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第一部
幸せな結婚編-6
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『サレ公爵夫人、お手柄! 愛人調査をしていたら、殺人事件も解決しちゃいました!?』
ゴシップ記事の見出しには、そんな文字が踊っていた。この記事を書いたのはトマスだ。ホテルの恩を感じ、義理を返してくれたそう。記事の中ではフローラは正義の探偵のように書かれ、ネイトとの不倫疑惑も払拭されていた。貴族社会や都にこのニュースが駆け巡り、話題になっていた。
こうしてザガリーが捕まり、殺人事件が解決して数日経った。周りは大騒ぎしているが、フローラ達の生活は静かなものだった。
今日も庭にテーブルを出し、フィリスやアンジェラ達と一緒にお茶を楽しんでいた。
テーブルの上にはフローラが焼いたクッキーやマフィン、スコーンもあり、甘い香りが漂っていた。
庭の薔薇も美しく、ハーブ類も元気だ。一時は薔薇を見ただけで、かつての不倫相手を思い出したフローラだったが、今の表情は落ち着き、ゆっくりと紅茶を飲んでいる。
「それにしてもトマスのやつ。ちゃんと義理は貫きましたね。この記事、奥さんは名探偵みたい。奥さん探偵? いや、毒妻探偵?」
フィリスもゴシップ記事を捲りながら、紅茶を飲んでいた。
「そんな探偵なんかじゃないいわよ」
記事の中ではフローラは「毒妻探偵」と書かれていたが解せない。きつい見た目から「毒妻」とヒソヒソされる事は多かったが、文字として見せつけられると違和感があった。
今はこうして事件が解決した事に気が抜けそう。ゴシップ記事も夢のよう見える。悪い夢だったか良い夢だったかは定かではないが。
ザガリーは素直に罪を認めているそうだ。貴族社会では障害者のフリをしていたザガリーに衝撃が走ったそうだが、田舎ではよくある事だそうで、フィリスやアンジェラはさほど驚いてはいない。
「でも奥さん。良かったじゃないですか。あれから公爵さまは家に帰ってきてます。仕事もミステリ作家になりたいって騒いでるんでしょ?」
アンジェラはスコーンにクリームをつけながら言う。
確かにアンジェラが言うようの夫は家に帰ってきた。ミステリを書きたいとこの事件の詳細も調べ、筆ものっているらしいが、フローラとしては複雑だった。結果としては悪くないが、死人が一人出てしまったし、エルは今も黙秘を貫き、コンラッドは苦悩しているという。
それに夫の担当編集者のネイトからは、ミステリー作家に転向する事に少々苦い顔。編集長や営業部はこのまま恋愛小説を書いて欲しいらしい。ミステリーは恋愛小説よりも不人気で、未だに夫に愛人を紹介しようと迷惑な事もしていた。
「まあ、奥さん。事件は解決したんですから、美味しいお菓子でも食べてパーっとリラックスしましょ! あー、このクッキー美味しい!」
フィリスの抜けた表情を見ながら、フローラの口元も緩んだ時だった。
突然、来客が来たらしい。フィリスやアンジェラが出迎えに行ったが、帰って来た二人の顔は蒼白だった。
「奥さん、大変です!」
「女王様が来客できましたよー!」
「え?」
フィリスもアンジェラも冗談を言っているのかと思ったが、庭には王族関係者に取り囲まれた女王の姿があった。
さすがのフローラも言葉を失い、ただただ平伏するばかりだ。
お忍びでやって来たという女王は、式典など遠くで見る時より小柄だった。服装も黒い地味なドレスで、アクセサリーもしていない。髪も一つにまとめているだけだったが、気品や優雅さが滲み出ていた。まるで清楚な百合のような女性だ。一方フローラは、根や葉に毒を持った雑草のような存在だ。事件を解決できるようなサレ公爵夫人は、毒を持った存在でちょうど良いのかもしれないが。
こうして女王と一緒に庭でお茶をする事になった。緊張しすぎてフローラは紅茶や菓子の味は忘れてしまったが、意外と女王は気さくだ。特に事件の詳細を聞きたがり、無邪気に「私も愛人探偵になりたいぐらい!」と笑うほどだ。
