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第一部
幸せな結婚編-2
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クッキー大作戦は撃沈していた。出来上がったクッキーをエルの元に持って行き、再度証言するよう促したが、王宮関係者に摘み出され、病院に出禁にもなってしまった。
病院の門の近くでコンラッドにも会ったが、相変わらず呪いの証明にやっきになっており、エルが怪我をしたのも「呪い返し!」と大騒ぎしていた。まだ犯人の名前すら気づいていない状況に、フローラはため息しかでない。
「ただいま。あら? ブラッドリーはいないの?」
ため息をつきつつ、公爵家に帰ってきたが、夫の気配がどこにも無かった。
寝室やリビングルーム、バスルームやキッチンのまで探しに行ったが、しんと静かだ。キッチンのテーブルの上は夫が食べたと思われるクッキーの屑が散らばっていたが、嫌な予感がしてきた。
「フィリス、ちょっと来て」
「なんですかー?」
キッチンのまどから庭仕事をしていたフィリスを呼んだ。アンジェラは街に買い物に行ってしまったそうで、フィリスは一人で庭で草むしりに精を出していた。春とはいえ、強い日差しを受けたフィリスの肌は日に焼け、余計に田舎くさくなっていたが、すぐにキッチンの方にやってきた。
「夫がいないのよ。どこに行ったか分かる?」
「え、公爵さま居ないんですか? 書斎に入っていくところは見ましたけど?」
「書斎?」
「何か奥さんだけ楽しく探偵ごっこしているのがズルいとか言ってたな。元を辿ればおまえのせいだってのーって」
フィリスの冗談などまともに聞いていても仕方がない。そういえば、書斎を見るのを忘れていた。
フローラはすぐに書斎へ飛んでいった。今は比較的動きやすい地味なドレスを着ていたが、最近は事件調査をしているせいで、妙に身体も軽くなった気がする。
「あなた、いる?」
書斎のドアをノックしたが、何の返事もない。書斎の窓は開けっぱなしなのか、風の音や小鳥の鳴き声が響くだけだった。
「入るわよ」
これでも公爵夫人のフローラだ。ノックをして返事が帰ってこない部屋に入るのは、案勇気がいったが、思い切ってドアを開けた。
予想通り、書斎には誰もいなかった。窓は開けっぱなしで、白いカーテンが風に揺れていた。本棚は夫が今まで書いた本や家庭聖書が並び、いつも通りだったが、愛人ノートが消えている。
「ちょっと、どういう事?」
机の上にも愛人ノートは無かった。探偵マニュアルは机の上にあったが、引き出しにも無い。
他の机の上には、夫の仕事用のネタ帳もあった。パラパラとめくると、今までの恋愛小説は全部不倫をネタに書いてきた記録があり、フローラの眉間の皺は深くなるばかりだ。
一方、マムの事件の後は深刻なスランプに落ち込み、一行も書けない事も記録してあった。マムが死んだのも自分のせいだと責め、フローラにも謝罪の言葉もあった。
意外だった。てっきりフローラにはそんな感情は一ミリも無いだろうと思っておたが。パージをめくりながら、恋愛小説を書く産みの苦しみや孤独も綴られ、フローラの表情は完全に固まり、ページを捲る手も震えてきた。
「私は今まで夫の気持ちを理解しようとしてた?」
ついつい自分を責める独り言も溢れてしまう。ここで綴られていた夫の苦悩を知ってしまうと、胸が苦しくなってきた。
公爵としての重圧や世間体の息苦しさも綴られ、恋愛小説を書く時だけは子供のように自由になれたらしい。
一方、フローラという女はそんな公爵としての世間体を象徴する女。次第にフローラと一緒にいるだけで息が詰まる、殺されそうとも綴られていたが。
そんな中、殺人事件に立ち向かうフローラを見ていたら、楽しくなってきたという。世間体も全部無視して調査しているフローラは、もうその象徴ではない。おもしれー女だ。もう恋愛小説はやめて、ミステリーなんか書いたら面白そうともある。特にこの事件をネタに『愛人探偵』という作品の構想は、筆跡も踊り、生き生きとしていた。まるで子供のように自由。
「そうか、そうだったのね……」
初めて夫の本心を知り、気が抜けそうだ。
しかし夫はどこに行ったのか。愛人ノートも消えているという事は、もしかして犯人と対面しに行った?
愛人ノートにはフィリアにこの事件の進捗も記録させていた。夫もこの事件の犯人に名前を知り、捕まえに行った?
