毒妻探偵〜サレ公爵夫人、夫の愛人を調べていたら殺人事件に巻き込まれました〜

地野千塩

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第一部

番外編短編・クリスの杞憂

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 障害者施設で働くクリスは、最近ずっと憂鬱だった。

 まさかこの施設にいるザガリーが殺人犯だったなんて。しかも知的障害がある演技をずっとしながら、マムを殺す機会は狙っていたなんて。

 元々根が馴染めで、どんな職場に行っても過労になってしまうクリス。この件でも責任を感じてしまうし、利用者達に不利益があったらどうしようと思う。

 元来、この国では障害者差別も酷い。マムなんて「幼稚園児でもできる下らない仕事やってるなんてwww」と笑ってきた事もあった。

 ザガリーがいなくなった理由も利用し者達に説明するのも胃が痛いし、近隣かもっと差別されたらどうしよう。憂鬱で仕方ない。障害者が全員ザガリーのように演技をしている殺人犯と差別されたら、どうすれば?

 そんな折、公爵と夫人のフローラが訪ねに来た。この事件の渦中になっった二人だが、寄付金とともに、こんな話を持ちかけてきた。

 恋愛小説家である公爵は、視覚障害者の女性とイケメン伯爵のラブストーリーを文芸誌に書くので、取材協力をして欲しいという。短編だというが取材も必要らしい。

 またフローラは知り合いの雑誌記者にここで働く障害者をフォーカスした記事を書かせる事も提案してきた。

「大丈夫よ。ザガリーという男一人が悪いのであって、ここの人達は悪くないわ」

 フローラに自信たっぷりに言われクリスもようやく胸を撫で下ろしていた。

「あら、公爵さま。いらしていたの?」

 そこの施設長と一緒にマーシアも現れた。盲目のシンガーのマーシアは、一番親しかったザガリーに件では意外と冷静だったが。

「あら、そんな恋愛小説を書く予定があるの? だったら、私をモデルにしてくれない?」

 マーシアは図々しい事も言っていたが、フローラはギラリと目を光らせる。

「夫と不倫はしちゃダメよ」
「そんな事しませんって。奥さんも案外猜疑心が強いですよね」

 マーシアの呆れ声に、一同はみな苦笑するしかなかった。

 その後、文芸誌に視覚障害者とイケメン伯爵のラブストーリーが掲載され、好評だったという。この施設への差別や中傷はなかった。

 マーシアもバリバリと曲を作り、今度広場で演奏する事も決まった。

 つまり、クリスの心配は全て杞憂に終わった。

 ちなみに公爵は今はミステリー作品を書いているらしい。恋愛小説を望む読者の声も多いそうだが、妻であるフローラのメンタルは安定していると風の噂で聞いた。
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