不幸体質ですが、神様に溺愛されているので大丈夫です

紅茶緑茶ほうじ茶

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白蛇は尊き陽を望む

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体内の水が尽きたのか涙が止まった頃には新たな春が来ていた。
その頃には私の容姿は蛇の姿から10歳程度の人の子の姿になった。

容姿は墨渦の時とは異なり白髪に翡翠色の瞳、本来の私の色合いに近かった。人の形になれたのは自分の力ではない。頼んだのだ、白萩に。

「何も手伝いができないから・・・手足のある人間にして欲しい」

全員が目を丸くさせた。まるで反抗期の子供が久方ぶりに家族と口を利いたような妙な空気感に私が落ち着きなくいると左近はそっと後ろを向き鼻を啜る音が聞こえた。事実、ここに来てから私はほぼ会話というモノをしなかった。考えれば考えるだけ尽きない涙を濡らして小さくなった私を彼らは見守り続けたのだ。

「勿論良いとも」

快く力を分け与えてから白萩様は目を細め首を傾げた。その横では右近が目を輝かせ私を抱き上げた。

「なんて可愛いらしい!」
「うむぅ・・・もう少し大きくする予定じゃったのだが、どうにも力が入り込まなかったようじゃな」

それについては力を貰った私も自覚していた。途中で容量がいっぱいになったみたいに跳ね返してしまった。自分の小さな掌を見る。まぁモップ位は握れるだろう。少なからず次に涙が止まらなくなった時は自分で床掃除をしよう。


右近と左近の手伝いをする様になってこの二人がかなり多忙であったことを改めて知った。
食事の用意や居所(ちなみにここは四人しかいないのに私が覚えきれない程の部屋数がある)・境内の掃除は勿論、氏子の願いの精査、白萩様が出る程でもない場合は自ら対応もすれば分社から困り事があれば飛んで行き処理する。その他にも周辺の神との連携、直近で言えば一週間後の端午の節句に行われる宴の準備もあるそうだ。そして今年は持ち回りで白萩が主催だと聞く。なにせ様々な雑用をこの二人だけで行っているのだ。

以前私が災いを振りまきながら移動していた際、氏子を多く持つ神を見かけたが多くの神使を連れていた。しかもその神は自分で歩く事はなく神使達に運ばせていた。まさかとは思ったが確認してみる。

「この社の神使は二人だけなのですか?」
「うん。そうだよ。昔は結構居たんだけどね。大体の事はワタシ達二人でも事足りるようになっていつの間にか分社の方が人が多くなってたね。まぁ今度の宴の時は分社から人も借りるし心配はないよ」
「神によっては自分で服も着替えられなければ飯も食わない奴もいるからな、そう思うと白萩様は何でも自分でしてくださるからありがてぇ」

二人はケロリとしていた。

「なんなら今は誰かさんが泣き止んだおかげで掃除の手間が減った位だ」

左近はニヤリと笑ったが流石にこの仕事量を知った今悪態を付けるはずもなく、私は掃除に精を出す他になかった。
外回りは左近が主とし、右近は社の中で文を書いたり食事の用意をしたりと私と居る時間が長かった。最初二人は私に手伝いをさせる気は無かったのだろう。今に思えば教える時間がないからだ。泣いている位なら遊んでいる方がマシ位に思っていたかもしれない。それでも私は見様見真似で掃除に野菜の皮むきなど始めた頃には右近は手鳥足取り教えてくれた。

「あはは。その大根の皮まだまだだね」

右近が笑うと左耳だけつけている丸い装飾品がゆらゆらと動いた。
私は眉根を寄せた。確かに右近が大根を剥くと薄衣の様な綺麗な皮ができあがるのだ。何度やっても大根はガタガタ皮に実も多く残ってしまう。勿体ない。

「ピーラー欲しいよね~」

右近は味噌を溶きながら言う。人間界の情報はこちらが耳を傾けている限りは自然と入ってくる。それは人々の会話の一端であったり、おしゃべりな鳥たちの囁き。ちなみに白萩様は新聞を読む。神様だからとは言えあぐらをかき、浮世離れしてはいけないのだとか。神の嗜好性にもよるが現代的なモノを好む傾向にあるものも少なからずいる。先日他の神社から届いた書面が手書きではなく印字されたものであった。左近はそれに文句は言わなかったものの、何か血が通っていない気がすると言ったが、右近は興味深々で今度の宴で話を聞いてみようと言っていた。いまだに墨を磨って文を書く右近は色々飛ばしている気がするが、この男の好奇心は留まる事を知らないようだ。

「・・・・・・宴が終わったら字の読み書きを覚えたい」
「千雪は本当に勉強熱心なんだね。勿論いいよ。書道の本がどこかにあった気がする。探しておくよ」

右近は優しく笑っていた。

「・・・あっ」
「ん?どうかした?」

首を横に振ると私は野菜の皮むきに集中した。
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