毒妻探偵〜サレ公爵夫人、夫の愛人を調べていたら殺人事件に巻き込まれました〜

地野千塩

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第三部

極悪恋愛小説家編-4

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「え、あなた。モラーナにずっと真似されてたの?」

 カフェにフローラの声が響く。周囲は仕事中、読者中の客も多く、フローラは慌てて口を押さえた。

 あれからカフェへ移動し、美女から話を聞いていた。美女はセシリーという。貴族ではないが、王族の親類でもあり、父親大手企業の社長らしい。主にホテル経営や観光産業に力を入れているというが。

 年齢は二十五歳。既婚だともいう。セシリーの左手の薬指には結婚指輪があった。

 育ちの良いお嬢様らしい。コーヒーを飲む仕草も上品。背筋も伸びているし、派手なドレスも似合ってる。やはりモラーナと比べると、セシリーの方がドレスも板についていた。

 カフェではモラーナとの関係を聞いていた。セシリーとモラーナ、それからマリオン、ダリアとは同じ学校の出身だったらしい。あの合コンメンバーは学生時代からの付き合いだった。

 王都の北部にある聖マリーローズ学園出身。宗教を母体とするお嬢様学校で制服も可愛らしいと評判だった。フローラの卒業した学園とは違うが、躾にも厳しいと聞いた事がある。

 セシリーとモラーナは全くタイプが違う。正反対と言っても良い感じだが、なぜか仲が良くなrたそう。仲良くなるにつれ、モラーナはセシリーのファッションやメイク、持ち物を真似されているんだとか。それは今でも続き、学園に卒業生からは「真似っこモラーナ」という二つ名もついているという。

 驚いた。確かに狭い学園内では女の子同士がお憧れる事はよくある。フローラも後輩に真似された事はあったが、睨みつけるとすぐに終わった。卒業して何年もそれが続くのは信じられない。

「真似っこされて気分悪くない?」
「そうですね……。モラーナが私の事を憧れているっていうのは理解できるんですが」

 確かにあの芋臭いモラーナは美女のセシリーに憧れる要素しかないだろう。

「嫌だってハッキリ言ったら?」
「いえ、でも。モラーナは私の友達ですし」

 どうもハッキリしない。フローラはイライラしてコーヒーを口に含む。ミルクも砂糖も入れていないのでビターだったが、今はその味で頭が冷えてきた。

「そもそも何でモラーナと友達? タイプ違うと思うけど?」

 フローラはハッキリと聞いた。美女のセシリーと芋女のモラーナが仲良くしている所は全く想像できない。水と油のようだが。

「いえ、別にモラーナは悪い子ってわけでもなくて。あの……」

 セシリーは急にオドオドしはじめた。何か隠しているのだろうか。

「モラーナは男性にモテた?」
「いいえ、全く。今までに付き合った人もいないでしょう。それでよく恋愛小説なんて書いてる事に出来るわ……」

 吐き捨てるセシリーは決して気弱ではない。だから余計に謎だ。うざったい真似っこ女を拒否できない理由が想像できない。

「まあ、フローラ。大丈夫ですよ。あんな芋っぽいモラーナが略奪するのは無理」
「でも私の夫って女の趣味が悪いんですよね」
「それ、ブーメランですよ。奥さん、変わってますね。まるで旦那さんの事になると頭のネジが抜けるみたいよ」

 セシリーの指摘はもっともで全く反論できない。あんな不貞を働く夫にも完全に拒絶もできず、嫌いになれない。かといって今更男として見えるかも微妙だった。今は夫とは夫婦の営みも全く無い。当然子供の予定も無かったが、情だけは確実にあった。

「あなたも結婚してるでしょ」
「ええ。でも恋愛感情はないわ。知ってる? 恋愛感情って三年たつと消えるらしい。夫婦関係を維持するのは、感情ではなく意志の力も必要みたいよ」

 セシリーの目は冷めていた。さっき聞いたモラーナの恋愛論、夫が書いた情熱的な恋愛小説とは全く別の目だった。綺麗な見た目に反し、セシリーは現実的だ。そういえばセシリーもコーヒーにはミルクも砂糖も入れていなかった。

「つまらない日常も、マンネリ化した夫婦も仲良くするには意志が必要ね。その点、愛人はいいよね。楽しくて甘い部分も貪るだけ。都合の良い関係よね」

 そう語るセシリーは達観しているようだ。年齢の割に地に足がつき過ぎていた。

「フローラはどう? つまらない日常も旦那さんと過ごせる?」

 フローラの心を試されるような事も聞かれた。見た目に反してセシリーは結構意地悪らしい。

「いえ、人の心配はいいわ。モラーナについて何か知ってる事は?」
「さあ。私は極力あの子とは関わりたくない」
「他のマリオン、ダリアについて知らない?」
「モラーナに比べたら、二人はいい子よ」

 のらりくらりとはぐらかされた。これ以上セシリーに事情を聞くのは難しいだろう。会計を済ませ、一緒にカフェを出た時だった。

「あなた! 偶然じゃない。ここで何してたの?」

 セシリーの夫と会った。

 フローラはポカンと口を開けていた。セシリーの夫は、先日会ったアドルフだった。あの夫とそっくりな男で、フローラは驚きを隠せない。向こうは特に驚いていなかったが、セシリーとアドルフは腕を組み、街中へ消えていく。

「セシリーの夫ってアドルフだったの……?」

 一人残されたフローラの脳裏にモラーナの姿がよぎる。

 真似っこモラーナ。全部真似っこしようと企み、フローラの夫を略奪する事もあり得る?

 夫とアドルフと似てる。中身はともかく容姿はそっくり。あり得ない話では無いだろう。

「まだ愛人じゃないからって油断していたわ。これは早いうちに芽を摘んでおかないと!」

 フローラは慌てて公爵家へ走っていた。
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