93℃の執着

UTAFUJI

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第二章

33話

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「……まあ」

「じゃあ同じじゃ~ん!」

 ぱっと明るい声で言い、くるりと振り返った玲央の瞳が、悪戯っぽく細まる。

「俺はさ、栞季くんにもーっと触れたいし、触れられたいよ?」

 そう言って、振り返られたことで行き場を失った俺の手をさらう。そして、それを自分の口元へと導き、指先にそっとキスを落とす。

 柔らかくて、少し熱い。

「俺の誘いにはのってくれるけど……誘われることとか、あんまないし」

 言葉と同時に空いている方の手が、俺の足首にさらりと触れる。爪先で引っ掻くように骨をなぞられ、その感触にぞくりとした俺は思わずドライヤーのスイッチを切った。

 静寂が部屋を満たす。

「ほんとはさ、ちょっとずつ距離を縮めていきたかったんだけど」

 攫われた手は解かれ、足首に触れていた玲央の指が、ゆっくりと上がってくる。ふくらはぎを越え、膝の裏をかすめて、太もも。そして、まだその先へと。その動きに、喉の奥がかすかに震える。

「栞季くんがここまで許してくれるとは思ってなくてさ~」

 玲央の指が、スウェットの裾を軽く捲り上げて、素肌に触れる。冷たい指先が、腰骨の少し上でぴたりと止まった。先ほど彼につけられた、赤く残るキスマークの上に重なる。

「嬉しい誤算~!」

 嬉しそうな声と同時に円を描くように撫でられた瞬間、熱がじわりと滲み出す。俺の息がかすかに乱れた。

 玲央はそれを見逃さない。瞳を細めて、にやりと笑った。

「ははっ、さっきの……思い出しちゃった?」

 頬が熱くなり、視線を逸らそうと顔を背けた。それを見た玲央は、もう片方の手で俺の顎を掴んで、強制的に目を合わせてくる。

「えっちな顔、してるよ?自覚ない?」

 まっすぐ見つめられて、息が詰まる。

「うるさぃ……」

 掠れた声で呟いたら、玲央は満足そうに笑って、俺の隣に座り直した。次の瞬間、腕が回ってきて、腰をぎゅっと抱き寄せられる。

 距離が一気にゼロになる。玲央の体温がスウェット越しにじんわり伝わってきて、俺の心臓がうるさいくらいに跳ねた。

「……近い」

「いいじゃん、もう」

 玲央は悪びれずに、俺の腰を撫でながら耳元で囁いてくる。


「はぁ、ほんと、可愛いなぁ……」

 玲央の吐息が耳にかかった瞬間、ちゅ、と小さな音がした。耳たぶのすぐ下、首の付け根あたりに、柔らかい唇が触れる。

 びくりと肩が跳ねた。

「……っ」

 また、ちゅ。

 今度は耳たぶの先を軽く含まれて、ほんの少しだけ吸われた。熱と湿り気が残って、ぞくぞくって背筋が震える。

「玲央……」

 名前を呼んだら、玲央は頬をすり寄せて、俺の首筋に顔を埋める。甘い吐息がくすぐったい。

「はぁ……わかったって、やめるから」

 そう言いながら玲央はゆっくりと顔を上げた。そして、人差し指で自分の唇を軽く突いて、悪戯っぽく目を細める。

「最後にもっかい、栞季くんからキスして」

 部屋に沈黙が落ちる。玲央はそのままじっと俺を見つめてくる。
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