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第二章
12話
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「お待たせしました~、トロほっけと鯛のカルパッチョ、それから日本酒と白州です」
「ありがとうございます」
「わ、これもおいしそう!」
手際よく料理が並べられていく。刺し身に続いて並ぶ彩りに、テーブルの上はますます賑やかになった。空になったグラスは下げられ、新しいグラスからは炭酸が弾ける音が聞こえる。
そんな中、ふいにレイが口を開いた。
「シキくんってさ」
話題を切り替える声。レイは肘をついて、じっとこっちを見てくる。
「外で飲んだりって、あんまりしてるイメージないんだけどさ。一人で飲みに行ったりとかするの?」
レイの問いに、俺はお猪口を傾けながら、少し思い返してみた。
確かに、適当な酒とつまみを買って家で晩酌はあっても、一人で飲みにどこかへ行くことはあまりない。最近は、姉ちゃんや依織と飯を食うことはあったが、それ以外はこいつとしか外食したことがない気もする。忘年会や新年会を除けばの話だが。
「んー……誘われたら行くことはあるけど。一人で飲みに行ったりは、あんまりしないなぁ」
「えっ」
間の抜けた声が返ってくる。視線を向けると、レイが目をぱちくりさせて、固まっていた。
「ちょ、ちょっと待って。え、誘われたらって……え、誰に!?」
箸を握ったまま、レイがじりじりと身を乗り出してくる。その顔があまりにも真剣すぎて、思わず笑ってしまいそうになる。
「まぁ、いるにはいる、ぞ?」
うざいぐらい食事に誘ってくるやつがな。と心の中で呟きながら、その男と目を合わせる。
「誰!?俺の知ってる人!?」
「落ち着けって」
俺は苦笑しながら、料理が並べられたテーブルの写真を撮り、姉ちゃんに『夜ご飯」とだけメッセージを送った。あの連絡の後、姉ちゃんからは『楽しんでおいで~』と返信が届いていた。何食べてるのかも送信できたし、姉ちゃんも安心してくれるだろう。
「無理無理!職場の人?ほんとに誰!?教えて!」
必死な声に、俺はわざとゆっくり視線を上げる。レイと目が合った瞬間、にやりと口角を上げて笑ってみせる。全く、こいつは肝心なところで気がつかないなんて残念なやつだ。こういう時こそ、いつもみたいに「俺だけだよね~、言わなくてもわかってるよ!」とか言えばいいのに。
「気になるか?」
「き、気になります……!教えてください!」
挙手しながらこちらに期待の眼差しを向けるレイに手招きして「耳貸せ」とだけ言った。キラキラした目でテーブルの上に身を乗り出して耳を傾けてくるレイの耳元で囁いた。
「……ひみつ」
わざとらしく、挑発するような感じで、吐息を絡めながら囁けば、レイの肩がびくりと跳ねた。一瞬、時が止まったみたいに固まり、無言のまま、レイは耳を押さえてゆらりと身を引き、テーブルに背を預けるようにズルズルと座り直す。
赤くなった顔を手で覆って、小さく呻いた。
「し、死ぬ。今日のシキくん、破壊力がすごすぎる」
まるでダメージを受けたゲームキャラみたいに、うなだれたレイの肩が小刻みに震えている。俺はただ、知らん顔で刺し身を口に運ぶだけだった。
「なぁ、レイ」
「……なに」
「この最後の一切れもらっていい?」
「……もぉおおおおおお~~~~~!!!いいよ!!!!!」
俺はただ、何事もなかったように刺し身を口に運び、涼しい顔で咀嚼した。口の中に広がる旨味を噛み締めながら、チラッとだけレイの悶絶を確認する。普段は、ぐいぐい距離を詰めてくるこいつに翻弄されっぱなしなのに。たまには、こうして転がす側に回るのも悪くない。
