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第二章
13話
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俺は残っていたお猪口の酒を飲み干した。ほんのり酔いが回ってきて、体の芯がじんわりあたたかくなる。さっき頼んだ三種盛りが運ばれてきたあたりで、俺は同じ日本酒をもう一合、レイは芋焼酎のロックを追加で頼んでいた。
「飲み過ぎんなよ~」
「シキくんこそね!」
そんな、飲みの席でよくあるやり取りを交わしながら、気づけばテーブルの上はだいぶ片付いていた。皿もグラスも空に近くて、話に夢中だったせいで、時間の流れに気づいてなかった。
「失礼します。ラストオーダーのお時間ですが、何か追加でご注文されますか?」
店員の声に、俺とレイは同時に顔を上げた。
「あっ、やばっ!めっちゃ長居してたね、俺ら」
「もうこんな時間か。何か頼むか?」
「う~ん、俺はいいかなぁ。強いて言うなら、あったかいお茶ぐらい?」
「じゃあ、あったかいお茶2つと、このバニラアイス下さい」
「かしこまりました!」
店員が奥へ戻っていくと、俺たちは再び静けさの中に取り残された。
「今日はなんかいつもより楽しかったかも」
ぽつりと、レイが呟いた。頬はほんのり赤くて、さっきまでの騒ぎっぷりとは打って変わって、やけに静かだ。
「ふ~ん。途中めっちゃ拗ねてたのに?」
「あれは!そもそもシキくんがあんな感じだったからでしょ!?原因は君ですよ!シキくん!」
勢いよく言い返してきたわりに、レイの声はどこか照れてるみたいで。俺は水をひと口飲んで、わざとらしく肩をすくめる。
「はいはい、俺のせいってことで。じゃあ次は、」
"次はお寿司だな"なんて言いかけたところで、注文していたバニラアイスとあったかいお茶が運ばれてきた。テーブルの上にそっと置かれた小さな器に、レイの視線が吸い寄せられる。
「何?ほしいの?」
俺がそう聞くと、レイはちょっとだけ目を丸くしてから、素直に答えた。
「ください!」
素直すぎて笑いがこみ上げる。俺はわざと少し間を置いて、スプーンを持ったままレイを見る。
「じゃあ、このまま自分で食うか、食べさせてもらうかどっちがいい?」
「えっ……た、食べさせてくれるなら!そっちがいいに決まってますけど!?」
「そっか、じゃあ口、開けろ」
言われるがまま、レイは恥ずかしそうにゆっくりと口を開けた。俺は小さく笑って、スプーンをそっと差し出す。
「あーん……ほら、うまいか?」
「おいしい!!」
幸せそうに微笑むレイを見て、俺も自然と口元が緩まる。そのままスプーンを引き戻し、もう一口すくって、自分の口に運んだ。
冷たい甘さが舌の上で溶けていく。ほんの少しだけ、口の中に残る熱が、余計に甘さを引き立てている気がした。
「たしかに、うまいな」
レイは湯呑みを両手で包み込みながら、少しだけ目を細めて俺を見ていた。
その視線に気づきながらも、俺はアイスを食べ進める。
アイスの最後のひと口を平らげたあと、俺は湯呑みに口をつける。
そんなタイミングを見計らったように、レイが口を開いた。
「ねぇ、シキくんがもしまだ時間あったらなんだけど」
「ん?」
「駅の向こう側に知り合いがやってるバーがありまして、そこ一緒に行きたいなぁ……なんて、思ったりしてるんですが」
ちら、と俺の顔色を窺うように目を向けてくる。
元々、何軒かハシゴするんだろうなとは思ってたし、明日の依織との約束も夜からだ。時間に余裕はある。
「別にいいけど、お前はいいの?終電とか」
「全然大丈夫!タクシーで帰る予定だったし!」
あっけらかんと、でも嬉しそうに笑うレイを見て、思わず鼻で笑ってしまう。
「なら、行こう」
「やったー!」
テーブルの上に置かれた伝票を、俺が手に取ろうとした瞬間
「ちょ、待って!それ俺が払うから!」
レイが慌てて身を乗り出し、俺の手から伝票を引っ掴んだ。
「今日ごはん奢らせて!お願い!払わせて!」
「……は?」
少し目を細めて、レイの顔を覗き込むと、思ったよりも真剣な表情をしていやがる。
「なんか、さすがに、今日は払わないとお金出さないと、ファンサ的にも、課金したい」
「何言ってんだ、お前」
なんだそのアイドルみたいな理屈は。
「えっ、だって今日のシキくん、ちょっとやばかったもん。表情も、声も、“あーん”とかも、無理。シラフで食らってたら死んでたね。尊い。好き」
ぶつぶつ呟きながら、レイは財布を出して伝票を掴んだまま離さない。おまけに頬はほんのり赤いし、たぶん焼酎が効いてきてる。
これは譲ってもらえないパターンだな。
「そこまで言うなら、ありがたく課金されといてやる」
