かくまい重蔵 《第1巻》

麦畑 錬

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(33)かくまい人、参戦

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「けやッ」

 先攻したのは、総髪の助太刀である。

 総髪がけたたましい雄叫びとともに刀を振り下ろす瞬間、勝之進はもたつく足取りで後方に回避した。

 退いた拍子に尻餅をつき、お鈴に起こされながら体勢を立て直す。

 誰が見ても戦い慣れていない勝之進に、嘲笑と注目が集まった。

「勝之進どの、しっかり」

お鈴は叱咤すると、前進する隻眼の助太刀へ突きを入れた。

 場慣れしている隻眼は、いとも容易くお鈴の剣をかわしてしまう。

 にやりと歪に口角を吊り上げるや、突き技で伸びたお鈴の腕めがけて切っ先を走らせた。

 たちまち、華奢な腕へ凶刃が食い込み、上腕を深く傷つけた。

「やめろッ」

 負傷したお鈴を背にやって、勝之進がたまらず前へ躍り出る。

 刀を夢中で振り回す勝之進の、あまりの剣幕に気圧されて、隻眼がわずかに後退した。

 すかさず、勝之進は腰に差していた鞘を抜き取ると、隻眼めがけて投げつけた。

「うわ」

 怯んだ隻眼は、たまらず腕を交差させて直撃を防いだ。

「お鈴どの、いまのうちに」

 勝之進に送り出され、お鈴は怨敵が腰をかける畳へと猪突した。

「父の仇、覚悟ツ」

 逃げ出そうとする泰山の背中を狙い、お鈴が刀を振りかざす。

 刹那、畳の脇に控えていた浪人が動いた。

 乱れのない太刀筋でお鈴の刀を跳ねけると、その空いた懐めがけて刃を引いた。

(あいつは……)

 勝之進には、浪人の顔に心当たりがある。

 いつぞや、阿母寺からの帰り道に重蔵を襲撃し、手傷を負わせた男だった。

(いかん)

 お鈴では勝てない。

 慌てて踏み出した勝之進の背筋に、裂傷が走る。

 隻眼の刃先が背の肉を舐めたのである。

「うぐ」

 激痛に涙ぐみながらも、お鈴の襟首をひっつかむ。

 渾身の力で腕を引くと、お鈴の残像を凶刃が貫いた。

「おのれ、お鈴。あれほどお前の仇討を後押ししてやったというのに、この叔父に斬りかかるか」

 浪人の背後に隠れながら、泰山がだみ声で罵った。

「斬るべき化が目の前にいたから斬るのです。あなたは私の恩人ではない」

 お鈴が甲高く言い放ったのを最後に、帳幕を守っていた浪人どもが集まってくる。

 勝之進とお鈴を円陣で囲むと、次から次へ抜刀した。

「やああっ」

 ついに浪人どもが、一挙にして攻め寄せる。

 四方八方から突き殺そうとする足音に、勝之進はついに決死を覚悟した。

「すまぬ、お染!」

 天を仰いで絶叫する。

 せめて華々しい死を遂げようと、がむしゃらに刀を持ち上げた。

 ところが、勝之進の刀は虚しく地を叩いた。

 刃が体を貫く痛みが、いつまでたっても襲ってこない。

 堅くつむった瞼を開けてみると、浪人どもが揃って、南側の帳幕へ切つ先を向けているではないか。

「囲.......重蔵!」

 ふんぞり返っていた泰山が、腰を抜かして叫んだ。


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