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第二部
殺人事件編-2
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日は暮れ、いよいよ夜だ。遠くに爪の先のような月も見えたが、伯爵家のバルコニーから見る空も悪くない。
フローラは伯爵夫人・クララの元へ出向き、ホームパーティーを楽しんでいた。伯爵家は客人も多いためか、一階にホールもあり、そこがパーティー会場だった。
中央のテーブルには、ご馳走も並び、ワインやシャンパンも配られ、フローラもすっかりほろ酔い気分だった。客も多く、賑やかだったが、意外と今日は貴族界隈の人も少なく、女主人であるクララの芸術家人脈も多い。画家や脚本家から話を聞くだけで、フローラは笑顔だ。
「へえ、アーロンさんはホラー劇の脚本を書いているんですね」
立食式のパーティーも相まって、フローラの緊張も解け、酒を飲みつつ、脚本家の男に話しかけていた。
脚本家の男はアーロンという。クララとも懇意で特にホラー劇が得意とか。口髭を生やした五十過ぎの男だったが、庶民の家から成功した話を聞くだけで楽しい。
「え、奥さんはあの公爵家の?」
和やかに談笑していたか、夫の名前を出すと、アーロンは目を丸くしていた。おそらくろくでもない噂が広がっていると思い、フローラが身構えたが、アーロンは夫の作品のファンだという。
「本当ですか?」
「ええ。僕は特に『愛人探偵』が好きで。是非あの怖い話を舞台化したいです!」
「まあまあ、そんな」
まさかこんな所に味方がいたとは。フローラはアーロンと軽く友情のハグをするぐらいだった。アーロンは出版社にも「愛人探偵」の続きを書いて欲しいと手紙を送っていると言い、涙が出そう。
「実は私だって公爵さまの作品のファンですから!」
そこの今日の昼間、劇の稽古で会ったケイシーが現れた。ワイングラスは片手に持っていて、顔も赤くなっていたが、思い切って告白してくれた。ケイシーは舞台の上では堂々としているが、普通の時はシャイな若い女性らしい。
「まあ、ケイシー。あなたもファンだったの!?」
「ええ。あの『愛人探偵』は下手なホラーよりも怖くて面白いです!」
また味方が見つかった。夫のファンは全滅したはずだったが、まさか「愛人探偵」にこんな若い読者がいたなんて、それだけでも感動だ。ケイシーとも友情のハグをした。
また、今度は女主人のクララもやてきた。今日は紫色の派手なドレス姿だったが、大輪の薔薇のようで、板についていた。
「あら、アーロンにケイシー、それにフローラ。どうしたの? え? みんな公爵さまの『愛人探偵』のファン? 実は私も……」
驚いた事にクララも「愛人探偵」のファンらしく、出版社にファンレターを送ったらしい。ここにもファンがいた。以前、ネイトが「愛人探偵」には熱心なファンが居ると言っていたが、本当だった。
その上、給仕をしているエリサもやってきた。エリサは公爵家で雇っていた洗濯婦だったが、たまにバイトでクララの家で働いているという。マムの事件の時は、エリサも陰で活躍してくれた。小柄な老婆だが、耳年増で噂収集力は信頼できる。
「私も公爵さまの『愛人探偵』は嫌いじゃないね。怖い所以外はほぼ実話だしな」
エリサがそう言うと、他の面々は盛り上がり、フローラに質問責め。
「あの愛人ノート、本物ですか?」
特に脚本家のアーロンは、目を丸くし、興奮気味だったが、フローラが頷くと、一度はさらに湧き立ち。
「でも売り上げが悪くて打ち切りなんですよ。もう、それで私、大変で」
ついつい愚痴る。酒も入っていたので、どこか頭のネジもゆるくなっているようだ。
「そんな~!」
若いケイシーはショックのようだ。他の大人達は受け入れていたが、ケイシーはまだまだ初心っぽい。
「あと二回重版かかれば、シリーズ化してもいいって言われてるけどね」
「だったら、俺が舞台化するぜ!」
何とアーロンから素晴らしい提案も。といってみ舞台化は様々な人が関わるので、脚本家の一存分では無理らしいが、クララも協力してくれると約束してくれた。
