その声で囁いて

UTAFUJI

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第二章

11話

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 ゴクっと一口飲むと炭酸のきいたレモンの酸味が喉を通っていく。
 レイも少し遅れてグラスを口に運び、勢いよく飲み干すように喉を鳴らした。

「っっっは~~~!しみる~~~~!!」

 急にテンション高めの声が飛び出して、さっきまで赤くなっていた顔も、どこか吹っ切れたようだった。

「よし、もう大丈夫!回復した!元気になったレイくんが帰ってきました~~!!」

「おかえり」

 俺がそう返すと、レイは嬉しそうに笑ってグラスを掲げた。

「んふふ~、ただいま!」

 その素直な声に、思わず噴き出しそうになるのを堪えて、代わりに小鉢のきんぴらをつまむ。甘辛い味が舌に広がって、じんわりと酒の風味と馴染んでいく。

「久々にきんぴら食べたわ、うまいな」

「わかる!自分で作らないもんね~、こういう感じのお通しってなんかいいよね」

 レイも嬉しそうに箸を伸ばし、きんぴらを食べている。

「このきんぴらってメニューにもあるのか?」

「んー。ちょっと待ってね。なんかさっき見たような……」

 そう言いながら、レイはさっそくメニューを広げてパラパラとページをめくり始めた。
 ページをめくるたびに、微かに唇が動いている。真剣に文字を追ってるらしい。

 ただ、ちょっと気になって口にしただけだった。それなのに、レイが真剣に探し始めるもんだから、なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。
 俺はグラスを軽く揺らしながら、真剣な面持ちで探してくれているレイを見ていた。

「あ、あった!あったけど、単品じゃなくて三種盛りの一部っぽい。追加で頼む?」

「他の二種類、書いてる?」

「ポテサラと、ひじきの煮物だって、どする?」

 レイはメニューを指差しながら「ほら、ここ」と、こちらをうかがってくる。

「両方、好きだな」

「じゃあ頼もう!」

 即答するレイに思わず笑いがこぼれる。

「そんなに食いたかったのかよ」

「ちがっ、そういうわけじゃなくて!シキくんが“好き”って言ったから、なんかこう……頼まなきゃって……!」

 レイがあたふたしながら言い訳していると、タイミングを見計らったように店員がやってきた。

「お待たせしました、刺し盛りとタコの唐揚げでーす」

 手際よく料理がテーブルに並べられていく。

 刺し身の赤と白、山葵の緑、器の黒が美しく映えて、見た目からして食欲をそそる。タコの唐揚げはふわりと香ばしい匂いを漂わせている。これは、写真映えもしそうだ。

「わぁ~……すごっ、めっちゃ美味しそう……!」

 レイが目を輝かせながら身を乗り出す。その様子を見ながら、俺はまだ立ち去っていない店員に声をかけた。

「あ、すみません。おつまみ三種盛りと、この日本酒を冷酒で。お前は?おかわりいる?」

「じゃあ、ハイボール……白州で!」

「かしこまりました~お猪口はおいくつお持ちしましょうか?」

「一応、二つお願いします」

「かしこまりました~!ではご注文確認させていただきます!」

 店員が笑顔で注文を復唱して確認をした後、去っていくのを見届けて、俺はグラスに残っているレモンサワーをぐびっと飲み干した。

「シキくん、そんなに飲んで大丈夫?」

「うるせぇ、まだ一杯目だろ」

 ニヤつくレイの横顔を見ながら、箸に手を伸ばす。

「ならいいけど~!ねね、絶対このタコの唐揚げ、うまいよね!?匂いからしてうまそう!もう先に食べちゃってもいい!?」

 レイはすでに箸を手に取っていて、目が完全に料理にロックオンしている。口元が自然と綻んでいて、その表情につられるように、俺も静かに箸を取った。

 刺し盛りの中から白身を一切れすくい上げて、ゆっくり口へ運んだ。しなやかな弾力と、淡白な旨味を感じる。噛めば噛むほど旨味が出てくるような気がした。いつ食べても刺身は美味いなと舌鼓を打っていた、その時。

「わっ、うっま!シキくんもこれ食べて!タコの唐揚げ!ほらっ!」

 テンション高くそう叫ぶと、レイはタコの唐揚げを箸でつまみ上げて、俺の方に突き出してくる。

「ちょ、今刺し身食ってんだけど……ちょっと待て」

「え~!待てない!揚げたてのうちがいちばんうまいんだから!ほらっ、あーん!」

 俺の返事も待たず、ニコニコ顔でぐいぐいタコを迫らせてくるレイ。その勢いに負けて、口の中の刺身を飲み込むと、俺は小さくため息をつき、視線を上げた。

 すると、レイの手がぴたりと止まる。
 ため息を“拒否”だとでも感じたのか、申し訳なさそうに目を逸らしながら、タコの唐揚げを俺の皿の端にそっと置こうとした。

 その様子を見て、俺は何も言わずに口を開け、レイの方をじっと見上げてみた。

「……っ!?」

 箸を持ったまま、レイがピシッと固まる。顔が一気に真っ赤になって、目を泳がせながら固まっているのがわかる。

「え、?あ、ほんとに?」

 その様子に、俺はゆるく口元をゆがめて言った。

「食べさせてくれるんだろ?ほら、“あーん”」

 わざと口を軽く開けて、ニヤリと笑ってやった。煽るような声に、レイの肩がビクッと跳ねる。

「っ……い、言ったのは俺だけど!!けどっ……!!あ~~~もう!!」

 叫びながら、結局タコの唐揚げを再び俺の口元に差し出してくる。素直でバカ正直なその動きがおかしくて、俺は静かに口を開いて受け取った。

 サクッとした衣の香ばしさと、タコの弾力。熱がじんわり舌に染みてくる。なるほど、確かに、揚げたてはうまい。

「うん、うまいな」

「あーもう!!なんで今日はそんな感じなの!?いつもはもっと塩なのに!!」

レイは顔を真っ赤にしながら、身をよじるようにして叫んだ。

「気分~」

 わざと気の抜けた声で返すと、レイはさらに顔を覆って「うわ~~~っ!!」と唸る。
 耳まで真っ赤なその様子に、俺は水が入ったグラスを傾けながら、くつくつと笑いを漏らした。
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