「ほんと!?やったー!!」
満面の笑みを浮かべたレイは、意気揚々とレジに向かっていく。まるで戦利品でもゲットしたかのような足取りで伝票を握りしめて行った。
その後ろ姿を見送りながら、俺は小さくため息をついた。
暖簾をくぐって外に出て、空を見上げると、雲が低く垂れ込めている。
「うわ、空……めっちゃ怪しい」
すぐ後ろから出てきたレイが、俺の隣に立って空を見上げた。頬はまだほんのり赤い。目元はとろんとしているくせに、声はやけに明るい。
「雨、降りそうだな」
「ねー。俺、傘持ってきてない」
「俺も。まぁとりあえず向かうか」
「そだねー」
駅に向かって、並んで歩き出す。夜風が少し強くなっている気がする。道路に足音を重ねながら、ふと、ぽつりと冷たいものが額に落ちた。
見上げると、さっきまでただ重たかった雲の隙間から、ついに雨粒が落ちてきていた。
「あー、降ってきたな」
「うわ、ちょっと強くなってきてない?普通にやばいやつじゃん……」
レイが笑いながら言いかけた瞬間、ばらばらと雨脚が強くなる。ぽつぽつが、ばらばらになり、気づけば土砂降り。
足元にできた水たまりが、街灯の明かりをゆらりと反射していた。
周囲の音が、雨のせいでかき消されていく。
レイが頭を押さえながら、何か雨に文句を言っているのを横目に見ながら、俺は足を止めた。
「……こっち」
そう言って、やつの手首を掴む。レイが「え?」と戸惑う間もなく、俺はそのまま歩き出した。有無を言わせず、濡れた道路を歩きながら引っ張っていく。
「し、シキくん!? どこ行くの!? そっち駅じゃないよ!?」
雨の音にかき消されるようなレイの声を背中に受けながら、俺は何も答えずに歩き続ける。
土砂降りの中、踏みしめる足音と、水たまりを蹴る音だけが耳に残る。
手の中にあるレイの手首には、少しだけ力が入ってた。けど、それでも俺の歩調に合わせてちゃんとついてくる。レイは最初こそ戸惑っていたが、途中からはもう何も言わなかった。
街灯をいくつか越えて、角を曲がる。そして、エントランスの軒下に滑り込むようにして立ち止まった。
ようやく足を止めた俺に、レイが息を切らして顔を向ける。
「シキくん、ここって……」
その声に、俺はようやく振り返り額に張り付く髪の毛を手でかき上げた。そして、カバンから鍵を取り出して、エントランスのオートロックを解除する。
「ここ、うち。ほら、入れよ」
「飲み過ぎんなよ~」
「シキくんこそね!」
そんな、飲みの席でよくあるやり取りを交わしながら、気づけばテーブルの上はだいぶ片付いていた。皿もグラスも空に近くて、話に夢中だったせいで、時間の流れに気づいてなかった。
「失礼します。ラストオーダーのお時間ですが、何か追加でご注文されますか?」
店員の声に、俺とレイは同時に顔を上げた。
「あっ、やばっ!めっちゃ長居してたね、俺ら」
「もうこんな時間か。何か頼むか?」
「う~ん、俺はいいかなぁ。強いて言うなら、あったかいお茶ぐらい?」
「じゃあ、あったかいお茶2つと、このバニラアイス下さい」
「かしこまりました!」
店員が奥へ戻っていくと、俺たちは再び静けさの中に取り残された。
「今日はなんかいつもより楽しかったかも」
ぽつりと、レイが呟いた。頬はほんのり赤くて、さっきまでの騒ぎっぷりとは打って変わって、やけに静かだ。
「ふ~ん。途中めっちゃ拗ねてたのに?」
「あれは!そもそもシキくんがあんな感じだったからでしょ!?原因は君ですよ!シキくん!」
勢いよく言い返してきたわりに、レイの声はどこか照れてるみたいで。俺は水をひと口飲んで、わざとらしく肩をすくめる。
「はいはい、俺のせいってことで。じゃあ次は、」
"次はお寿司だな"なんて言いかけたところで、注文していたバニラアイスとあったかいお茶が運ばれてきた。テーブルの上にそっと置かれた小さな器に、レイの視線が吸い寄せられる。
「何?ほしいの?」
俺がそう聞くと、レイはちょっとだけ目を丸くしてから、素直に答えた。
「ください!」
素直すぎて笑いがこみ上げる。俺はわざと少し間を置いて、スプーンを持ったままレイを見る。
「じゃあ、このまま自分で食うか、食べさせてもらうかどっちがいい?」
「えっ……た、食べさせてくれるなら!そっちがいいに決まってますけど!?」
「そっか、じゃあ口、開けろ」
言われるがまま、レイは恥ずかしそうにゆっくりと口を開けた。俺は小さく笑って、スプーンをそっと差し出す。
「あーん……ほら、うまいか?」
「おいしい!!」
幸せそうに微笑むレイを見て、俺も自然と口元が緩まる。そのままスプーンを引き戻し、もう一口すくって、自分の口に運んだ。
冷たい甘さが舌の上で溶けていく。ほんの少しだけ、口の中に残る熱が、余計に甘さを引き立てている気がした。
