毒妻探偵〜サレ公爵夫人、夫の愛人を調べていたら殺人事件に巻き込まれました〜

地野千塩

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第一部

エピローグ

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「ぎゃ、ギャフン! ……なんて言うわけ無いだろー!」

 コンラッドが吠えていた。

 事件はすっかり解決し、ゴシップ記事も別の話題に移っていた。今は隣国の王子が悪女に騙された事に国民はみな夢中だった。

 フローラも女王の話し相手をしたり、マーシアの応援グッズを作成したり、障害者作業所に慰問したり忙しく動いていたので、事件について忘れかけていたが、白警団のコンラッドが公爵家にやってきた。

 夫とも話があるというので、客間に通し、クッキーとお茶でもてなしたが、コンラッドは不機嫌だった。ぶつぶつ文句を言いつつ、フローラを睨みつけていた。

 事件の調査報告をしに来たというが、白警団の落ち度を夫婦でつっつくと、コンラッドは逆ギレして吠えてくるではないか。

「冷静に考えれば呪いで人を殺せるわけがないじゃない。エルの事を鵜呑みにしたコンラッドの落ち度よ」
「妻の言う通りだよ。普通に考えれば、わかるだろうに。っていうかマムの地元は全く探さなかったのかい?」

 夫にも突っ込まれ、コンラッドは渋々告白していた。マムの地元の管轄の白警団は、汚職やコネが横行し、なかなかメスを入れられなかったとか。マムの殺人疑惑を捜査できなかった事は白警団の古い体質のせいだと言う。言い訳がましかったが、そういう事なら仕方ない。

「次は白警団が犯人を捕まえる。素人のサレ公爵夫人は口出すなよ!」

 コンラッドはヤケクソになりながらテーブルの上にあるクッキーを食べていた。バリバリと咀嚼する音が響き、フローラの眉間に皺がよる。

「このクッキーは妻が焼いたもんですが、食べるんですか?」
「は?」
「うちの妻のクッキーは美味いだろう?」
「まあ、クッキーだけは美味いが、もう二度と白警団の調査を邪魔するなよ!」

 なぜか夫はフローラのクッキーを褒めちぎり、コンラッドは余計に吠えていた。よっぽどド素人のフローラが事件を解決してしまった事が悔しいのだろう。

 コンラッドの口元はクッキーのカスで汚れていた。あまりにも子供っぽい。白警団のエリートにも全く見えない。フローラは今後も無能な白警団に迷惑をかけられるような悪寒がしていた。思わず熱い紅茶を口に含み、冷静さを保つ。

「覚えてろよ。次はド素人のサレ公爵夫人なんかに負けないからな!」

 コンラッドは最後にそう吠えると、帰って行った。

「なんなの、あのコンラッドは。負け犬の遠吠えですよ」

 アンジェラが客間にやってきて、ウンザリした様子でクッキーのカスが散らかった椅子や床を片付けていた。

「でも奥さん! あの男、ギャフンとは言ってましたよ!」

 フィリスの客間にやってきて、新しい紅茶のポットを持って来た。

 二人の登場で、客間はすっかり賑やかになった。一時は鳥籠のような公爵家だったが、お祭りのように騒がしい。

「ところであなた、お仕事の方は順調?」
「おお。今はミステリ書いてるぞ。この事件をネタに面白い話を書くんだ」

 フローラの隣にいる夫は、新作の執筆中だった。こんな事件をネタに「愛人探偵」という作品を書くらしい。サレ伯爵夫人が夫の愛人を調べていたら、いつの間にか殺人事件を解決してしまうミステリーだという。

 誰がモデルかは明白だ。いつか夫がフローラをネタに書くといっていた話が実現した事になる。

 ネタにされたフローラは内心冗談ではないと思うが、以来、夫は公爵家にちゃんと帰るようになったし、新しい愛人もいない。今のところ愛人ノートの出番はなく、それは書斎の本棚で眠っていた。

「私、探偵になろうかしら。コンラッドにあれだけ言われたら、やる気になってきた」
「奥さん、それは大賛成ですよ!」
「私もです! うちの父にも応援して貰いましょう!」

 ふと思いついた事を言っただけだが、フィリスとアンジェラからは肯定的だった。

「あなたはどう思う?」
「あはは!」

 なぜか夫は大笑いしながら、クッキーを食べていた。アンジェラが綺麗にした床はまた汚れていくが。

「フローラ、お前って奴はおもしれー女だな。ただの公爵夫人じゃない。ただの女じゃないな!」

 夫はそう言って腹を抱えて大笑い。つられてフィリスやアンジェラまでクスクス笑っている始末。

「失礼ね。私は正真正銘の公爵夫人よ?」

 そうは言っても、フローラも笑ってしまう。こんな風に心の底から笑うのは、いつ以来だろう。もしかしたら生まれて初めてかもしれない。

「でも、今の私はなんだか幸せよ。あなたと結婚してよかった。病める時もあなたとなら、案外面白いかもしれない」
「はは、そうかもなー。俺も同感だ。おもしれーよ、フローラ」

 夫も柔らかく目を細めていた。

 その後、夫が書いた「愛人探偵」が出版され、本当の事件を題材にしていると貴族社会で物議を醸し出したが、それはまた別の話。
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