毒妻探偵〜サレ公爵夫人、夫の愛人を調べていたら殺人事件に巻き込まれました〜

地野千塩

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第二部

面白い女編-5

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 フローラは、ゆっくりと愛人ノートを捲っていた。以前と違い、付け足され所は、二箇所見つかった。

 一つはパティの情報を書いたページだった。「パティはピーナッツアレルギー」と書いたが、涙で紙はがぼこぼことし、インクが滲んでいた。変化があったのは、そこへ赤鉛筆でアンダーラインが引かれている事だった。

 犯人が引いたものだろう。間違いない。犯人はここを見てパティをピーナッツオイル入りクッキーで殺す事を思いついたのだろう。

「はは」

 乾いた笑いも出る。ある意味呪いの愛人ノートというのは間違ってなかったのかもしれない。

 そして最後のページ。そこはブランクのはずだったが、新しい文字が刻まれていた。

「奥さん、ごめんなさい、か。これ、あなたが書いた?」

 フローラはそのページを指さしつつ、アリスに見せる。アリスは操り人形のようにコクンと頷いた。

「そう。どういう事か説明してくれる?」

 フローラの言葉に食堂の空気に緊張感が走る。フィリスもアンジェラも押し黙っていたが、アリスだけがポツリポツリと事情を説明し始めた。

 その告白はフローラの予想通りだった。母親のブリジッドを脅しにやってきくるパティと仲良くなり、一緒に脅しながら、アリスも金品を得たという。パティからは愛人ノートを見せられ、ワクワクしながら脅しに興じていたという。

 アリスは無邪気に脅しが楽しかったと言っていた。パティの事も姉のように仲良くなったとか。意外な事にパティと分け前で揉める事はなかった。

 しかしそんなある日。愛人ノートをルーナとブリジッドに盗まれた。その事でアリスとパティも仲違いしてしまったが、再び愛人ノートを奪い返した後、パティが殺されたという。

 これはルーナが殺したと直ぐに分かったアリスは、家出。ルーナの事務所から脱税の記録も盗むと、ホームレス生活を始めたらしい。アリスはカバンからルーナの脱税の記録も見せて「一緒にルーナを脅さない?」とまで言ってきた。

 フローラは頭が痛くなってきた。まるで反省していない。それどころか善悪の区別も全くついていなかったが、このノートの持ち主には同情心もあった模様。

「こんなサレ妻は可哀想だし」

 そう語るアリスは、本当に子供のように見えてしまった。アンジェラもフィリスも呆れてため息しか出ないようだった。

「つまり、パティを殺した犯人はルーナでいいのね?」

 フローラは愛人ノートを閉じながら呟いた。

「うん!」

 アリスは無邪気に頷く。こうして事件のあらましが分かったが、何も嬉しくない。ここにアリスという証人が一人いるが、それが証拠になるか分からない。そもそもこの娘が素直に白警団に自首するものだろうか。

「本当にお前って娘はダメな子だな。でも、ルーナから愛人ノートを奪って脱税の記録まで抑えるのは、やけに頭が回るじゃないか」

 アンジェラは呆れつつも、アリスの頭を軽く叩いていた。

「うん、実はあのパーティ会場のこっそり潜入したけど、パティの部屋にルーナが入っていくの見たよ」
「ねえ、アリス。そこまで知っているのなら、白警団にすべて言わない?」

 今度はフィリスが説得を試みていた。同年代のフィリスに説得されれば聞くとも思ったが、逆効果だった。アリスはわんわん泣き叫び、この後の及んでもルーナを脅したいとまでのたまった。

 アリスの泣き声に耳がキンキンする。フローラはも耳を抑えるが、よっぽどアリスのとって脅しが楽しかったよう。もしかしたら、アリスにとって初めてできた友達はパティだけだったのかもしれない。

 哀れな女だ。それでもこの事件の鍵だ。このまま放り出す訳にはいかない。

「奥さん、どうしますか?」
「そうですよ、奥さん、どうします?」

 フィリスとアンジェラに相談されたが、これはどう判断するのが正しいのだろうか。白警団に言うつもりは無い。だからと言ってアリスがこのまま放り出せない。自首するように説得するのが一番だろうが。

 こうして三人がかりで説得を試みたが、なかなかアリスは頑固だった。まだルーナを脅して楽しみたいと言い、特には泣き叫んだ。

 まるで宇宙人だ。フローラもアンジェラも若い娘の不可解さにへとへと。フィリスも同年代だが、アリスの言っている事が理解できず「無理矢理白警団にいかせましょ!」と地団駄を踏むぐらいだった。

 お茶や蒸しケーキをたっぷりと与え、高級ハンドクリームでアリスの手をマッサージし、北風と太陽作成もしてみたが、目立った効果はなかった。むしろ調子に乗り、アンジェラはキレる場面もあるぐらいだったが。

「あ、でも、あの美男子誰?」

 そんな時、アリスは食堂の壁に飾ってある夫の絵を指差した。これはクロエから買い取った夫の絵で、食堂に飾っていたものだった。絵だけ見ると、確かに薔薇のような美男子だった。アリスは夫の絵を見ながら、頬をポーッと染めていて、気に入ってしまったらしい。

「ああ、すっごい美男子! 推したい!」

 アリスは夫の絵を眺めながら、キャッキャと騒ぎ初めていた。

「奥さん、これはお色気大作戦ですよ。公爵さまに説得して貰うのが良いのでは?」

 フィリスはゲスい目で囁いてきた。

「そうだね。坊ちゃんは顔だけはいいからね。顔だけはね」

 アンジェラの言う通り、夫は顔はいい。金色のハチミツのような髪に青空のような瞳。薔薇公爵と呼ばれているのも納得の美男子。中身は女好きの小心者だが、アリスのような小娘は説得できるかもしれない。

 フローラとしては不本意だったが、これは夫に頼るしかないようだ。アリスは夫の好みから外れたつまらない女だ。その点も大丈夫だろう。

「そうね。これは夫に頼むしかないわ」

 フィリスもアンジェラも深く頷いていた。
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