん!恋しかったよ。」
私と同じ金髪で紅茶色の瞳をもったイケメンが愛おしそうに目を細めて私を見つめ、ギューッと強く抱きしめてきた。チュッチュッと頬に二回キスをしてもう一度私を見つめる。
「やっぱり世界で一番かわいいのは僕の妹だな。”眠りの城の姫君”のレティシア姫を実写化するならリリが主役の姫だね。でも僕の夢の中の姫様は近々キスで呪いを解いた王子様のものになってしまうみたいだけど。」
子供の頃、乳母に私達がよく読んでもらった童話の話を持ち出してきたので懐かしくてほっこりした気持ちになった。レティシア姫の呪いをキスで解いたルイ王子に例えられたシオンも幸せそうに笑っていて周囲は私達の婚姻をハミル・アマニールが言祝ことほいだと思ったようだった。
「僕はルイ王子がシオン君だとは言ってないけどね。」
「何か言いましたか?」
小さい声で何かつぶやいたハミルお兄様に私は聞いた。
「リリみたいな見た目も中身も可愛い妹がいると僕は恋人選びが大変だって言ったの。」
「そんなこと思ってないでしょ。第一、私が理想なら毎日鏡にキスすればいいじゃないですか。そっくりなんだから。」
笑い合う私達を見て、マリカ様はイライラしている様子だが他の人たちは生暖かい目で見ていた。ちょっと恥ずかしい。
私は苦笑いを我慢してハミルお兄様から目をそらさず、「わたくしとも踊ってもらえませんか?」とおねだりする。
「もちろんだよ。可愛い姫君にダンスを誘われるなんて僕は世界で一番幸せな兄だな。」
「ふふ、兄バカですね。小侯爵を借りますわね、マリカ様。」
「ええ。」
マリカ様は不服そうだが近くにレオンハルト殿下や高位貴族がいるのでおとなしく引き下がる。マリカ様はハミルお兄様を”リリーシアのお兄様”から”マリカのお兄様”にしたいのだ。
マリカ様は私に対しての敵対心が昔から異様であり、何かと私に挑んでくる。オリバーお兄様ではなくハミルお兄様をアマニール侯爵家の養子にしたいと強く願い出たのは、ハミルお兄様の経営者としての才能を買ったからではなくて私と年子で仲が良かったハミルお兄様を奪い取りたかったからだと私は考えている。
学者肌のオリバーお兄様ではなく経営センスがあるハミルお兄様を引き抜いてマクレガーを弱体化させたかったアマニール侯爵は”マリカの強い希望”と打ち出して養子縁組の話を持ちかけた。
そんな事情を思い出しながら今日の計画を兄に話す。兄は私が関わっていることに驚いたようだ。
「楽しそうだね、リリ。僕は今日のパーティで表立って行動できない立場だから一緒に捜査することはできないが、レオンハルト殿下の手伝いでマリカと侯爵たちの目を欺くのは手伝うよ。」
ダンスが終わるとお兄様は給仕にメモを渡す。そして、マリカ様やシオンがいる場所まで戻る。
お兄様に頼まれた給仕がカクテルをいくつか持ってきた。
「グレート・ビリア帝国の令嬢たちに最近人気のカクテルなんだ。コーヒーリキュールとチョコレートリキュールにシナモンが効いておいしいよ。」
人に囲まれていたレオンハルト殿下が合流した。
「ジェントルマンズ・ショコラだね。」
レオンハルト殿下が言う。ハミルお兄様とシオンは”若き帝国の光”云々の正式な挨拶をレオンハルト殿下にした。
「可愛い妹君達からどうぞ。」
ハミルお兄様は私とマリカ様にカクテルを渡してきた。
「すごく美味しいですわ。」「なにこれ、甘すぎる。」
マリカと私は同時に感想を言った。
「んー、ごめんなさい。ドライマティーニをください。」
シオンは私の残りを飲んでくれた。ハミルお兄様は呆れた顔で私に言う。
「リリは中年の男性みたいだなぁ。マリカは気に入ってくれたんだね。良かった。」
「ああ、本当に辛党だよね。ねぇ、マリカ嬢。チョコレートとオレンジの相性は相性がいいからそれを飲んだら今度はこっちを飲んでみたら?」
レオンハルト殿下は、ハミルお兄様の意図に気付いたみたい。
”まずはマリカを酔い潰すよ。マリカは時々予想外の行動をとることがあるから戦闘不能にしておいたほうがいい。パーティ会場には気にしなくちゃいけない人物がたくさんいるからね。”
とハミルお兄様は言っていた。
酔い潰れ方によってはアマニール夫人と侯爵を一時的に退場させられる。
「シオン、あそこにレイチェル君とラミス君とアイリーチェさんがいるわ。」
「本当だ。僕たちは大学の友人たちに挨拶しに行きますので失礼いたします。」
二人で丁寧に礼をして大学の友人たちの方へ歩いていく。歩きながら声を掛けられた人に応対しながら移動し、徐々に本邸に近付いていく。
まず、目指すは守衛室。ひと仕事終えてから南館【蘭の間】に向かう。
声をかけてきたライジェル伯爵夫妻にシオンが対応している間に目で会場を見回す。ハミルお兄様とレオンハルト殿下は他の令嬢も巻き込むことでマリカ様の敵対心を煽り、ジェントルマンズ・ショコラをぐいぐいと勧めている。
アマニール侯爵とピロットノブ子爵、クリードモール男爵、ハイレン男爵、バーグハー伯爵、クラウソン子爵、マーロン男爵、リーズ男爵の面々にはレオンハルト殿下の協力者がそれぞれついて見張っている。今のところ動きはなさそうだ。
アダルベルト様とフィリーナ様は、数日前のオーギュスト・ガルシアで殿下を差し置いてエスコートしたことが今日のパーティで話題になっているみたい。
私とレオンハルト殿下のほうはシオンのお陰で話題になってなさそうだ。
アダルベルト様達は他の人が割って入れないような雰囲気を出している。
でも、あの2人はひょっとしたら本当に?
「ところでお二人のお目出たいお話はいつ頃聞けるのですか?」
ん、おめでたい!?
ああ、結婚か。先日の両陛下の避妊失敗発言が頭に残っていたので、妊娠を疑われたのかと思って動揺しちゃったわ。
肯定も否定もせず私たちは微笑みで返す。
こんな感じで色々な人に同じような質問をされ、1時間くらいが経過した。
「シオン、少し座って休みたいわ。」
話しかけてくる人が途切れたタイミングで周りに聞こえるように私はシオンに休憩を要求する。
「休憩しに行こうか。」
あらかじめ決めておいた行動開始のサイン”右手で左の耳たぶを撫でる”をしてアダルベルト様とフィリーナ様に知らせる。

「あれ?何か揉めてない?」
シオンが遠くの方を指差す。シオンの指さす方向を見るとマリカ様がサイワノーレ公爵令嬢にからんでいた。
「あらた!わたくのことぉ、ぶぁかにしてるれしょーー」
と大声で騒いでいる。アマニール侯爵夫妻が慌てて場を治めにいっている。
フィリア様は気の毒だけどナイスだわマリカ様。機会を逃さずに一気に移動する。
「あの腹黒殿下が仕向けたんだろう。」
「こら、不用意にそんなこと言わないの。・・・ん?アマニールの手下たちも移動しているっぽいよ。」
「別館に集まるっぽいな。それは見張りチームに任せて僕たちは早く書類を探そう。」
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