「たしかに、うまいな」
レイは湯呑みを両手で包み込みながら、少しだけ目を細めて俺を見ていた。
その視線に気づきながらも、俺はアイスを食べ進める。
アイスの最後のひと口を平らげたあと、俺は湯呑みに口をつける。
そんなタイミングを見計らったように、レイが口を開いた。
「ねぇ、シキくんがもしまだ時間あったらなんだけど」
「ん?」
「駅の向こう側に知り合いがやってるバーがありまして、そこ一緒に行きたいなぁ……なんて、思ったりしてるんですが」
ちら、と俺の顔色を窺うように目を向けてくる。
元々、何軒かハシゴするんだろうなとは思ってたし、明日の依織との約束も夜からだ。時間に余裕はある。
「別にいいけど、お前はいいの?終電とか」
「全然大丈夫!タクシーで帰る予定だったし!」
あっけらかんと、でも嬉しそうに笑うレイを見て、思わず鼻で笑ってしまう。
「なら、行こう」
「やったー!」
テーブルの上に置かれた伝票を、俺が手に取ろうとした瞬間
「ちょ、待って!それ俺が払うから!」
レイが慌てて身を乗り出し、俺の手から伝票を引っ掴んだ。
「今日ごはん奢らせて!お願い!払わせて!」
「……は?」
少し目を細めて、レイの顔を覗き込むと、思ったよりも真剣な表情をしていやがる。
「なんか、さすがに、今日は払わないとお金出さないと、ファンサ的にも、課金したい」
「何言ってんだ、お前」
なんだそのアイドルみたいな理屈は。
「えっ、だって今日のシキくん、ちょっとやばかったもん。表情も、声も、“あーん”とかも、無理。シラフで食らってたら死んでたね。尊い。好き」
ぶつぶつ呟きながら、レイは財布を出して伝票を掴んだまま離さない。おまけに頬はほんのり赤いし、たぶん焼酎が効いてきてる。
これは譲ってもらえないパターンだな。
「そこまで言うなら、ありがたく課金されといてやる」
「ほんと!?やったー!!」
満面の笑みを浮かべたレイは、意気揚々とレジに向かっていく。まるで戦利品でもゲットしたかのような足取りで伝票を握りしめて行った。
その後ろ姿を見送りながら、俺は小さくため息をついた。
暖簾をくぐって外に出て、空を見上げると、雲が低く垂れ込めている。
「うわ、空……めっちゃ怪しい」
すぐ後ろから出てきたレイが、俺の隣に立って空を見上げた。頬はまだほんのり赤い。目元はとろんとしているくせに、声はやけに明るい。
「雨、降りそうだな」
「ねー。俺、傘持ってきてない」
「俺も。まぁとりあえず向かうか」
「そだねー」
駅に向かって、並んで歩き出す。夜風が少し強くなっている気がする。道路に足音を重ねながら、ふと、ぽつりと冷たいものが額に落ちた。
見上げると、さっきまでただ重たかった雲の隙間から、ついに雨粒が落ちてきていた。
「あー、降ってきたな」
「うわ、ちょっと強くなってきてない?普通にやばいやつじゃん……」
レイが笑いながら言いかけた瞬間、ばらばらと雨脚が強くなる。ぽつぽつが、ばらばらになり、気づけば土砂降り。
足元にできた水たまりが、街灯の明かりをゆらりと反射していた。
周囲の音が、雨のせいでかき消されていく。
レイが頭を押さえながら、何か雨に文句を言っているのを横目に見ながら、俺は足を止めた。
「……こっち」
そう言って、やつの手首を掴む。レイが「え?」と戸惑う間もなく、俺はそのまま歩き出した。有無を言わせず、濡れた道路を歩きながら引っ張っていく。
「し、シキくん!? どこ行くの!? そっち駅じゃないよ!?」
雨の音にかき消されるようなレイの声を背中に受けながら、俺は何も答えずに歩き続ける。
土砂降りの中、踏みしめる足音と、水たまりを蹴る音だけが耳に残る。
手の中にあるレイの手首には、少しだけ力が入ってた。けど、それでも俺の歩調に合わせてちゃんとついてくる。レイは最初こそ戸惑っていたが、途中からはもう何も言わなかった。
街灯をいくつか越えて、角を曲がる。そして、エントランスの軒下に滑り込むようにして立ち止まった。
ようやく足を止めた俺に、レイが息を切らして顔を向ける。
「シキくん、ここって……」
その声に、俺はようやく振り返り額に張り付く髪の毛を手でかき上げた。そして、カバンから鍵を取り出して、エントランスのオートロックを解除する。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
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表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
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