再び一同は色めき立ち、この場で「公爵さま大好きクラブ」まで結成した。定期的にみんな出会って「愛人探偵」について語ろう、と。
「あら、もうみんな優しい。ありがとう!」
これにはフローラも笑顔になってしまう。目には嬉し涙。
確かに今は夫もパティに本気になってしまい状況は悪化の一途だが、こんな素晴らしい味方もいる。まだまだ希望は捨てきれない。
気づくパーティーの客はほぼ帰ってしまったが、クララ、ケイシー、アーロン、エリサとみんなで抱き合い、歌を歌い、絆を深めていた。酒が入っているあせいでもあったが、フローラは嬉し泣きし、仲間がいる現状を噛み締めていた。
「嬉しいわ。私にもこんな味方がいるなんて!」
「そうよ、フローラ、負けるんじゃないわ!『愛人探偵』は必ずホラー舞台にしましょう!」
クララに励まされ、フローラのれテンションもクライマックス。千秋楽を迎えた舞台女優のように、涙を流しながらみんなにお礼をスピーチしていた。
こうしてあっという間に夜は更け、この奇妙で賑やかなパーティーもお開きとなり、フローラも千鳥足で公爵家に帰った。
酒のせいか、思わぬ味方が見つかったかは不明だが、フローラの頬は赤く染まり、表情もゆるくなっていた。これだとうっかり者のフィリスも責められれないものだが、フローラの心も綿菓子の如く軽くなり、夫やパティの問題についても、前よりは深刻に思ってなかったが。
「うん?」
公爵家に帰り、裏口から入ろうとしたが、鍵が開いているのに気づいた。おそらくフィリスがうっかりしていたのだろうが、嫌な悪寒が背中を走った。裏口も中途半端に扉が開いていたせいかもしれない。
酔いもすっと抜けてしまった。フローラのこめかみは汗も出ていた。確かに今は夏なので、暑い事は暑いが。
「いや、まさか」
嫌な予感は拭えない。金庫の中身は暗証番号つきだったので、無事だったが、なぜかホッとできない。まだ背中が寒い。
「まさか……」
書斎に直行した。もう夜なので公爵家はしんと寝ってはいたが……。
「ない! 愛人ノートが消えてる!」
書斎に行くと、夫の不貞の全てが記録された愛人ノートが消えていた。
「フィリス、起きて! 大変、愛人ノートが盗まれたわ!」
グースカ寝ているフィリスを叩き起こした事は言うまでもない。
フローラは伯爵夫人・クララの元へ出向き、ホームパーティーを楽しんでいた。伯爵家は客人も多いためか、一階にホールもあり、そこがパーティー会場だった。
中央のテーブルには、ご馳走も並び、ワインやシャンパンも配られ、フローラもすっかりほろ酔い気分だった。客も多く、賑やかだったが、意外と今日は貴族界隈の人も少なく、女主人であるクララの芸術家人脈も多い。画家や脚本家から話を聞くだけで、フローラは笑顔だ。
「へえ、アーロンさんはホラー劇の脚本を書いているんですね」
立食式のパーティーも相まって、フローラの緊張も解け、酒を飲みつつ、脚本家の男に話しかけていた。
脚本家の男はアーロンという。クララとも懇意で特にホラー劇が得意とか。口髭を生やした五十過ぎの男だったが、庶民の家から成功した話を聞くだけで楽しい。
「え、奥さんはあの公爵家の?」
和やかに談笑していたか、夫の名前を出すと、アーロンは目を丸くしていた。おそらくろくでもない噂が広がっていると思い、フローラが身構えたが、アーロンは夫の作品のファンだという。
「本当ですか?」
「ええ。僕は特に『愛人探偵』が好きで。是非あの怖い話を舞台化したいです!」
「まあまあ、そんな」
まさかこんな所に味方がいたとは。フローラはアーロンと軽く友情のハグをするぐらいだった。アーロンは出版社にも「愛人探偵」の続きを書いて欲しいと手紙を送っていると言い、涙が出そう。
「実は私だって公爵さまの作品のファンですから!」
そこの今日の昼間、劇の稽古で会ったケイシーが現れた。ワイングラスは片手に持っていて、顔も赤くなっていたが、思い切って告白してくれた。ケイシーは舞台の上では堂々としているが、普通の時はシャイな若い女性らしい。
「まあ、ケイシー。あなたもファンだったの!?」
「ええ。あの『愛人探偵』は下手なホラーよりも怖くて面白いです!」
