66 / 79
第三章
8話
しおりを挟む
隣で、穴が開きそうなほどこちらを見つめてくる玲央を横目に、俺は冷めて少し固くなったベーコンを、無言で口に運ぶ。
ニコニコと俺を観察するように視線を向けてくるこいつ。その絡みつくような視線に落ち着かなくなって思わず、窘めるように名前を呟いた。
「……玲央」
「なぁに?」
名前を呼ばれても、玲央は少しも悪びれる様子もなく、笑みを深めるだけだった。
その様子にため息をひとつこぼし、視線を皿に落とした。見られてるのは気になるけど、いちいち反応してたら食事が進まない。
「なんでもない」
無視しよう。そう決めて、俺は淡々と朝食を平らげた。トーストの耳まで残さず食べ終えて、最後にマグの紅茶を飲み干す頃には、玲央の視線にもなんとなく慣れてきてしまっていた。
「栞季くん」
食器を重ねて立ち上がり、二人分をシンクに運んだところで、玲央がぽつりと俺の名を呼んだ。
「ん?なに」
俺はその声に応えるように、玲央の方を向いた。ソファに座ったままの彼と目が合った瞬間、すっと空気が変わった。彼は少しだけ真剣な空気を纏って、口を開く。
「ねぇ、これからさ。二人でいるときは、“レイ”じゃなくて“玲央”って呼んでよ」
「……なんで?」
何気なく聞き返したその言葉に、玲央は少しだけ頬を緩めた。
「好きな子には、できるだけ本名で呼んでもらいたいでしょ。……なんか、特別な感じするし」
その言葉に、俺は一瞬だけ返す言葉を失った。玲央はソファから俺をまっすぐ見つめたまま、少しだけ照れたように視線を逸らしたり戻したりする。
「仕事場でもか?」
「うん!二人でいる時は!できるだけ、玲央って呼んでほしいな」
真剣な眼差しでそんなことをお願いされるもんだから、急に胸の奥がきゅっと熱くなる。
俺は店でも本名を使ってるから、本名で呼ばれることがそんなに特別だなんて、考えたこともなかった。
「……わかった」
その一言に、玲央の顔がぱっと明るくなった。瞳が輝いて、まるで花が開くみたいに。
「ほんと?やった~!」
玲央はソファの上で軽く跳ねるように喜んで、まるで子どもみたいな笑顔を俺に向けてきた。その無邪気な様子に、思わず口の端が緩む。
俺は、はしゃぐ玲央を見て、シンクで軽く手を洗ってから、リビングのソファに腰を下ろした。
「そんなに嬉しいか?」
「嬉しい!これからもちゃんと呼んでね!ほんとに!」
玲央はますます笑顔になって、ソファの背にもたれると、満足げに目を細めた。
「ねぇ、今日お休みだしさ!せっかくだし、どっかお茶しに行かない?」
唐突な提案に、俺は少しだけ目を丸くした。期待に満ちた瞳が、真正面から俺を捕らえる。断る選択肢なんて、最初から頭に浮かばなかった。
「別にいいけど……行きたいとこある?」
そう返すと、まるでスイッチが入ったみたいに、ソファから勢いよく身を起こす。
「ある!あるよ!ちょっと穴場なんだけど、めっちゃ落ち着くカフェ知ってるの!」
興奮した声で言いながら、玲央は立ち上がって俺の手を掴んだ。温かい指が絡まって、軽く引っ張られる。
「そうと決まれば!急いで準備しよ!」
「急ぐって……まだ昼にもなってないぞ」
俺が苦笑すると、玲央は「関係ない!」とばかりに目を輝かせて、くるりと背を向けた。
「俺の服、もう乾いてるよね!?見てくる!栞季くんも準備して!」
そう言うが早いか、玲央は洗濯物が干してある浴室に消えていった。
ニコニコと俺を観察するように視線を向けてくるこいつ。その絡みつくような視線に落ち着かなくなって思わず、窘めるように名前を呟いた。
「……玲央」
「なぁに?」
名前を呼ばれても、玲央は少しも悪びれる様子もなく、笑みを深めるだけだった。