「顔真っ赤だな。俺に言わせるんだろ?言わせる前にお前がダウンするんじゃねぇの?なぁレイ」
その声にレイはガバッと顔を上げた。頬を真っ赤に染めたまま、目を逸らすようにハイボールのグラスに手を伸ばす。
「む、無理……!飲まないとやってらんない!!」
そのままハイボールをグイッと煽ると、氷がカランと音を立てた。喉を通る音が妙に色っぽく聞こえて、俺は思わず目を細める。
「その飲み方。酔っ払うぞ」
「知らない!!シキくんが悪い!!」
「えぇぇ」
「さっきの言い方、絶対わざとでしょ!?言葉選びも、声も表情も、全部ずるい!」
ぶつぶつと責め立てるような口調のくせに、耳まで赤いその顔じゃ説得力がない。俺は特に反論もせず、ふっと息をついた。
「せっかくのトロほっけが冷める。ほら、早く食うぞ~」
そう言いながら、皿の上の焼き魚に箸をのばす。しっとり脂の乗った身が湯気を上げていて、俺はそいつに夢中なふりを決め込んだ。
「も~。シキくんはいつも、そうやって……」
小さく拗ねる声を聞き流しつつ、ふと目をやると、レイの視線がまだこちらに向いていた。俺は一切れ、ちょうどいい大きさにほぐし、それを箸でつまんで、そのまま、レイの口元へ差し出す。
「ほら、あーん」
「うっ、あ、あーん」
目をぱちくりさせてから、恥ずかしそうに口を開けて受け取るレイ。焼き魚を受け取ったその顔が、ぱっと綻んだ。
「ん~~~!おいし!」
とろんと目を細めて、幸せそうに頬をゆるませるレイを見て、俺はフッと笑った。
「な?早く食べようぜ」
俺がそう言うと、レイはもぐもぐしながらこちらを見上げてくる。さっきまでテンション高めに騒いでたのが嘘みたいに静かで、なんだか拍子抜けだ。
「なに黙ってんだよ」
「なんでもないです~~~」
レイはそう言いながらも、顔を赤くしたまま目線を逸らして、焼き魚に箸を伸ばす。
無言でちょんちょんと身をほぐして食べている様子が、なんだか猫みたいで、ちょっとだけ可愛かった。
「ありがとうございます」
「わ、これもおいしそう!」
手際よく料理が並べられていく。刺し身に続いて並ぶ彩りに、テーブルの上はますます賑やかになった。空になったグラスは下げられ、新しいグラスからは炭酸が弾ける音が聞こえる。
そんな中、ふいにレイが口を開いた。
「シキくんってさ」
話題を切り替える声。レイは肘をついて、じっとこっちを見てくる。
「外で飲んだりって、あんまりしてるイメージないんだけどさ。一人で飲みに行ったりとかするの?」
レイの問いに、俺はお猪口を傾けながら、少し思い返してみた。
確かに、適当な酒とつまみを買って家で晩酌はあっても、一人で飲みにどこかへ行くことはあまりない。最近は、姉ちゃんや依織と飯を食うことはあったが、それ以外はこいつとしか外食したことがない気もする。忘年会や新年会を除けばの話だが。
「んー……誘われたら行くことはあるけど。一人で飲みに行ったりは、あんまりしないなぁ」
「えっ」
間の抜けた声が返ってくる。視線を向けると、レイが目をぱちくりさせて、固まっていた。
「ちょ、ちょっと待って。え、誘われたらって……え、誰に!?」
箸を握ったまま、レイがじりじりと身を乗り出してくる。その顔があまりにも真剣すぎて、思わず笑ってしまいそうになる。
「まぁ、いるにはいる、ぞ?」
うざいぐらい食事に誘ってくるやつがな。と心の中で呟きながら、その男と目を合わせる。
「誰!?俺の知ってる人!?」
「落ち着けって」
俺は苦笑しながら、料理が並べられたテーブルの写真を撮り、姉ちゃんに『夜ご飯」とだけメッセージを送った。あの連絡の後、姉ちゃんからは『楽しんでおいで~』と返信が届いていた。何食べてるのかも送信できたし、姉ちゃんも安心してくれるだろう。
