毒妻探偵〜サレ公爵夫人、夫の愛人を調べていたら殺人事件に巻き込まれました〜

地野千塩

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第三部

新しい夫婦関係編-2

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 公爵家の客間にセシリーとアドルフが座っていた。正直、この夫婦がこの場所にいるのは違和感しかない。夫そっくりのアドルフがこの家にいて良いのか全く分からない。

 先程フィリスが紅茶や栗のマフィンを持ってきたが、アドルフの顔を見たら目玉が飛び出しそうだった。田舎者らしくバタバタと去った行ったが、アドルフの顔を見た後では責められない。客間のドアの側で聞き耳をたてているだろうが、怒る気にもなれない。

「で、お二人ともどういう事かしら。私に何の用?」

 フローラは二人がこの公爵家に来た理由は分からないが、いつものように嘘臭い作り笑いを見せた。

「どうぞ、紅茶も召し上がって。この栗のマフィンも私が焼いたのよ」

 そうは言っても二人とも沈痛な面持ちだった。特にセシリーは顔が暗く、目も死んでるいるよう。

「マリオンの事は悲しかったわね。お辛いでしょう」

 セシリーの気持ちなどは推し量れないが、友達が自殺して楽しい訳がないだろう。悪役女優顔のフローラだったが、腐っても公爵夫人だ。二人に慈悲深い表情も見せていた。

「う、そうなんだ。妻はマリオンが自殺した事がショックで……。一番の親友だったからば」

 アドルフは今にも泣きそうなセシリーの肩をさする。夫そっくりなアドルフの優しい態度を見ていると目に毒だ。夫は決してこんな優しい態度をしないと思うと、胃がチクチクしてきたが。

「私は今、マリオンの事件について調べているわ。どういう事? 何か協力できるかもしれない。セシリー、知っている事を話してくれないかしら?」
「公爵夫人もそう言っているぞ。な、この人はマムやパティの事件も解決したらしい。セシリー、話して」

 フローラもアドルフもセシリーに優しく語りかけた。

「え、ええ。話すわ、知っている事は全部……」

 セシリーは下唇を噛みつつ、頷いた。今は辛そうだが、話してくれるらしい。

「私とマリオンは元々仲が良かったんです。自分で言うのもなんですが、学園では目立つ二人組って感じで、後輩からも慕われてました」

 実際、セシリーは容姿が良い。その言葉も全く嫌味ではなく、フローラはさらに頷く。

「でも私達、遊びでちょっと薬に手を出してしまって……。私はアドルフのおかげで辞められたんですが、マリオンはそうじゃなくてね。しかもモラーナから脅しも始まって……」

 しかも脅しの対価は金ではなかった。友達になって欲しいという事だったが、服装やメイク、話し方なども真似っこされ、想像以上にストレスだったらしい。

「他のクラスメイトや先生にもモラーナと仲が良いと思われる事が本当に嫌でした。あんな芋臭くて性格が悪いいじめられっ子と一緒にして欲しくない」

 セシリーは吐き捨ていた。精神的ショックも大きそうだが、その声ははっきりと大きい。よっぽどモラーナが嫌いだったのだろう。

 道理であの女達が友達に見えなかったわけだ。フローラは納得し頷くが、セシリーがさらに言葉を続けた。

「ダリアもモラーナに脅されていたみたい。あの子は万引き常習犯で、モラーナにはカンニング手伝ってあげたり、作文の代筆も。今はゴーストライターもやってあげてるみたいで、本当にもうモラーナの悪質さには言葉もないわ……」

 セシリーはついに泣き始めてしまう。モラーナの脅しは相当しつこかったのだろう。フローラもも言葉が出ない。

「ダリアとはモラーナの被害者同士で仲良くなりました。あの子はモラーナと違って頭もいいし、家柄もいいから」
「そう……」

 セシリーは泣きながらも身分の高い人間の嫌らしさを隠さない。

「ええ、モラーナはダリアともマリオンとも揉めてたわ。二人とも縁を切ろうとしてたから。たぶん、マリオンを襲った犯人はモラーナ。モラーナを襲った犯人はダリアだと思う」

 セシリーの憶測はおおむね同意だ。フローラは無言で頷く。まるで脅迫の輪廻状態だ。この輪廻から解脱する方法はフローラには分からない。

「でも証拠はないのよね?」
「ええ」

 セシリーは弱々しく頷くが、もうセシリーからの証言も得られた。病院に入院中のモラーナはともかく、ダリアは捕まえられるかもしれない。

「ありがとう、セシリー。ダリアと会ってみようと思うわ」
「お願いよ。早く事件を解決して。これじゃマリオンが浮かばれない。これは間接的な殺人よ。私は殺人犯のモラーナは絶対に許さない……」

 再びセシリーは泣き、アドルフは彼女の肩をさすっていた。

 この光景は本当に目に毒だ。フローラが喉から手が出るほど欲しいものが目の前にある。二人の夫婦仲は良好なのだろう。フローラは泣いている時、夫が肩をさするか分からない。それどころか「つまんねー女」だと暴言を吐いてくる可能性もある。アドルフが夫とそっくりな容姿なのも、余計に傷つけられるようだが。

 それでもアドルフは夫でもない。彼の頬の黒子を見ながら、フローラは冷静に言い放った。

「ここで夫婦でイチャイチャするの辞めてくれません? 私はこれからダリアを捕まえに行くのに」
「奥さん、本当に捕まえてくれます?」

 泣いていたセシリーだったが、フローラが笑顔を見せると、目に光が戻り始めていた。

「ええ。必ず捕まえますから。ダリアだって私の夫を略奪しようとした女ですからね。私怨で捕まえるわ!」

 フローラは胸をはり、堂々と宣言すると、セシリー達も落ち着いたようだ。最後は笑顔を見せて帰っていった。

 一人残されたフローラは栗のマフィンを齧っていた。糖分を頭に入れると、頭も冴えてきた。証拠はないが、もうダリアを捕まえられる自信も出てくる。

「奥さん! 聞きましたよ。ダリアを捕まえるんですね!」

 客間の話を聞いていたと思われるフィリスも入ってきた。フィリスだけでなく、アンジェラや夫までいる。夫はアドルフの容姿にかなりショックを受けているようで、言葉も失っていたが。

「ええ。これから捕まえに行くわよ」
「ちょ、奥さま大丈夫です?」

 この場でアンジェラだけが心配してきた。フィリスは「メンヘラの奥さんにダリアも負けますって」と笑い、夫はまだ呆然としていたが。

「ずるい、フローラばっかり楽しい事して」

 夫は急に口を尖らせ不機嫌。

「俺もダリアを捕まえるぞ!」
「足手纏いになりそうだけどね?」

 フローラは冷静にツッコミを入れるが、夫は無視。結局、二人で学園に向かう事になった。偶然にも明日、学園では秋祭りを開催されるらしい。その最中だったら、ダリアも自白するだろうか。

「俺は世界に一人しかいない存在だぞ。アドルフに負けないぞ」
「何でアドルフに対抗意識持ってるのよ……」

 能天気な夫の声に頭が痛くなってきたが、二人だったらダリアも簡単に捕まえられるかもしれない?

 今のフローラには何の不安も心配もなく、笑顔だった。
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