「実は私の夫も何人も不倫相手がいるのよ」
「ええ……」
女王の夫、つまり国王に愛人がいる事はスキャンダルにはなっていなかったが、エルから耳にしていた。
こんな百合のような女王でもサレ妻か。そう思うと、フローラは自分を責めるのもバカバカしくなってきた。確かに自分にも非があったのだろうが、やはり不倫は心の殺人だ。夫の不貞を語る女王も、目に哀しみが滲んでいた。美しい女性だからこそ、その目が印象に残ってしまう。
「ねえ、フローラ。呪いで愛人を殺せる?」
「女王様、失礼ですが、それは無理です」
不敬だと思いつつ、フローラは意見した。周囲にいる王族関係者は目を光らせたが、女王は逆にクスクスと笑っていた。
「そうね。エルに呪いを頼むのはやめるわ」
「え?」
「あの男はクビね!」
女王の行動は早く、すぐに王族関係者に伝えていた。エルが白警団に自白するのも時間の問題かもしれない。
マムのリッキーへの殺人疑惑は結局立証されなかったが、これで良いのかもしれない。もう死んでしまったマムは現世で裁く事は無理だ。後は天国にいる神の裁きに任せる他ないだろう。
「ふふふ、私も愛人調査しようかな。ね、フローラ、私と一緒に調査しない?」
「女王様、それは……」
「いいじゃないの。得意な事は生かしましょう。今度夫の愛人も探偵してくれない? 実は隣国に愛人が新しくいてね……」
なぜか国王の愛人調査をする事になってしまった。辞退したかったが、女王の命令に誰が否定できようか。
それに探偵を依頼する女王に目は、きらりと光り、喜びが滲み始めた。哀しんでいるより良いかもしれない。
フローラもこの話を聞いて元気が出て来た。もう夫の事をずっと考えているのもバカバカしい。メンヘラも完全に辞めたくなってきたし、今は探偵業ができたら楽しそう。未来に希望が湧いてきた。そろそろ籠を飛び出し、自由に飛び回っても良いのかも?
「ありがとう、フローラ。あなたと話していたら、気が楽になってきた」
「いえ、滅相も無いです!」
「いやね、もっとリラックスしましょう。勝手に押しかけて来たのはこっちなんだから」
これからもたまに一緒にお茶をする事を約束した。
空を見上げる。
夫の目とそっくりな色の空だったが、ここを自由に飛ぶ鳥を想像するだけで、フローラの心は晴れていた。
ゴシップ記事の見出しには、そんな文字が踊っていた。この記事を書いたのはトマスだ。ホテルの恩を感じ、義理を返してくれたそう。記事の中ではフローラは正義の探偵のように書かれ、ネイトとの不倫疑惑も払拭されていた。貴族社会や都にこのニュースが駆け巡り、話題になっていた。
こうしてザガリーが捕まり、殺人事件が解決して数日経った。周りは大騒ぎしているが、フローラ達の生活は静かなものだった。
今日も庭にテーブルを出し、フィリスやアンジェラ達と一緒にお茶を楽しんでいた。
テーブルの上にはフローラが焼いたクッキーやマフィン、スコーンもあり、甘い香りが漂っていた。
庭の薔薇も美しく、ハーブ類も元気だ。一時は薔薇を見ただけで、かつての不倫相手を思い出したフローラだったが、今の表情は落ち着き、ゆっくりと紅茶を飲んでいる。
「それにしてもトマスのやつ。ちゃんと義理は貫きましたね。この記事、奥さんは名探偵みたい。奥さん探偵? いや、毒妻探偵?」
フィリスもゴシップ記事を捲りながら、紅茶を飲んでいた。
「そんな探偵なんかじゃないいわよ」
記事の中ではフローラは「毒妻探偵」と書かれていたが解せない。きつい見た目から「毒妻」とヒソヒソされる事は多かったが、文字として見せつけられると違和感があった。
今はこうして事件が解決した事に気が抜けそう。ゴシップ記事も夢のよう見える。悪い夢だったか良い夢だったかは定かではないが。
ザガリーは素直に罪を認めているそうだ。貴族社会では障害者のフリをしていたザガリーに衝撃が走ったそうだが、田舎ではよくある事だそうで、フィリスやアンジェラはさほど驚いてはいない。
「でも奥さん。良かったじゃないですか。あれから公爵さまは家に帰ってきてます。仕事もミステリ作家になりたいって騒いでるんでしょ?」
