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第一部
幸せな結婚編-7
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女王はエルをクビにしたらしい。結果、エルがザガリーを脅していた事も明るみに出た。捜査も撹乱したとしてエルもあっけなく捕まってしまった。
大怪我をしていたエルだったが、脅威の回復力で歩けるまで元気になったとか。エルは納得いかず、黙秘を貫いているらしいが、ザガリーは全てを白警団に白状した。マムを殺す為にずっと障害者の演技をしていたという。マムはザガリーが障害者と信じて疑っておらず、騙されたまま殺されたと話しているらしい。
ちなみにマムは地元でも嫌われ者だった為、ザガリーとは元々面識はなかったが、念には念をいれていたとか。フローラ達はそこまで調査できなかったが、マムが出禁になったカフェ、レストラン、病院なども多数あったそう。マムの元夫リッキーは人を疑う事を知らない天使のような男だったらしいが。
そんな極悪妻との結婚生活も上手くいかず、リッキーは事故で車椅子になった。そんな彼にマムは言葉の暴力をし続けた。この事で一部はザガリーに同情の声も上がっていたが、あの男が素直に事件について語っているのか謎だった。
「マーシア、素晴らしい歌声だった!」
フローラは演奏を終えたマーシアに拍手を送り、手を引いて広場のベンチまで連れていった。二人で話したい事がある。
庶民が集まる広場だったが、今日は天気が曇っている為か、さほど賑わってもいない。マーシアの演奏も熱狂的なファンが最前列で声援を送っているだけだった。
「今回のことは大変だったわ」
フローラは隣に座るマーシアに労りに言葉を送った。
なんせマーシアは同じ施設の友人を失ってしまった。楽しい事件ではないだろう。
「いえ、別にそんなショックでもないから」
「そう?」
隣にいるマーシアの横顔は、疲れが見えた。目は意外と冷静そうだったが、連日ザガリーの所へ通い、罪を全て告白するように説得しているとか。
おかげでザガリーは事件の真相を全部告白しているという。
「ザガリーが男色だったのは、ショックだったけどねー。リッキーへの深い想いも語ってたわ」
そう語るマーシアの声は低く、掠れていた。表情は冷静だったが、ザガリーに対しては複雑な想いがあるようだった。
そんなマーシアを見ていたら、これ以上マーシアの気持ちを詮索するのは辞めた。もう事件は解決したのだ。フローラが知って良い事では無い。事件調査はしたし、もう人の心を探る必要は無いだろう。
フローラは広場の屋台へ行き、レモネードを購入して戻ってきた。マーシアにもレモネード奢り、彼女はコクコクと飲んでいた。
レモンの爽やかな香りが広がる。レモネードに浮いた輪切りのレモンも可愛らしい。あんな事件があったおかげで、輪切のレモンですら平和の象徴にも見えてきた。
「まあ、ザガリーが演技している事は薄々気づいていたよ」
「そう」
「私への態度もわざとらしかったから。私の事は色んな意味で、演技だったと思うね。男色を隠すのも大変ね」
そう語るマーシアは、意外とスッキリとした目を見せた。爽やかなレモネードの効果もあったかもしれないが。
「『吊るされた男』って曲はザガリーをモデルに書いたけど、どうしよう? 奥さんはボツにすべきだと思う?」
「うーん、曲には罪は無いんじゃない?」
「そうね……」
夫の不倫の結果で生まれた恋愛小説も罪は無いだろう。そんな小説でも好きな読者はいる。妻であるフローラは大変迷惑な話だが、今は夫はミステリー小説家に転向を考えていた。もしかしたら、もう芸の肥やしでの不倫は辞めるかもしれない。
「ええ。曲には罪はないよ。マーシア、頑張って。こんな事で挫けないで、これからも歌って」
「う、そうね。奥さん、ありがとう」
一瞬マーシアは泣きそうな目を見せたが、すぐに真っ直ぐ前を向いていた。盲目である事が信じられなぐらい強い視線だった。
「ありがとう、奥さん。ザガリーが罪と向き合って反省する機会も与えてくれて」
「私は何もしてないよ。マムが嫌いだっただけ」
「そっか。私怨で捜査?」
「まあ、そんな所ね!」
確かに私怨で捜査した事だが、結果的には全てが良くなった。そう思うと、夫に不貞をされた事も、全てが悪くもないかもしれない。不幸な結婚だとメンヘラしていた時もあったが、間違っていた。不幸な事は何一つなかった。要は起こった出来事をどう対処し、活かす事かだ。自分が幸せだと信じれば、今の景色だって違って見えるかもしれない。
夫との結婚も幸せだった。今は素直にそう思う。不幸だなんて思いたくなかった。
口に含んだレモネードが、すっと喉を通る。甘味も酸っぱさも今は全部心地よい。
「よし、私はこの事件をネタにして曲を書く。このまま辛い事件のままにはしたくない」
「マーシア、ぜひ新しい曲を聞かせてね。それこそシンガーの鑑よ」
「ありがとう。今はもう何も辛くないよ。全部曲にしようと思えば楽しくなってきた」
