毒妻探偵〜サレ公爵夫人、夫の愛人を調べていたら殺人事件に巻き込まれました〜

地野千塩

文字の大きさ
41 / 157
第一部

幸せな結婚編-7

しおりを挟む
 女王はエルをクビにしたらしい。結果、エルがザガリーを脅していた事も明るみに出た。捜査も撹乱したとしてエルもあっけなく捕まってしまった。

 大怪我をしていたエルだったが、脅威の回復力で歩けるまで元気になったとか。エルは納得いかず、黙秘を貫いているらしいが、ザガリーは全てを白警団に白状した。マムを殺す為にずっと障害者の演技をしていたという。マムはザガリーが障害者と信じて疑っておらず、騙されたまま殺されたと話しているらしい。

 ちなみにマムは地元でも嫌われ者だった為、ザガリーとは元々面識はなかったが、念には念をいれていたとか。フローラ達はそこまで調査できなかったが、マムが出禁になったカフェ、レストラン、病院なども多数あったそう。マムの元夫リッキーは人を疑う事を知らない天使のような男だったらしいが。

 そんな極悪妻との結婚生活も上手くいかず、リッキーは事故で車椅子になった。そんな彼にマムは言葉の暴力をし続けた。この事で一部はザガリーに同情の声も上がっていたが、あの男が素直に事件について語っているのか謎だった。

「マーシア、素晴らしい歌声だった!」

 フローラは演奏を終えたマーシアに拍手を送り、手を引いて広場のベンチまで連れていった。二人で話したい事がある。

 庶民が集まる広場だったが、今日は天気が曇っている為か、さほど賑わってもいない。マーシアの演奏も熱狂的なファンが最前列で声援を送っているだけだった。

「今回のことは大変だったわ」

 フローラは隣に座るマーシアに労りに言葉を送った。

 なんせマーシアは同じ施設の友人を失ってしまった。楽しい事件ではないだろう。

「いえ、別にそんなショックでもないから」
「そう?」

 隣にいるマーシアの横顔は、疲れが見えた。目は意外と冷静そうだったが、連日ザガリーの所へ通い、罪を全て告白するように説得しているとか。

 おかげでザガリーは事件の真相を全部告白しているという。

「ザガリーが男色だったのは、ショックだったけどねー。リッキーへの深い想いも語ってたわ」

 そう語るマーシアの声は低く、掠れていた。表情は冷静だったが、ザガリーに対しては複雑な想いがあるようだった。

 そんなマーシアを見ていたら、これ以上マーシアの気持ちを詮索するのは辞めた。もう事件は解決したのだ。フローラが知って良い事では無い。事件調査はしたし、もう人の心を探る必要は無いだろう。

 フローラは広場の屋台へ行き、レモネードを購入して戻ってきた。マーシアにもレモネード奢り、彼女はコクコクと飲んでいた。

 レモンの爽やかな香りが広がる。レモネードに浮いた輪切りのレモンも可愛らしい。あんな事件があったおかげで、輪切のレモンですら平和の象徴にも見えてきた。

「まあ、ザガリーが演技している事は薄々気づいていたよ」
「そう」
「私への態度もわざとらしかったから。私の事は色んな意味で、演技だったと思うね。男色を隠すのも大変ね」

 そう語るマーシアは、意外とスッキリとした目を見せた。爽やかなレモネードの効果もあったかもしれないが。

「『吊るされた男』って曲はザガリーをモデルに書いたけど、どうしよう? 奥さんはボツにすべきだと思う?」
「うーん、曲には罪は無いんじゃない?」
「そうね……」

 夫の不倫の結果で生まれた恋愛小説も罪は無いだろう。そんな小説でも好きな読者はいる。妻であるフローラは大変迷惑な話だが、今は夫はミステリー小説家に転向を考えていた。もしかしたら、もう芸の肥やしでの不倫は辞めるかもしれない。

「ええ。曲には罪はないよ。マーシア、頑張って。こんな事で挫けないで、これからも歌って」
「う、そうね。奥さん、ありがとう」

 一瞬マーシアは泣きそうな目を見せたが、すぐに真っ直ぐ前を向いていた。盲目である事が信じられなぐらい強い視線だった。

「ありがとう、奥さん。ザガリーが罪と向き合って反省する機会も与えてくれて」
「私は何もしてないよ。マムが嫌いだっただけ」
「そっか。私怨で捜査?」
「まあ、そんな所ね!」

 確かに私怨で捜査した事だが、結果的には全てが良くなった。そう思うと、夫に不貞をされた事も、全てが悪くもないかもしれない。不幸な結婚だとメンヘラしていた時もあったが、間違っていた。不幸な事は何一つなかった。要は起こった出来事をどう対処し、活かす事かだ。自分が幸せだと信じれば、今の景色だって違って見えるかもしれない。

 夫との結婚も幸せだった。今は素直にそう思う。不幸だなんて思いたくなかった。

 口に含んだレモネードが、すっと喉を通る。甘味も酸っぱさも今は全部心地よい。

「よし、私はこの事件をネタにして曲を書く。このまま辛い事件のままにはしたくない」
「マーシア、ぜひ新しい曲を聞かせてね。それこそシンガーの鑑よ」
「ありがとう。今はもう何も辛くないよ。全部曲にしようと思えば楽しくなってきた」

 マーシアは鼻歌を響かせていた。まるで天使の歌声のように綺麗だった。

 多分、マーシアも大丈夫だろう。フローラは穏やかな笑顔を浮かべ、美しい歌声に耳を傾けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...