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第三部
サレ公爵夫人編-1
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季節はすっかり秋だ。フローラが住む公爵家の庭も季節の変化が見えていた。木々の葉は色づき、風も心地よく吹き抜ける。空の色も一枚の絵にしたくなるほど澄んでいた。真夏に殺人事件があった事が嘘のような風景だ。
「さあ。フィリスもアンジェラも召し上がって。美味しそうなカップケーキでしょう」
そんな中、この庭でお茶会を開いていた。テーブルのケーキスタンドの上には、チョコレート、いちごミルク、ブルーベリー、モモのカップケーキが並ぶ。色とりどりで見た目も素晴らしいカップケーキだが、全てフローラの手作りだ。自画自賛したくなるほど上手に焼き上がり、メイド達に振舞っていた。
「わー、かわいいカップケーキ! いいんですか!」
フィリスは大興奮でカップケーキを見つめていた。
「そんな、いいのかね。こんな綺麗なカップケーキはメイドが食べても」
「そんな事ないわよ。いつもお世話になているお礼よ。貴方たちのおかげでマムやパティの事件が解決したようなものだわ」
フローラはにっこりと微笑むと、紅茶をすすった。これは全くの本心だった。パティの事件が終わった後、メイド達も含めてバカンスにも行った。これもフローラの日頃の感謝の気持ちを表したものだった。元々ブラック公爵家と呼ばれる家に来てくれるのも感謝しかない。それにバカンスから帰ってきた後は明らかに二人の仕事のパフォーマンスも上がった。こうしてメイド達に福利厚生するのは悪い事では無いだろう。
こうして三人でゆっくりとお茶を楽しんだ。空は綺麗、風も心地よく、絶好のお茶会日和だ。
フローラもブルーベリーのカップケーキを齧った。片手で少々行儀は悪かったが、事件が起きてから公爵家の名誉も終わっていたし、今更上品ぶっても仕方ない。
カップケーキの味も甘く、口溶けも優しい。我ながら自画自賛したいと思うが。
ふと、空を見上げた。今のこの空の色は夫の目の色にも似てる。薔薇公爵という二つ名があるほどのイケメンだった。不倫ばかりし、フローラを泣かせていた。単なる不倫ではなく、芸の肥やしとしての不貞もフローラを苦しめた。夫は人気恋愛小説家という顔も持っていた。
しかし紆余曲折を経て、今は全く不倫もしていなかった。仕事も恋愛小説家からミステリー作家へ転向し、今のフローラのメンタルも穏やかなものだ。小説の取材で公爵家に帰ってくる事も減ったが、不倫をされるよりよっぽどマシだった。
ちなみに夫は「愛人探偵」というミステリー作品を書き上げ、舞台化も決まり売り上げも好評らしい。一時は打ち切りの危機もあったが、フローラの内助の功もあり、売り上げも何とか保っているという。最近は書店に配るノベルティ作ったり、ファンへの手紙を送ったり夫の仕事の雑務も手伝っていた。
「あれ、フィリス。どうしたの?」
フローラはこんな毎日に全く不満はなかったが、目の前にいるフィリスは微妙な顔を浮かべていた。
「カップケーキまずかった?」
「いえ、カップケーキは美味しかったですよー。でもなんか退屈っていうか。バカンスから帰ってきたら、王都も色褪せて見えて困ってます!」
フィリスはカップケーキを完食していたが、子供のように口を尖らせていた。
ゆるく風が吹き、フィリスの赤毛を揺らす。そばかす肌で、見た目は相変わらず田舎者っぽかったが。
「まあ、確かにな。バカンスが楽しすぎた。日常が色褪せて見えるのもわかる」
メイド頭のアンジェラまでフィリスに同意していた。深く頷いている。
「日常なんて退屈なもんだな。何も起きやしない。仕事してメイドの館で眠って、また起きて仕事しての繰り返し。飽きたかも」
アンジェラはふわぁと欠伸までしていた。フィリスもアンジェラに同調するかのように欠伸。確かにこの庭は心地良い。カップケーキや紅茶も美味しいがあまりにも平和すぎた。
「殺人事件があるよりはマシでは?」
思わずフローラは反論してしまう。気づくと紅茶はすっかり温くなっていた。口に含むと、茶葉の雑味もし、美味しくはない。
「いや、今は事件が懐かしいー!」
「うん、うん。フィリスの言う通り私も推理したいよ。マムの事件の時は私の推理も外れたし」
メイド二人はそんな事も言っていた。
「いえ、事件なんて無い方がいいわよ」
フローラは必死に反論したと同時、夫も帰ってきて庭にやってきた。
相変わらずの美男子だったが、バカンスで日に焼け、肌はかなり黒くなっていた。
「うん、俺も退屈だな。仕事も順調しすぎで。今日も重版かかったって聞いたけど」
夫も大きな欠伸をしていた。