また味方が見つかった。夫のファンは全滅したはずだったが、まさか「愛人探偵」にこんな若い読者がいたなんて、それだけでも感動だ。ケイシーとも友情のハグをした。
また、今度は女主人のクララもやてきた。今日は紫色の派手なドレス姿だったが、大輪の薔薇のようで、板についていた。
「あら、アーロンにケイシー、それにフローラ。どうしたの? え? みんな公爵さまの『愛人探偵』のファン? 実は私も……」
驚いた事にクララも「愛人探偵」のファンらしく、出版社にファンレターを送ったらしい。ここにもファンがいた。以前、ネイトが「愛人探偵」には熱心なファンが居ると言っていたが、本当だった。
その上、給仕をしているエリサもやってきた。エリサは公爵家で雇っていた洗濯婦だったが、たまにバイトでクララの家で働いているという。マムの事件の時は、エリサも陰で活躍してくれた。小柄な老婆だが、耳年増で噂収集力は信頼できる。
「私も公爵さまの『愛人探偵』は嫌いじゃないね。怖い所以外はほぼ実話だしな」
エリサがそう言うと、他の面々は盛り上がり、フローラに質問責め。
「あの愛人ノート、本物ですか?」
特に脚本家のアーロンは、目を丸くし、興奮気味だったが、フローラが頷くと、一度はさらに湧き立ち。
「でも売り上げが悪くて打ち切りなんですよ。もう、それで私、大変で」
ついつい愚痴る。酒も入っていたので、どこか頭のネジもゆるくなっているようだ。
「そんな~!」
若いケイシーはショックのようだ。他の大人達は受け入れていたが、ケイシーはまだまだ初心っぽい。
「あと二回重版かかれば、シリーズ化してもいいって言われてるけどね」
「だったら、俺が舞台化するぜ!」
何とアーロンから素晴らしい提案も。といってみ舞台化は様々な人が関わるので、脚本家の一存分では無理らしいが、クララも協力してくれると約束してくれた。
再び一同は色めき立ち、この場で「公爵さま大好きクラブ」まで結成した。定期的にみんな出会って「愛人探偵」について語ろう、と。
「あら、もうみんな優しい。ありがとう!」
これにはフローラも笑顔になってしまう。目には嬉し涙。
確かに今は夫もパティに本気になってしまい状況は悪化の一途だが、こんな素晴らしい味方もいる。まだまだ希望は捨てきれない。
気づくパーティーの客はほぼ帰ってしまったが、クララ、ケイシー、アーロン、エリサとみんなで抱き合い、歌を歌い、絆を深めていた。酒が入っているあせいでもあったが、フローラは嬉し泣きし、仲間がいる現状を噛み締めていた。
「嬉しいわ。私にもこんな味方がいるなんて!」
「そうよ、フローラ、負けるんじゃないわ!『愛人探偵』は必ずホラー舞台にしましょう!」
クララに励まされ、フローラのれテンションもクライマックス。千秋楽を迎えた舞台女優のように、涙を流しながらみんなにお礼をスピーチしていた。
こうしてあっという間に夜は更け、この奇妙で賑やかなパーティーもお開きとなり、フローラも千鳥足で公爵家に帰った。
酒のせいか、思わぬ味方が見つかったかは不明だが、フローラの頬は赤く染まり、表情もゆるくなっていた。これだとうっかり者のフィリスも責められれないものだが、フローラの心も綿菓子の如く軽くなり、夫やパティの問題についても、前よりは深刻に思ってなかったが。
「うん?」
公爵家に帰り、裏口から入ろうとしたが、鍵が開いているのに気づいた。おそらくフィリスがうっかりしていたのだろうが、嫌な悪寒が背中を走った。裏口も中途半端に扉が開いていたせいかもしれない。
酔いもすっと抜けてしまった。フローラのこめかみは汗も出ていた。確かに今は夏なので、暑い事は暑いが。
「いや、まさか」
嫌な予感は拭えない。金庫の中身は暗証番号つきだったので、無事だったが、なぜかホッとできない。まだ背中が寒い。
「まさか……」
書斎に直行した。もう夜なので公爵家はしんと寝ってはいたが……。
「ない! 愛人ノートが消えてる!」
書斎に行くと、夫の不貞の全てが記録された愛人ノートが消えていた。
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