その声で囁いて

UTAFUJI

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第三章

3話

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 リビングに着くと、俺は足を止め、玲央の腕を無理やり引き剥がした。

「もういい加減、離れろって」

 すると、背後で「ぁ~~……」と情けない声が聞こえる。思わず振り返ると、玲央は肩を落として捨てられた子犬のような顔をしている。

 ちょっとだけ胸の奥がちくっとした。

「……朝ごはん、何がいい?」

 仕方なく問いかけると、玲央はパッと顔を上げて、無邪気に声を上げた。

「なんでも!栞季くんが作ってくれるなら、なんでもいいです!」

「嫌いなものとかない?」

「ない!」

「わかった……なら不味くても文句言うなよ。冷蔵庫にあるもんで作るから」

 俺の言葉に、玲央は嬉しそうに「はーいっ!」と返事をして、リビングのソファーに向かっていく。

 俺は冷蔵庫を開けて、残っている食材をざっと確認する。卵とベーコンあるし、トースト焼いてベーコンエッグでいいか。

 フライパンを火にかけ、ベーコンを並べて卵を割る。ジュッと焼ける音が耳に心地よい。食パンもトースターに放り込んで、あとは焼き上がるのを待つだけ。

 パシャッ

 パチパチとベーコンの油が跳ねる音に、シャッター音が混ざった。条件反射で顔を上げると、ソファーに座っている玲央がスマホをこちらに向けて、にこにこしている。

「おい、今撮っただろ」

「うん!撮った!」

「消せ」

「やだ」

 即答すぎて、返す言葉を失った。しかも悪びれた様子は微塵もなく、むしろ得意げにスマホをいじってる。

「せめて許可取れっての」

「カッコよく写ってたから、大丈夫!」

「そういう問題じゃない……はぁ、まぁいいや」

 ため息をつきつつ、俺はトースターから食パンを取り出して皿に乗せる。ついでにベーコンと目玉焼きも盛りつけて、簡単な朝食セットの完成だ。

 ついでにポットにも水を入れて、スイッチを入れる。どうせなら温かい飲み物も一緒に用意してやろう。

 玲央の方を見ると、彼はすでにテーブルの前に座って待っていた。テーブルに皿を置くと、玲央は目を輝かせて「すごい!美味しそう!」なんて言ってくるもんだから、少しだけ肩の力が抜けた。

「文句はナシって言ったからな」

「もちろん!」

「飲み物、紅茶でいいか?」

「うん、いいよ!」

 箸を渡しながらそう聞くと、玲央はすぐに笑顔で返してくる。

 俺は頷いて、キッチンへ戻ると、食器棚からカップを二つ取り出した。ティーバッグを中に入れて、リビングのテーブルへとそれを持っていく。

「お湯沸けたら淹れるから、先に食べよう」

「あいあいさ~」

 気の抜けた返事をしながらも、玲央は嬉しそうに手を合わせた。

「いただきます!」

「いただきます」

 玲央は箸を手に取って、目玉焼きの黄身にそっと先を差し入れる。ぷつんと破けた膜から、とろりと流れ出す黄身に、嬉しそうな声を漏らした。

「わ~最高!」

 ちょっと大袈裟なくらい目を輝かせて、ベーコンに黄身を絡めながら口に運ぶ。

「ん~~、うまっ……栞季くんって料理できる系男子だったんだね」

「料理できるってほどでもねぇよ。焼いただけだし」

 そう言いつつも、満足そうな顔を見ると、悪い気はしない。ちょうどそのとき、ポットの「カチッ」という音が聞こえた。

「あ、沸いた。ちょっと待ってろ」

 俺は立ち上がり、ポットを手に取る。テーブルに置いた二つのカップに、丁寧にお湯を注いでいく。カップの中でティーバッグが揺れ、薄く色が滲み始めた。

「三分、待てよ」

「ラジャ~!」

 玲央はぴしっと敬礼のポーズを取って、口いっぱいにトーストを頬張ったまま笑っている。俺は苦笑いしながら座っていたところに戻って、湯気の立つカップを見つめた。

 すると、ふいに玲央が、ちょっと口ごもるように言葉を続ける。

「ねぇ、また遊びに来ちゃダメ?」

 箸を止めて、こちらを覗き込むような視線を向けてくる。どこか不安げにも見えるその表情に、思わず「いいよ」って口にしそうになる。

「だめ、かな?」

「うっ、ダメじゃない……けど」

「けど?」

 その問いかけに、俺はなんて答えればいいのかわからず、言葉を詰まらせてしまう。
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