毒妻探偵〜サレ公爵夫人、夫の愛人を調べていたら殺人事件に巻き込まれました〜

地野千塩

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第一部

疑惑編-4

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 フィリスとアンジェラは、しばらくホテルで遊ばせている事に決めた。どうせ公爵家には帰れないし、ここで日頃のストレスを発散させるのも悪くない。

 ホテルにはプールやサウナ、小さいコンサート会場や劇場もあったし、暇になる事はないだろう。これを聞いた二人は大喜びで、降ってわいた休暇を楽しみと笑顔だった。

 一方、フローラは笑ってばかりもいられない。ホテルで身支度を整えると、都にある大きな書店へ向かった。

 ホテルから十分程度の場所のは、書店、コンサート会場、出版社、劇場、美術館など文化的施設も集まっていた。今の女王は文化に関心が高く、この辺りも国が出資して生まれた場所らしい。道を歩く者の貴族や王族が多そうで、暇を潰す文化の役割も大きそうだ。

 さっそく書店に入ると、夫の書籍が大きく展開されていた。貴族の女達が目を輝かせながら、夫の本を見ている。まだ貴族界隈では、マムの殺人事件はバレていないようだ。

 時間の問題だと思われるが、レジの側にはゴシップ雑誌が山積みだ。舞台女優の失言が大きく報道され、鬼の首を取ったように叩かれていた。

 未来の夫やフローラもあの雑誌の中の登場人物だ。全く人のスキャンダルには笑えない。

 そんな事も考えつつ、インクや紙の匂いが漂う書店の奥へ行き、魔術師の本を捜す。

 魔術関係の本は、書店でも奥の方のあり、他の客も見ていない。やはり、メジャーな文化ではないようだったが、エルが書いた本を捜す。

「ええ、と。魔術師エルの本は……」

 エルの書いた本は確かにあった。豪華な装丁の魔導書だったが、タイトルは「白魔術」。毒にも薬にもならないような内容だった。花や紅茶で想い人の心を占う方法、パワーストーンの解説など、子供向けっぽい。装丁は派手だったが、中見の無い本だった。

「店員さん、このエルって人の本は売れてる?」
「いいや、全く売れてませんね。どちらというと、魔導書ではこっちのが売れていますよ」

 店員は別の本を紹介し、自分の仕事へ戻って行ってしまった。

 おすすめされた本は、同じく王宮魔術師が書いたものだった。名前はルーナ。女性の魔術師らしいが、惚れ薬や意中の人を確実に落とす方法も書いてあり、確かにエルの本より面白く、実用性も高い。

 他に呪い殺す方法などは書いていなかったが、エルが不人気で無能な魔術師である事はわかった。

 マムはエルの事を無能、役立たずと罵倒していたそうだが、世間一般的の評価もそんなものだったのかもしれない。マムの発言は極悪だが、言葉を選ぶべきだったかもしれない。わざと相手を傷つける為に悪口を言っていた可能性も高いが。

 これでエルにはマムを殺す動機がある事がはっきりした。呪いの会も単なるパフォーマンスではなく、自分のプライドを折ったマムへの復讐だとすれば筋は通る。

「でも、呪いで人は殺せるかしら?」

 そこだけは妙に引っ掛かる。書店に置いてある魔術の本でも、人を呪う方法などは書いていない。

 呪いなんてない。エルは犯人ではないか。犯人だとしたら、アンジェラの言う通り共犯者を使ったのだろう。その共犯者って誰?

「奥さん!」
「きゃ!」

 エルの事を考えていたので、背後から声をかけられたら、変な声が出てしまった。

「あなた、ネイトじゃないの」

 声をかけたのは、夫の担当編者であるネイトだった。庶民階級の男で、いつも夫に顎で使われ、言いなりになっていた。

 年齢は二十五だそうだが、髪はボサボサ、スーツはよれよれ、靴はぼろぼろ。見た目の雰囲気も色々と残念な男だった。体系は痩せ型、背も高い方だったが、身なりを気を使う事はないらしい。

 フローラは、ネイトを見ながら頬が引き攣っていた。気弱そうなネイトだが、あまり得意なタイプではない。夫が不倫によって筆が乗ってくる事を知ると、わざと女を紹介する事も多かった。

 完全にフローラの気持ちは無視していた。つまり、良い小説が出来上がり、売れれば何でも良いと考えている男。

 おそらくマムもネイトが紹介した可能性が高い。マムも本を出していたし、その界隈の世間は狭い。そう思うと、ネイトも夫の共犯者。いっそ頬も叩いてやりたかったが、奥歯を噛み締めてどうにか我慢していた。

「奥さん、書店で何をしてるんですか?」
「いえ、何でもないのよ」
「ちょっと来てください。我々も困ってるんです」

 ネイトは髪をクシャクシャにかいていた。

「どういう事?」
「先生、今退院してホテルにいるんですが、本当にパニック状態で困ってるんですよ。ああ、どうしよう。先生がこれ以上書けなくなったら」

 ネイトは涙目だった。

「結局、こういう時は奥さんしかいませんよ。来てください、先生を救ってください」
「えー?」

 ネイトの手を引かれ、夫がいるという出版社の裏のホテルへ連れて行かれた。

「こんな時だけ妻の私を頼るっておかしくない?」

 フローラの声は冷たかった。

「こんな時だからです。先生には奥さんが必要ですよ、きっと」
「意味がわからない」

 ネイトの調子の良さに下唇を噛みたくなるが、確かに夫はこのまま放置はできなかった。

「あなた、来たわ。一体どうしたの?」

 ホテルの部屋に入り、夫に話しかけていた。
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