本妻探偵〜彼女の不幸な結婚〜

地野千塩

文字の大きさ
13 / 66

極悪婚活カウンセラー編-8

しおりを挟む
 田辺の家は千葉県のある町にあった。飯田橋にある出版社から電車を乗り継ぎ一時間。

 意外と近いが、駅の周りはパチンコ屋やコンビニやスーパーなどはなく、畑や公園があり、のどかな雰囲気だった。少し歩くと住宅街があり、そこに田辺の家もあった。住宅街といっても家と家の感覚が広くあまり密集していないせいか広々と開放的な雰囲気すらある。

 コンビニは見当たらないので、飯田橋のコンビニで食糧を買っておいて良かったと常盤は思った。

 田辺の家は二階建てのこじんまりとした一軒家。築三十年ぐらいだろうか。新しくはない。以前雑談で田辺は、もともと遠縁の家だったが、持ち主がなくなり空き家になりかけたところ、静かで執筆環境のいいこの家を譲って貰ったと言っていた。

 もっとも妻との生活がだんだん息苦しくなり、庭にプレハブの離れをたてて、専らそっちの生活時間の方が長いのだと言う。

 庭は離れがあるせいでかなり狭い。端に方に小さな花壇とハーブが植っていて、芝生も刈り取られ、きちんと手入れはされている様だ。

 チャイムを鳴らすと、玄関から顔が真っ青の文花が出てきた。

 髪はベタつき、唇はかさつき、目の下は真っ黒だった。肌も青白く血の気が失せていた。

 以前担当した漫画家の修羅場明けがちょうどこんな感じだった。その漫画家は結局身体を壊して、手術を受けて半年ぐらい休養した。その事で罪悪感を感じ、今は作家の健康状態を把握するのも編集者の仕事の一部だと考えが変わった。

 常盤が見たところ、文花は病人にしか見えなかった。医者じゃないので診断などはできないが、少なくとも風邪は引いているようだ。

「常盤さん、どうぞあがって…」

 そう言うとゲホゲホと咳き込んだ。パジャマの襟から見える鎖骨が目立っていて、以前会った時より痩せた様だった。

 常盤はとりあえず家に上がった。

 玄関や廊下は散らかっていなかったが、通されたリビングは散らかっていた。

 特にソファの周りに空のペットボトルが転がり、テーブルの上には薬や、熱冷ましシートや飴玉、アロマオイルの瓶が転がっていた。

 ノートパソコンもあり、本が数冊積み上げられ、付箋やノートも散乱していた。この様子だけだと修羅場中の作家にでも見えてしまうからおかしいなものだ。

「奥さん、大丈夫ですかぁ」
「いいえ、全く大丈夫じゃないわ」

 文花はソファにぐったりと座った。

 常盤は軽くテーブルの上を片付けて、買ってきたポカリスェットや果物のゼリーやプリンを置いた。

 積み上げられた本を見ると浅山ミイの本だった。散らばった付箋をちらりと見ると、夫がいつミイと逢瀬を重ねているのか書いてあったりした。おそらくミイの事を調べていたんだろう。

 積み上げられた本の一番上には、何やら物騒な手紙が置いてあった。「田辺と別れなければ殺す」と書いてある。

「なんですか? この手紙」
「ああ、うちによく届いてる脅迫状。たぶん浅山ミイの仕業ね。証拠はないけど」
「警察に行ったんですか?」
「いいえ。言ってもしょうがないじゃない」

 またゲホゲホと咳き込んだ。アロマオイルを焚いていたのか周辺がミントのようなスッとした香が残っている。

「いや、言いましょうよ。これ脅迫状ですよ…」
「いいの」

 文花は首を振る。

 常盤はため息をついてリビングの隣にあるキッチンに向かった。

「奥さん、ちょっとキッチンお借りしますよ」

 常盤は文花の返事を待たずに買ってきたレトルトのおかゆを温めた。

 食器棚の中身の食器は、白や紺と言ったシンプルばデザインが多かったが、スパイスや調味料の棚はスーパーでは見かけないような高そうなものが並び、別の棚にはフードプロセッサーやハンドミキサーやブレンダー、圧力鍋も入っていた。切れ味の良さそうな包丁も流し場に放置してあった。料理好きな人物のキッチンだとわかる。

 文花に性格を考えると切れ味の良さそうな包丁はちょっと怖く、レトルトを出すのも躊躇われたが仕方がない。

 お粥を温めて、白い丼に盛り付け、文花のところに持って行った。

 意外なことに文花は特に文句も言わずにお粥に手をつけはじめた。黙々と咀嚼していた。特に美味しいとは言っていなかったが、完食した所を見ると問題ないだろう。食後に市販の風邪薬と頭痛止めもしっかりと飲んでいた。

 文花が食べている間、常盤はテーブルの周りを片付けた。

 ゴミをゴミ袋のまとめるだけでもだいぶ綺麗になり、お茶でもこぼしたのか少し汚れているフローリングも水雑巾で拭いた。

 何でこんな事をしているんだろうと思いながらもとりあえず、文花が死んでいないに事については良しとする。

 片付け終えると使い古された分厚いノートが目に止まった。

「なんですか、このノートは?」
「ああ、これ? 主人の歴代の女の情報が纏めてあるノートよ……」

 ふふふと文花は怪しげに笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

隅の麗人 Case.1 怠惰な死体

久浄 要
ミステリー
東京は丸の内。 オフィスビルの地階にひっそりと佇む、暖色系の仄かな灯りが点る静かなショットバー『Huster』(ハスター)。 事件記者の東城達也と刑事の西園寺和也は、そこで車椅子を傍らに、いつも同じ席にいる美しくも怪しげな女に出会う。 東京駅の丸の内南口のコインロッカーに遺棄された黒いキャリーバッグ。そこに入っていたのは世にも奇妙な謎の死体。 死体に呼応するかのように東京、神奈川、埼玉、千葉の民家からは男女二人の異様なバラバラ死体が次々と発見されていく。 2014年1月。 とある新興宗教団体にまつわる、一都三県に跨がった恐るべき事件の顛末を描く『怠惰な死体』。 難解にしてマニアック。名状しがたい悪夢のような複雑怪奇な事件の謎に、個性豊かな三人の男女が挑む『隅の麗人』シリーズ第1段! カバーイラスト 歩いちご ※『隅の麗人』をエピソード毎に分割した作品です。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...