マーシアは鼻歌を響かせていた。まるで天使の歌声のように綺麗だった。
多分、マーシアも大丈夫だろう。フローラは穏やかな笑顔を浮かべ、美しい歌声に耳を傾けていた。
大怪我をしていたエルだったが、脅威の回復力で歩けるまで元気になったとか。エルは納得いかず、黙秘を貫いているらしいが、ザガリーは全てを白警団に白状した。マムを殺す為にずっと障害者の演技をしていたという。マムはザガリーが障害者と信じて疑っておらず、騙されたまま殺されたと話しているらしい。
ちなみにマムは地元でも嫌われ者だった為、ザガリーとは元々面識はなかったが、念には念をいれていたとか。フローラ達はそこまで調査できなかったが、マムが出禁になったカフェ、レストラン、病院なども多数あったそう。マムの元夫リッキーは人を疑う事を知らない天使のような男だったらしいが。
そんな極悪妻との結婚生活も上手くいかず、リッキーは事故で車椅子になった。そんな彼にマムは言葉の暴力をし続けた。この事で一部はザガリーに同情の声も上がっていたが、あの男が素直に事件について語っているのか謎だった。
「マーシア、素晴らしい歌声だった!」
フローラは演奏を終えたマーシアに拍手を送り、手を引いて広場のベンチまで連れていった。二人で話したい事がある。
庶民が集まる広場だったが、今日は天気が曇っている為か、さほど賑わってもいない。マーシアの演奏も熱狂的なファンが最前列で声援を送っているだけだった。
「今回のことは大変だったわ」
フローラは隣に座るマーシアに労りに言葉を送った。
なんせマーシアは同じ施設の友人を失ってしまった。楽しい事件ではないだろう。
「いえ、別にそんなショックでもないから」
「そう?」
隣にいるマーシアの横顔は、疲れが見えた。目は意外と冷静そうだったが、連日ザガリーの所へ通い、罪を全て告白するように説得しているとか。
おかげでザガリーは事件の真相を全部告白しているという。
「ザガリーが男色だったのは、ショックだったけどねー。リッキーへの深い想いも語ってたわ」
そう語るマーシアの声は低く、掠れていた。表情は冷静だったが、ザガリーに対しては複雑な想いがあるようだった。
そんなマーシアを見ていたら、これ以上マーシアの気持ちを詮索するのは辞めた。もう事件は解決したのだ。フローラが知って良い事では無い。事件調査はしたし、もう人の心を探る必要は無いだろう。
フローラは広場の屋台へ行き、レモネードを購入して戻ってきた。マーシアにもレモネード奢り、彼女はコクコクと飲んでいた。
レモンの爽やかな香りが広がる。レモネードに浮いた輪切りのレモンも可愛らしい。あんな事件があったおかげで、輪切のレモンですら平和の象徴にも見えてきた。
「まあ、ザガリーが演技している事は薄々気づいていたよ」
「そう」
「私への態度もわざとらしかったから。私の事は色んな意味で、演技だったと思うね。男色を隠すのも大変ね」
そう語るマーシアは、意外とスッキリとした目を見せた。爽やかなレモネードの効果もあったかもしれないが。
「『吊るされた男』って曲はザガリーをモデルに書いたけど、どうしよう? 奥さんはボツにすべきだと思う?」
「うーん、曲には罪は無いんじゃない?」
「そうね……」
夫の不倫の結果で生まれた恋愛小説も罪は無いだろう。そんな小説でも好きな読者はいる。妻であるフローラは大変迷惑な話だが、今は夫はミステリー小説家に転向を考えていた。もしかしたら、もう芸の肥やしでの不倫は辞めるかもしれない。
「ええ。曲には罪はないよ。マーシア、頑張って。こんな事で挫けないで、これからも歌って」
「う、そうね。奥さん、ありがとう」
一瞬マーシアは泣きそうな目を見せたが、すぐに真っ直ぐ前を向いていた。盲目である事が信じられなぐらい強い視線だった。
「ありがとう、奥さん。ザガリーが罪と向き合って反省する機会も与えてくれて」
「私は何もしてないよ。マムが嫌いだっただけ」
「そっか。私怨で捜査?」
「まあ、そんな所ね!」
確かに私怨で捜査した事だが、結果的には全てが良くなった。そう思うと、夫に不貞をされた事も、全てが悪くもないかもしれない。不幸な結婚だとメンヘラしていた時もあったが、間違っていた。不幸な事は何一つなかった。要は起こった出来事をどう対処し、活かす事かだ。自分が幸せだと信じれば、今の景色だって違って見えるかもしれない。
夫との結婚も幸せだった。今は素直にそう思う。不幸だなんて思いたくなかった。
口に含んだレモネードが、すっと喉を通る。甘味も酸っぱさも今は全部心地よい。
「よし、私はこの事件をネタにして曲を書く。このまま辛い事件のままにはしたくない」
「マーシア、ぜひ新しい曲を聞かせてね。それこそシンガーの鑑よ」
「ありがとう。今はもう何も辛くないよ。全部曲にしようと思えば楽しくなってきた」
マーシアは鼻歌を響かせていた。まるで天使の歌声のように綺麗だった。
多分、マーシアも大丈夫だろう。フローラは穏やかな笑顔を浮かべ、美しい歌声に耳を傾けていた。
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