アンジェラはスコーンにクリームをつけながら言う。
確かにアンジェラが言うようの夫は家に帰ってきた。ミステリを書きたいとこの事件の詳細も調べ、筆ものっているらしいが、フローラとしては複雑だった。結果としては悪くないが、死人が一人出てしまったし、エルは今も黙秘を貫き、コンラッドは苦悩しているという。
それに夫の担当編集者のネイトからは、ミステリー作家に転向する事に少々苦い顔。編集長や営業部はこのまま恋愛小説を書いて欲しいらしい。ミステリーは恋愛小説よりも不人気で、未だに夫に愛人を紹介しようと迷惑な事もしていた。
「まあ、奥さん。事件は解決したんですから、美味しいお菓子でも食べてパーっとリラックスしましょ! あー、このクッキー美味しい!」
フィリスの抜けた表情を見ながら、フローラの口元も緩んだ時だった。
突然、来客が来たらしい。フィリスやアンジェラが出迎えに行ったが、帰って来た二人の顔は蒼白だった。
「奥さん、大変です!」
「女王様が来客できましたよー!」
「え?」
フィリスもアンジェラも冗談を言っているのかと思ったが、庭には王族関係者に取り囲まれた女王の姿があった。
さすがのフローラも言葉を失い、ただただ平伏するばかりだ。
お忍びでやって来たという女王は、式典など遠くで見る時より小柄だった。服装も黒い地味なドレスで、アクセサリーもしていない。髪も一つにまとめているだけだったが、気品や優雅さが滲み出ていた。まるで清楚な百合のような女性だ。一方フローラは、根や葉に毒を持った雑草のような存在だ。事件を解決できるようなサレ公爵夫人は、毒を持った存在でちょうど良いのかもしれないが。
こうして女王と一緒に庭でお茶をする事になった。緊張しすぎてフローラは紅茶や菓子の味は忘れてしまったが、意外と女王は気さくだ。特に事件の詳細を聞きたがり、無邪気に「私も愛人探偵になりたいぐらい!」と笑うほどだ。
「実は私の夫も何人も不倫相手がいるのよ」
「ええ……」
女王の夫、つまり国王に愛人がいる事はスキャンダルにはなっていなかったが、エルから耳にしていた。
こんな百合のような女王でもサレ妻か。そう思うと、フローラは自分を責めるのもバカバカしくなってきた。確かに自分にも非があったのだろうが、やはり不倫は心の殺人だ。夫の不貞を語る女王も、目に哀しみが滲んでいた。美しい女性だからこそ、その目が印象に残ってしまう。
「ねえ、フローラ。呪いで愛人を殺せる?」
「女王様、失礼ですが、それは無理です」
不敬だと思いつつ、フローラは意見した。周囲にいる王族関係者は目を光らせたが、女王は逆にクスクスと笑っていた。
「そうね。エルに呪いを頼むのはやめるわ」
「え?」
「あの男はクビね!」
女王の行動は早く、すぐに王族関係者に伝えていた。エルが白警団に自白するのも時間の問題かもしれない。
マムのリッキーへの殺人疑惑は結局立証されなかったが、これで良いのかもしれない。もう死んでしまったマムは現世で裁く事は無理だ。後は天国にいる神の裁きに任せる他ないだろう。
「ふふふ、私も愛人調査しようかな。ね、フローラ、私と一緒に調査しない?」
「女王様、それは……」
「いいじゃないの。得意な事は生かしましょう。今度夫の愛人も探偵してくれない? 実は隣国に愛人が新しくいてね……」
なぜか国王の愛人調査をする事になってしまった。辞退したかったが、女王の命令に誰が否定できようか。
それに探偵を依頼する女王に目は、きらりと光り、喜びが滲み始めた。哀しんでいるより良いかもしれない。
フローラもこの話を聞いて元気が出て来た。もう夫の事をずっと考えているのもバカバカしい。メンヘラも完全に辞めたくなってきたし、今は探偵業ができたら楽しそう。未来に希望が湧いてきた。そろそろ籠を飛び出し、自由に飛び回っても良いのかも?
「ありがとう、フローラ。あなたと話していたら、気が楽になってきた」
「いえ、滅相も無いです!」
「いやね、もっとリラックスしましょう。勝手に押しかけて来たのはこっちなんだから」
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