その様子にため息をひとつこぼし、視線を皿に落とした。見られてるのは気になるけど、いちいち反応してたら食事が進まない。
「なんでもない」
無視しよう。そう決めて、俺は淡々と朝食を平らげた。トーストの耳まで残さず食べ終えて、最後にマグの紅茶を飲み干す頃には、玲央の視線にもなんとなく慣れてきてしまっていた。
「栞季くん」
食器を重ねて立ち上がり、二人分をシンクに運んだところで、玲央がぽつりと俺の名を呼んだ。
「ん?なに」
俺はその声に応えるように、玲央の方を向いた。ソファに座ったままの彼と目が合った瞬間、すっと空気が変わった。彼は少しだけ真剣な空気を纏って、口を開く。
「ねぇ、これからさ。二人でいるときは、“レイ”じゃなくて“玲央”って呼んでよ」
「……なんで?」
何気なく聞き返したその言葉に、玲央は少しだけ頬を緩めた。
「好きな子には、できるだけ本名で呼んでもらいたいでしょ。……なんか、特別な感じするし」
その言葉に、俺は一瞬だけ返す言葉を失った。玲央はソファから俺をまっすぐ見つめたまま、少しだけ照れたように視線を逸らしたり戻したりする。
「仕事場でもか?」
「うん!二人でいる時は!できるだけ、玲央って呼んでほしいな」
真剣な眼差しでそんなことをお願いされるもんだから、急に胸の奥がきゅっと熱くなる。
俺は店でも本名を使ってるから、本名で呼ばれることがそんなに特別だなんて、考えたこともなかった。
「……わかった」
その一言に、玲央の顔がぱっと明るくなった。瞳が輝いて、まるで花が開くみたいに。
「ほんと?やった~!」
玲央はソファの上で軽く跳ねるように喜んで、まるで子どもみたいな笑顔を俺に向けてきた。その無邪気な様子に、思わず口の端が緩む。
俺は、はしゃぐ玲央を見て、シンクで軽く手を洗ってから、リビングのソファに腰を下ろした。
「そんなに嬉しいか?」
「嬉しい!これからもちゃんと呼んでね!ほんとに!」
玲央はますます笑顔になって、ソファの背にもたれると、満足げに目を細めた。
「ねぇ、今日お休みだしさ!せっかくだし、どっかお茶しに行かない?」
唐突な提案に、俺は少しだけ目を丸くした。期待に満ちた瞳が、真正面から俺を捕らえる。断る選択肢なんて、最初から頭に浮かばなかった。
「別にいいけど……行きたいとこある?」
そう返すと、まるでスイッチが入ったみたいに、ソファから勢いよく身を起こす。
「ある!あるよ!ちょっと穴場なんだけど、めっちゃ落ち着くカフェ知ってるの!」
興奮した声で言いながら、玲央は立ち上がって俺の手を掴んだ。温かい指が絡まって、軽く引っ張られる。
「そうと決まれば!急いで準備しよ!」
「急ぐって……まだ昼にもなってないぞ」
俺が苦笑すると、玲央は「関係ない!」とばかりに目を輝かせて、くるりと背を向けた。
「俺の服、もう乾いてるよね!?見てくる!栞季くんも準備して!」
そう言うが早いか、玲央は洗濯物が干してある浴室に消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
眠れない夜を数えて
TK
BL
はみ出し者の高校生、大野暁は、アルバイトに明け暮れる毎日。
ふとしたきっかけで、訳ありな雰囲気のクラスメイト坂下と親しくなり、二人の距離は急速に縮まっていく。
しかし坂下には人に言えずにいる秘密があり、やがて二人の関係は崩れていく。
主人公たちが心の傷や葛藤と向き合い乗り越えていく物語。
シリアスでせつない描写が中心です。
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
僕の部下がかわいくて仕方ない
まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる