その声で囁いて

UTAFUJI

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第二章

33話

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 俺は何も言わずに、玲央の肩に手を置いて、ゆっくりと顔を寄せた。

 ちゅっと触れるだけの、ほんの一瞬のキス。

 唇を離して、そっと目を開けると、目の前の彼は満足そうに口角を上げている。
 その勝ち誇ったような顔が少し気に食わなくて、俺はもう一度顔を寄せた。

 今度は少しだけ強く唇を重ねて、薄く口を開く。玲央の唇を割るように、舌先をそっと滑り込ませる。目を閉じたまま、彼の舌を探して、もっと奥へ、奥へと舌を這わせる。

 彼がどんな顔をしているのか気になり、唇を離そうとした瞬間、彼の手が俺の後頭部に回った。彼の舌が俺の舌を捕まえて、ねじ伏せるように絡め取ってくる。

 俺が主導権を握っていたはずなのに、気づけば完全に奪われていた。

「ん……っ」

 掠れた吐息が漏れる。

 玲央の舌が俺の奥まで抉るように入り込んで、甘く吸い上げる。唾液が混じり合う音が、鼓膜の中に響く。

 俺は玲央の肩に掴んだ手を強く握りしめて、抵抗しようとした。でも玲央はそれを許さない。俺の頭を固定したまま、さらに深く、もっと深くキスを沈めてくる。

 息が足りない。頭がぼうっとする。

「……は、ぁ……」

 やっと唇が離れたとき、俺は息も絶え絶えで玲央を見つめることしかできなくなっていた。彼は俺の額に自分の額をくっつけて、笑った。

「栞季くん、それは反則」

 俺は答えられなくて、ただ荒い息を吐くだけだった。玲央は優しく俺の頬を撫でて、囁く。

「大好きだよ、栞季くん」

「っ……もう、寝ろ」

 俺は顔を背けて、テーブルの上に置いた紅茶を手に取り、残りを一気に煽って、立ち上がった。

「えー、もう?」

 玲央は名残惜しげに俺を見上げ、ソファの背にもたれたまま、だらしなく伸びをする。

「俺、まだ眠くないんだけどな~」

「俺は眠い。今すぐ寝たい」

 もちろん嘘。まだ心臓がバクバク鳴っていて眠れなさそうだ。でも、これ以上一緒にいたら、また変な空気になる気がして、嘘をついてしまった。

 俺は玲央が肩にかけていたタオルを指差す。

「タオル、歯磨きついでに向こうに持ってくから貸せ」

 玲央は「はーい」と素直にタオルを差し出してくる。でも、俺がそれを受け取る前に、彼は俺の手首をガシッと掴んだ。

「なに?」

「ねぇ、俺もベッドで寝ちゃだめ?」

「お前がベッドをご所望なら、俺はソファで寝るが?」

 反射的にそう返したら、玲央が「違う!」って即座に声を荒げた。

「そういうことじゃないの!俺は栞季くんと一緒に寝たいの!」

「……は?」

 玲央は俺の手首を離さないまま、ソファから体を起こして、ちょっと拗ねたような顔で続ける。

「別に変な意味じゃないから……いや、まぁ、ちょっとは下心あるけど。じゃなくて!せっかく泊まってるのに別々って寂しいじゃん!」

 最後の方は早口になって、玲央は頬を膨らませた。

「大体のやつらは別々で寝るだろ」

「やだ!関係性レベルアップしてるかもしれないのに!一緒に寝たいよ!」

「どういうことだよ……」

 俺は手首を掴んだままの彼の手はそのままに、ため息を吐いた。

「……お前なぁ」

「ね?ね?」

 玲央が俺の手首を両手で包み込んで、ゆさゆさ揺らす。

「はぁ……わかったよ」

「やった~!」

「そのかわり、狭くても文句言うなよ」

「言わない!」

「……ま、とりあえず歯磨くか」

「そうしよ~!」

 そう言って、カバンをゴソゴソし始めた玲央をそのままにして、俺は先に洗面所へ向かい、歯を磨き始める。
 しばらくして、玲央が歯ブラシセット片手に洗面所へ入ってきた。

 その姿を見て、さっき荷物を漁ってたのは、例のお泊まりセットから歯ブラシを取り出してたんだなと一人で納得した。

「お隣失礼しま~す」

 ニコニコしながら俺の隣に並んでくる玲央は、歯ブラシに歯磨き粉をたっぷりつけて、鏡越しの俺を見つめてくる。
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