その可能性は大いにありそうだった。フローラの表示表情は、より険しくなってきた時、ちょうどフィリスが書斎に入ってきた。
「奥さん、公爵さまはどこにも居ませんよ。さっきまではこの家にいたはずなんですけど」
フィリスは息を荒げていた。おそらく公爵家を全部探し回ったのだろう。
「たぶん、夫は犯人の元へ向かったわ」
「えー、マジですか。やばいよ!」
フィリスは田舎者らしく大騒ぎしていたが、フローラはかえって冷静になってきた。フィリスのエプロンのリボンには、マムの地元で買った百合のキーホルダーも飾ってあったが、それもカチャカチャと揺れていた。
フローラは百合のキーホルダーを見ながら決意を決めた。もう犯人とは直接対決するしか無いようだ。
「さあ、フィリス。支度をしましょう」
「え、どこか行くんですか?」
「ええ。犯人のところへ行きましょう」
「えー、本当に行くんですか!?」
「行きます。さあ、あの障害者作業施設に参りますよ」
フローラは背筋を伸ばし、はっきりと言った。その意思は固いと見て、フィリスも反対する事は無かった。
「私もお供します! 犯人にもギャフンと言わせてしまいましょう!」
「今時ギャフンと言う人なんていないわよ」
「いいますよ、ギャフン!」
まだこの時は、フィリスと冗談を言えるぐらいには、余裕があった。
病院の門の近くでコンラッドにも会ったが、相変わらず呪いの証明にやっきになっており、エルが怪我をしたのも「呪い返し!」と大騒ぎしていた。まだ犯人の名前すら気づいていない状況に、フローラはため息しかでない。
「ただいま。あら? ブラッドリーはいないの?」
ため息をつきつつ、公爵家に帰ってきたが、夫の気配がどこにも無かった。
寝室やリビングルーム、バスルームやキッチンのまで探しに行ったが、しんと静かだ。キッチンのテーブルの上は夫が食べたと思われるクッキーの屑が散らばっていたが、嫌な予感がしてきた。
「フィリス、ちょっと来て」
「なんですかー?」
キッチンのまどから庭仕事をしていたフィリスを呼んだ。アンジェラは街に買い物に行ってしまったそうで、フィリスは一人で庭で草むしりに精を出していた。春とはいえ、強い日差しを受けたフィリスの肌は日に焼け、余計に田舎くさくなっていたが、すぐにキッチンの方にやってきた。
「夫がいないのよ。どこに行ったか分かる?」
「え、公爵さま居ないんですか? 書斎に入っていくところは見ましたけど?」
「書斎?」
「何か奥さんだけ楽しく探偵ごっこしているのがズルいとか言ってたな。元を辿ればおまえのせいだってのーって」
フィリスの冗談などまともに聞いていても仕方がない。そういえば、書斎を見るのを忘れていた。
フローラはすぐに書斎へ飛んでいった。今は比較的動きやすい地味なドレスを着ていたが、最近は事件調査をしているせいで、妙に身体も軽くなった気がする。
「あなた、いる?」
書斎のドアをノックしたが、何の返事もない。書斎の窓は開けっぱなしなのか、風の音や小鳥の鳴き声が響くだけだった。
「入るわよ」
これでも公爵夫人のフローラだ。ノックをして返事が帰ってこない部屋に入るのは、案勇気がいったが、思い切ってドアを開けた。
予想通り、書斎には誰もいなかった。窓は開けっぱなしで、白いカーテンが風に揺れていた。本棚は夫が今まで書いた本や家庭聖書が並び、いつも通りだったが、愛人ノートが消えている。
「ちょっと、どういう事?」
机の上にも愛人ノートは無かった。探偵マニュアルは机の上にあったが、引き出しにも無い。
他の机の上には、夫の仕事用のネタ帳もあった。パラパラとめくると、今までの恋愛小説は全部不倫をネタに書いてきた記録があり、フローラの眉間の皺は深くなるばかりだ。
一方、マムの事件の後は深刻なスランプに落ち込み、一行も書けない事も記録してあった。マムが死んだのも自分のせいだと責め、フローラにも謝罪の言葉もあった。
意外だった。てっきりフローラにはそんな感情は一ミリも無いだろうと思っておたが。パージをめくりながら、恋愛小説を書く産みの苦しみや孤独も綴られ、フローラの表情は完全に固まり、ページを捲る手も震えてきた。
「私は今まで夫の気持ちを理解しようとしてた?」
ついつい自分を責める独り言も溢れてしまう。ここで綴られていた夫の苦悩を知ってしまうと、胸が苦しくなってきた。
公爵としての重圧や世間体の息苦しさも綴られ、恋愛小説を書く時だけは子供のように自由になれたらしい。
一方、フローラという女はそんな公爵としての世間体を象徴する女。次第にフローラと一緒にいるだけで息が詰まる、殺されそうとも綴られていたが。
そんな中、殺人事件に立ち向かうフローラを見ていたら、楽しくなってきたという。世間体も全部無視して調査しているフローラは、もうその象徴ではない。おもしれー女だ。もう恋愛小説はやめて、ミステリーなんか書いたら面白そうともある。特にこの事件をネタに『愛人探偵』という作品の構想は、筆跡も踊り、生き生きとしていた。まるで子供のように自由。
「そうか、そうだったのね……」
初めて夫の本心を知り、気が抜けそうだ。
しかし夫はどこに行ったのか。愛人ノートも消えているという事は、もしかして犯人と対面しに行った?
愛人ノートにはフィリアにこの事件の進捗も記録させていた。夫もこの事件の犯人に名前を知り、捕まえに行った?
その可能性は大いにありそうだった。フローラの表示表情は、より険しくなってきた時、ちょうどフィリスが書斎に入ってきた。
「奥さん、公爵さまはどこにも居ませんよ。さっきまではこの家にいたはずなんですけど」
フィリスは息を荒げていた。おそらく公爵家を全部探し回ったのだろう。
「たぶん、夫は犯人の元へ向かったわ」
「えー、マジですか。やばいよ!」
フィリスは田舎者らしく大騒ぎしていたが、フローラはかえって冷静になってきた。フィリスのエプロンのリボンには、マムの地元で買った百合のキーホルダーも飾ってあったが、それもカチャカチャと揺れていた。
フローラは百合のキーホルダーを見ながら決意を決めた。もう犯人とは直接対決するしか無いようだ。
「さあ、フィリス。支度をしましょう」
「え、どこか行くんですか?」
「ええ。犯人のところへ行きましょう」
「えー、本当に行くんですか!?」
「行きます。さあ、あの障害者作業施設に参りますよ」
フローラは背筋を伸ばし、はっきりと言った。その意思は固いと見て、フィリスも反対する事は無かった。
「私もお供します! 犯人にもギャフンと言わせてしまいましょう!」
「今時ギャフンと言う人なんていないわよ」
「いいますよ、ギャフン!」
まだこの時は、フィリスと冗談を言えるぐらいには、余裕があった。
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