「何か事件ない?」
そんな事まで言っていた。フローラはメイド達と夫に頭を抱えそうになる。
「そんな事件なんてしょっちゅう起きませんよ。平和なのが一番よ!」
フローラは背筋を伸ばし、ビシッと言い放ったが、誰も賛同して貰えなかった。
「さあ。フィリスもアンジェラも召し上がって。美味しそうなカップケーキでしょう」
そんな中、この庭でお茶会を開いていた。テーブルのケーキスタンドの上には、チョコレート、いちごミルク、ブルーベリー、モモのカップケーキが並ぶ。色とりどりで見た目も素晴らしいカップケーキだが、全てフローラの手作りだ。自画自賛したくなるほど上手に焼き上がり、メイド達に振舞っていた。
「わー、かわいいカップケーキ! いいんですか!」
フィリスは大興奮でカップケーキを見つめていた。
「そんな、いいのかね。こんな綺麗なカップケーキはメイドが食べても」
「そんな事ないわよ。いつもお世話になているお礼よ。貴方たちのおかげでマムやパティの事件が解決したようなものだわ」
フローラはにっこりと微笑むと、紅茶をすすった。これは全くの本心だった。パティの事件が終わった後、メイド達も含めてバカンスにも行った。これもフローラの日頃の感謝の気持ちを表したものだった。元々ブラック公爵家と呼ばれる家に来てくれるのも感謝しかない。それにバカンスから帰ってきた後は明らかに二人の仕事のパフォーマンスも上がった。こうしてメイド達に福利厚生するのは悪い事では無いだろう。
こうして三人でゆっくりとお茶を楽しんだ。空は綺麗、風も心地よく、絶好のお茶会日和だ。
フローラもブルーベリーのカップケーキを齧った。片手で少々行儀は悪かったが、事件が起きてから公爵家の名誉も終わっていたし、今更上品ぶっても仕方ない。
カップケーキの味も甘く、口溶けも優しい。我ながら自画自賛したいと思うが。
ふと、空を見上げた。今のこの空の色は夫の目の色にも似てる。薔薇公爵という二つ名があるほどのイケメンだった。不倫ばかりし、フローラを泣かせていた。単なる不倫ではなく、芸の肥やしとしての不貞もフローラを苦しめた。夫は人気恋愛小説家という顔も持っていた。
しかし紆余曲折を経て、今は全く不倫もしていなかった。仕事も恋愛小説家からミステリー作家へ転向し、今のフローラのメンタルも穏やかなものだ。小説の取材で公爵家に帰ってくる事も減ったが、不倫をされるよりよっぽどマシだった。
ちなみに夫は「愛人探偵」というミステリー作品を書き上げ、舞台化も決まり売り上げも好評らしい。一時は打ち切りの危機もあったが、フローラの内助の功もあり、売り上げも何とか保っているという。最近は書店に配るノベルティ作ったり、ファンへの手紙を送ったり夫の仕事の雑務も手伝っていた。
「あれ、フィリス。どうしたの?」
フローラはこんな毎日に全く不満はなかったが、目の前にいるフィリスは微妙な顔を浮かべていた。
「カップケーキまずかった?」
「いえ、カップケーキは美味しかったですよー。でもなんか退屈っていうか。バカンスから帰ってきたら、王都も色褪せて見えて困ってます!」
フィリスはカップケーキを完食していたが、子供のように口を尖らせていた。
ゆるく風が吹き、フィリスの赤毛を揺らす。そばかす肌で、見た目は相変わらず田舎者っぽかったが。
「まあ、確かにな。バカンスが楽しすぎた。日常が色褪せて見えるのもわかる」
メイド頭のアンジェラまでフィリスに同意していた。深く頷いている。
「日常なんて退屈なもんだな。何も起きやしない。仕事してメイドの館で眠って、また起きて仕事しての繰り返し。飽きたかも」
アンジェラはふわぁと欠伸までしていた。フィリスもアンジェラに同調するかのように欠伸。確かにこの庭は心地良い。カップケーキや紅茶も美味しいがあまりにも平和すぎた。
「殺人事件があるよりはマシでは?」
思わずフローラは反論してしまう。気づくと紅茶はすっかり温くなっていた。口に含むと、茶葉の雑味もし、美味しくはない。
「いや、今は事件が懐かしいー!」
「うん、うん。フィリスの言う通り私も推理したいよ。マムの事件の時は私の推理も外れたし」
メイド二人はそんな事も言っていた。
「いえ、事件なんて無い方がいいわよ」
フローラは必死に反論したと同時、夫も帰ってきて庭にやってきた。
相変わらずの美男子だったが、バカンスで日に焼け、肌はかなり黒くなっていた。
「うん、俺も退屈だな。仕事も順調しすぎで。今日も重版かかったって聞いたけど」
夫も大きな欠伸をしていた。
「何か事件ない?」
そんな事まで言っていた。フローラはメイド達と夫に頭を抱えそうになる。
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