その声で囁いて

UTAFUJI

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第三章

2話

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「ん~~~!幸せ~」

 呑気な声が、鎖骨に響いてゾワっとする。思わず、彼の肩を押して距離を取ろうとしてみるも、なかなか離れてくれない。むしろ、腕に力を込められて、そのまま深く息を吸い込まれる。

「やっぱり、栞季くんの匂い、すき」

「……っ、なに嗅いでんだよ……」

 反射的に睨みつけるも、玲央は悪びれる様子すら見せず、首元に頬をすり寄せてくる。

「これぐらい、いーじゃん~……ねぇ、もうちょい寝る?」 

「起きる」

 そうはっきり言い切ると、玲央は「え~~っ」と不満を漏らした。

「さっきはこのまま寝る流れだったじゃん……」

 わざとらしく肩に額を押しつけてくる。もちろん、抱きしめてくる腕は一向に緩まない。俺は思わずため息をついた。

「玲央、俺と一緒に朝ごはん食べたくないのか?」

 その一言で、ぴたりと玲央の動きが止まった。

 少しの沈黙ののち、「う~ん……」と唸りながら、名残惜しそうに腕をゆっくりと解いていく。

「一緒に、食べる」

 玲央は布団の中でぼそっと呟き、上体を起こす。その様子を見て、俺もゆっくりと身体を起こした。

 横を見ると、玲央は大きく伸びをしながら、欠伸を噛み殺していた。両腕を上に伸ばしたまま、まだ眠そうな瞳でこっちを見てくる。

「ねぇ、起きたのを後悔させないような朝ごはん、期待していい?」

「食うだけ食っといて文句はナシな」

「当たり前じゃん!栞季くんが作ったものならなんでも!喜んで食べるよ!」

 玲央はぱっと笑顔を咲かせて、勢いよくベッドから立ち上がる。寝癖がついた髪を手ぐしでかき上げて、まだベッドの上で座り込んでいる俺に手を伸ばしてきた。

「ほら、作ってくれるんでしょ?とりあえず顔洗お!」

 玲央は俺の手を引いてベッドから立ち上がらせると、そのまま掴んだ手を離さずに、引っ張って洗面所に連れていく。

 冷たい水で顔を洗うと、一気に眠気が引いていった。昨夜と同じように鏡の前に並んで歯を磨く、隣からやたらと熱い視線が突き刺さってくるが、フル無視してやった。

 タオルで顔を拭き、髪を軽く整え、リビングへ戻ろうと歩き出すと、すぐ後ろから両腕が巻きついてくる。

「ちょ、……っ」

「ん~?」

「歩きづらいんだけど」

 ぼやく俺の言葉に、玲央は「ふふっ」と楽しそうに笑う。

「でも、栞季くんあったかいから、くっついてると落ち着くんだよね~」

 背中にぴったり張りついたまま、玲央は顎を俺の肩に乗せてくる。くっつかれたまま歩くのは地味にしんどいが、振り払うのもなんとなく気が引けて、俺は小さく息を吐いた。

 そのまま、背中に玲央を引っ付けたまま、俺は足元に気をつけながらリビングへ戻る。肩に乗せられた顎は地味に重く、お腹に回された腕も相まって、歩きにくさは最高潮だ。けど、妙にご機嫌な鼻歌が背中から聞こえてきて、無理に振り払う気にもなれなかった。
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