「無理無理!職場の人?ほんとに誰!?教えて!」
必死な声に、俺はわざとゆっくり視線を上げる。レイと目が合った瞬間、にやりと口角を上げて笑ってみせる。全く、こいつは肝心なところで気がつかないなんて残念なやつだ。こういう時こそ、いつもみたいに「俺だけだよね~、言わなくてもわかってるよ!」とか言えばいいのに。
「気になるか?」
「き、気になります……!教えてください!」
挙手しながらこちらに期待の眼差しを向けるレイに手招きして「耳貸せ」とだけ言った。キラキラした目でテーブルの上に身を乗り出して耳を傾けてくるレイの耳元で囁いた。
「……ひみつ」
わざとらしく、挑発するような感じで、吐息を絡めながら囁けば、レイの肩がびくりと跳ねた。一瞬、時が止まったみたいに固まり、無言のまま、レイは耳を押さえてゆらりと身を引き、テーブルに背を預けるようにズルズルと座り直す。
赤くなった顔を手で覆って、小さく呻いた。
「し、死ぬ。今日のシキくん、破壊力がすごすぎる」
まるでダメージを受けたゲームキャラみたいに、うなだれたレイの肩が小刻みに震えている。俺はただ、知らん顔で刺し身を口に運ぶだけだった。
「なぁ、レイ」
「……なに」
「この最後の一切れもらっていい?」
「……もぉおおおおおお~~~~~!!!いいよ!!!!!」
俺はただ、何事もなかったように刺し身を口に運び、涼しい顔で咀嚼した。口の中に広がる旨味を噛み締めながら、チラッとだけレイの悶絶を確認する。普段は、ぐいぐい距離を詰めてくるこいつに翻弄されっぱなしなのに。たまには、こうして転がす側に回るのも悪くない。
「顔真っ赤だな。俺に言わせるんだろ?言わせる前にお前がダウンするんじゃねぇの?なぁレイ」
その声にレイはガバッと顔を上げた。頬を真っ赤に染めたまま、目を逸らすようにハイボールのグラスに手を伸ばす。
「む、無理……!飲まないとやってらんない!!」
そのままハイボールをグイッと煽ると、氷がカランと音を立てた。喉を通る音が妙に色っぽく聞こえて、俺は思わず目を細める。
「その飲み方。酔っ払うぞ」
「知らない!!シキくんが悪い!!」
「えぇぇ」
「さっきの言い方、絶対わざとでしょ!?言葉選びも、声も表情も、全部ずるい!」
ぶつぶつと責め立てるような口調のくせに、耳まで赤いその顔じゃ説得力がない。俺は特に反論もせず、ふっと息をついた。
「せっかくのトロほっけが冷める。ほら、早く食うぞ~」
そう言いながら、皿の上の焼き魚に箸をのばす。しっとり脂の乗った身が湯気を上げていて、俺はそいつに夢中なふりを決め込んだ。
「も~。シキくんはいつも、そうやって……」
小さく拗ねる声を聞き流しつつ、ふと目をやると、レイの視線がまだこちらに向いていた。俺は一切れ、ちょうどいい大きさにほぐし、それを箸でつまんで、そのまま、レイの口元へ差し出す。
「ほら、あーん」
「うっ、あ、あーん」
目をぱちくりさせてから、恥ずかしそうに口を開けて受け取るレイ。焼き魚を受け取ったその顔が、ぱっと綻んだ。
「ん~~~!おいし!」
とろんと目を細めて、幸せそうに頬をゆるませるレイを見て、俺はフッと笑った。
「な?早く食べようぜ」
俺がそう言うと、レイはもぐもぐしながらこちらを見上げてくる。さっきまでテンション高めに騒いでたのが嘘みたいに静かで、なんだか拍子抜けだ。
「なに黙ってんだよ」
「なんでもないです~~~」
レイはそう言いながらも、顔を赤くしたまま目線を逸らして、焼き魚に箸を伸ばす。
無言でちょんちょんと身をほぐして食べている様子が、なんだか猫みたいで、ちょっとだけ可愛かった。
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