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白蛇は尊き陽を望む
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白萩の住処に連れて来られた私は手当を受けた。手当をしたのは殴りつけていた本人で、彼は私の身体を丁寧に拭いた。すると頭上でおやっと声があがる。
「なんだ君。白蛇だったのか」
何が面白いのかふふっと笑われる。見てくださいと駆け出し私の身体に振動を与えた。
「本当じゃな~。墨渦という名が似合わんと思っとったがなるほど合点がいった」
「似合わないってどういう事ですか・・・なんでも良いが墨渦。お前いつまで泣いている気だ?確かに右近にぼこぼこにされたけどもう泣く程痛くないだろう」
「多分まだ痛いよ。この子には治す力がないからね。そういえば謝ってなかった、ごめんね。殴り過ぎちゃった」
「全く泣き虫だな」
右近に身体を撫でられる。嫌がる気力など最早どこにもない。
この右近という男最初はぼんやりした優男の様に見えたが白萩に対しての忠誠心が強い。左近に斬られる事は予想できてもまさか錫杖が飛んでくるとは思いもしなかった。
「千雪にしようかの?」
二人は白萩の方を見た。
「お前たちの弟の新しい名前じゃよ。もちろん彼が好きな方を選んでも良いし、自分で付けても良い」
「弟!?」
「弟ですか・・・」
冗談じゃないと左近は嫌悪感を隠さない。太めの眉は釣りあがり眉間に深い皺を刻んだ。右近はといえばこちらをまじまじと見ていたがそのうちとても機嫌が良さそうに微笑んでいた。白萩が言うのだから従うという事なのだろうか。勿論私は何も答えなかった。ただとぐろを巻き眠る事にした。
結局私は肯定も否定もしなかったので彼らから千雪と呼ばれる事となった。よく考えれば墨渦という名も勝手に付けられたものだしなんと呼ばれようが気にもしない。何より文句を言う気力もまだなかった。そして私の涙は未だ止まらない。止める方法を知らなかった。
「あーーーもーーー!!このままではどの川の水も氾濫してしまう!!!」
びちゃびちゃに濡れた床にモップをかけながら左近は髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。最近では左近が刀を持つよりモップを握る回数の方が遥かに多い。私の涙は一定数貯めて地上に排出、すなわち雨を降らせる事に再利用されていた。しかしあまりにも量が多過ぎて、白萩が領地とする白良々木町の年間降水量を半年もしないうちに越えようとしている事が分かり慌てて周囲の川に別けて流したり、水不足の土地に回したりと左近の仕事を増やしていた。
「そうだ・・・先日、天音殿に会ったのだけど夏に向けてもう少し水が欲しいと言っていたよ」
「嫌だ」
「嫌って何?売る程あるよね、なんなら今後も増える予定があるんだからあげればいいじゃない」
「オレはあいつが嫌いなんだよ。関わりたくない。渡すなら右近が持って行け」
天音という神には私も一度だけ会った事がある。白萩よりもとても若いその神は隣町に社を構える狐の神だった。とても好奇心旺盛で人懐っこい。その時も白萩が拾った私を見に来たのだと言っていた。見世物にされた事よりも、腹の中を探られている様な奇妙な感覚に恐怖を覚え私も彼の事はあまり好いてはいなかった。それにしても左近はもっと彼を毛嫌いしているようだ。
右近と左近は白萩の神使に当たるのだが彼は格は違えど立派な神である。それなのに、
「あの駄狐・・・」
左近は舌打ちをする。並々ならぬ因縁でもあるのだろうか。まぁ私の知ったことでないが。
「わかった。私が話を持っていくね。なんたってワタシはお兄さんだから」
嬉しそうに立ち上がると文机に向かうのであった。
「なんだ君。白蛇だったのか」
何が面白いのかふふっと笑われる。見てくださいと駆け出し私の身体に振動を与えた。
「本当じゃな~。墨渦という名が似合わんと思っとったがなるほど合点がいった」
「似合わないってどういう事ですか・・・なんでも良いが墨渦。お前いつまで泣いている気だ?確かに右近にぼこぼこにされたけどもう泣く程痛くないだろう」
「多分まだ痛いよ。この子には治す力がないからね。そういえば謝ってなかった、ごめんね。殴り過ぎちゃった」
「全く泣き虫だな」
右近に身体を撫でられる。嫌がる気力など最早どこにもない。
この右近という男最初はぼんやりした優男の様に見えたが白萩に対しての忠誠心が強い。左近に斬られる事は予想できてもまさか錫杖が飛んでくるとは思いもしなかった。
「千雪にしようかの?」
二人は白萩の方を見た。
「お前たちの弟の新しい名前じゃよ。もちろん彼が好きな方を選んでも良いし、自分で付けても良い」
「弟!?」
「弟ですか・・・」
冗談じゃないと左近は嫌悪感を隠さない。太めの眉は釣りあがり眉間に深い皺を刻んだ。右近はといえばこちらをまじまじと見ていたがそのうちとても機嫌が良さそうに微笑んでいた。白萩が言うのだから従うという事なのだろうか。勿論私は何も答えなかった。ただとぐろを巻き眠る事にした。
結局私は肯定も否定もしなかったので彼らから千雪と呼ばれる事となった。よく考えれば墨渦という名も勝手に付けられたものだしなんと呼ばれようが気にもしない。何より文句を言う気力もまだなかった。そして私の涙は未だ止まらない。止める方法を知らなかった。
「あーーーもーーー!!このままではどの川の水も氾濫してしまう!!!」
びちゃびちゃに濡れた床にモップをかけながら左近は髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。最近では左近が刀を持つよりモップを握る回数の方が遥かに多い。私の涙は一定数貯めて地上に排出、すなわち雨を降らせる事に再利用されていた。しかしあまりにも量が多過ぎて、白萩が領地とする白良々木町の年間降水量を半年もしないうちに越えようとしている事が分かり慌てて周囲の川に別けて流したり、水不足の土地に回したりと左近の仕事を増やしていた。
「そうだ・・・先日、天音殿に会ったのだけど夏に向けてもう少し水が欲しいと言っていたよ」
「嫌だ」
「嫌って何?売る程あるよね、なんなら今後も増える予定があるんだからあげればいいじゃない」
「オレはあいつが嫌いなんだよ。関わりたくない。渡すなら右近が持って行け」
天音という神には私も一度だけ会った事がある。白萩よりもとても若いその神は隣町に社を構える狐の神だった。とても好奇心旺盛で人懐っこい。その時も白萩が拾った私を見に来たのだと言っていた。見世物にされた事よりも、腹の中を探られている様な奇妙な感覚に恐怖を覚え私も彼の事はあまり好いてはいなかった。それにしても左近はもっと彼を毛嫌いしているようだ。
右近と左近は白萩の神使に当たるのだが彼は格は違えど立派な神である。それなのに、
「あの駄狐・・・」
左近は舌打ちをする。並々ならぬ因縁でもあるのだろうか。まぁ私の知ったことでないが。
「わかった。私が話を持っていくね。なんたってワタシはお兄さんだから」
嬉しそうに立ち上がると文机に向かうのであった。
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