本妻探偵〜彼女の不幸な結婚〜

地野千塩

文字の大きさ
12 / 66

極悪婚活カウンセラー編-7

しおりを挟む
「田辺先生、ご在宅じゃないんですか?」
「いませんよ。大方不倫相手のところでしょ」

 電話口の文花の声はとても冷ややかで常盤は震え上がる。

「困ったなぁ。先生と連絡取れないんですよ。奥さん、何か知っていませんか?」

 急ぎの打ち合わせ事項があり、田辺の携帯に連絡をここと見たが田井は捕まらなかった。出社後に電話をかけ、昼かけても繋がらない。

 常盤はディスクで栄養ドリンクと菓子パンという雑に昼食を済ませ、ちょっと迷ったが自宅に電話をかけた。

 すると田辺ではなく、文花が出た。首筋が嫌な汗でじっとりとする。

 何も悪い事をしていないつもりだったが、やましい事がバレたような気がしてしまう。

「さぁ、今度の不倫相手はかなりの極悪という事ぐらいしか知りませんよ」
「あの人そんな風に見えなかったけどなぁ。美人だったし」

 これは失言だと思った。わざわざ正直にこんな事を言う必要はない。周りの同僚たちは昼休憩に出て行ってしまい、オフィスの中は静かだった。

「そう。そんな事はどうでも良いの。主人に何の用かしら?」
「いえ、新作の件で少し手直しして欲しい所がありまして」

 田辺の原稿は完璧だったが、一部差別的な表現に引っかかりそうなところがあり、訂正の依頼だった。またその後の新作の打ち合わせも少しづつ始めたかった。そのスケジュールの確認。

「そう。可能性は低いけれど、主人が帰ったら伝えておくわ」

 少し文花の声が掠れていた。

 疲れている様だった。もしかしたら風邪でもひいてるかもしれない。

「あの、奥さん。少し具合悪そうですが」
「そう? そういえば三日三晩寝てないわね」
「えー、ちょっと大丈夫ですかぁ?」
「そうでもないわね」

 文花はゴホゴホと咳き込んだ。これは風邪をひいているかもしれない。だんだん文花の声が弱々しくなっていくのを感じた。

「主人の愛人の事調べなくちゃいけないの」

 文花はここ数日ろくに寝ずにミイの事を調べていた。華の協力もあり、ミイが昔不倫した時の奥さんに会う約束まで取り付けた。あとミイの実家近くに聞き地元の評判も収集するつもりだった。

 常盤は罪悪感でいっぱいになった。仕事を優先していただけだが、結果として一人の女性を傷つけてしまったのは事実だった。

「奥さん、ご飯食べてます?」
「食べる気になれなくてね。知ってる? 断食ってたまにすると健康に良いらしいのよ……」
「いえ、さっぱり健康に良い様に聞こえませんよ」

 常盤は思わずこう言ってしまっていた。

「今から家に行きますから!ポカリとか持っていきますから」
「やめて、迷惑」
「いいえ、行きます!」

 強引に言い切って電話を切った。

 昼休憩から帰ってきた紅尾に説明すると、また奥さんが泣いて抗議に来るよりはマシだと、むしろ早く行く様に言われた。幸い田辺が早めに原稿を上げてきたお陰で、忙しい訳ではなかった。

 電話口の文花の声はとても弱々しく今にも死にそうだった。もし死んだら、幽霊になって呪われそうだ。何で夫との不倫のきっかけを作ったの?と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...