91 / 95
第三章
33話
しおりを挟む
「じゃ、じゃあ!どこ行きますか!」
いつの間にか、握り返されていた手に力が込められる。純粋にまっすぐ向けられた視線がくすぐったい。
「どこでも行きますよ!行けます!」
「落ち着けよ……」
思わず小さく笑うと、依織は「あ、すみません」と手を離して照れくさそうに肩をすくめる。
「嬉しくて、つい」
「犬かよ」
「否定はしません」
にこ、と屈託なく笑われて、思わず頬が緩む。本当に犬みたいなやつだな。犬耳と尻尾が見えそうだ。
「なぁ……お前、まだ飲めるのか?」
「はい!飲めます!」
「ん、わかった……」
ポケットからスマホを取り出し、近くの店を検索しようと親指を動かす。地図アプリを開いたところで、ひょい、と依織がスマホを覗き込んできた。
「どっか探します?」
俺の横に移動してきた依織の声が、さっきより近い位置で聞こえて驚いた。
画面を覗き込む横顔が、ほんの数センチの距離にある。キスした時は、あんなに赤くなってたくせに、こういう距離感は大丈夫なのか。変なやつ。
「うん。近くになんかないかなって」
「今、ここらへんなんですけど……こっちに移動したら飲めるとこ結構ありますよ」
画面に指を滑らせながら、依織は淡々と説明してくる。曰く、駅の向こう側は飲み屋街になっているらしく、居酒屋以外にもバーや夜の店がたくさんあるのだそう。
「あ、ここって……」
「知ってる店か?」
画面には、あるバーが表示されていた。情報は少ないものの口コミを見ている限り最近そこに移転してきたようだ。
「あー……知り合いがよく行ってるところだなぁって思っただけで……」
そう言いながら、依織はほんの一瞬だけ視線を泳がせる。
「お前も行ったことあるのか?ここにする?」
「え!いや、違うところにしましょう!」
「なんで」
何か動揺しているようにも見える依織の反応に、眉をひそめ問い返す。すると、依織は一瞬言葉に詰まりつつも、口を開いた。
「い、いや……その人、今日もそこにいるかもしれなくて……会っちゃうかもって、思っちゃって」
「ふーん?俺は気にしないけど、なんかダメな理由でもあるのか?」
「そいつ、知り合いっていうか……まぁ、友達なんですけど」
「うん」
相槌を打ちながら、俺は自分のスマホの画面を見下ろす。店の雰囲気は良さそうだ。ウイスキーの瓶が並ぶ棚の写真。個人店らしく、マスターと常連らしき客が笑っている様子も載っている。
まじまじとお店の写真を見ていると横から妙に真剣な視線を感じた。依織は俺の手元のスマホを覗き込みながら、どこか落ち着かない顔をしている。
「……友達なんですけど」
言い淀む声。まさか、俺といる時に友達と会いたくないとかいうつもりじゃないだろうな。
「何が問題なんだよ」
「う~ん……そいつ、パーソナルスペースって言葉を知らないのか?ってぐらい人との距離感近くて、コミュ力も高いし、ボディタッチも激しいし」
困ったように笑うその顔は、愚痴をこぼしているだけにも見える。
「そのせいで、女性関係で揉めることも多くて、俺も何度巻きこまれたことか……」
「俺、男だし大丈ー」
「黒髪美人です」
ぴしゃり、と被せられた。言葉が途中で止まる。
「あいつの好みのタイプは、黒髪の、美人です」
いつの間にか、握り返されていた手に力が込められる。純粋にまっすぐ向けられた視線がくすぐったい。
「どこでも行きますよ!行けます!」
「落ち着けよ……」
思わず小さく笑うと、依織は「あ、すみません」と手を離して照れくさそうに肩をすくめる。
「嬉しくて、つい」
「犬かよ」
「否定はしません」
にこ、と屈託なく笑われて、思わず頬が緩む。本当に犬みたいなやつだな。犬耳と尻尾が見えそうだ。
「なぁ……お前、まだ飲めるのか?」
「はい!飲めます!」
「ん、わかった……」
ポケットからスマホを取り出し、近くの店を検索しようと親指を動かす。地図アプリを開いたところで、ひょい、と依織がスマホを覗き込んできた。
「どっか探します?」
俺の横に移動してきた依織の声が、さっきより近い位置で聞こえて驚いた。
画面を覗き込む横顔が、ほんの数センチの距離にある。キスした時は、あんなに赤くなってたくせに、こういう距離感は大丈夫なのか。変なやつ。
「うん。近くになんかないかなって」
「今、ここらへんなんですけど……こっちに移動したら飲めるとこ結構ありますよ」
画面に指を滑らせながら、依織は淡々と説明してくる。曰く、駅の向こう側は飲み屋街になっているらしく、居酒屋以外にもバーや夜の店がたくさんあるのだそう。
「あ、ここって……」
「知ってる店か?」
画面には、あるバーが表示されていた。情報は少ないものの口コミを見ている限り最近そこに移転してきたようだ。
「あー……知り合いがよく行ってるところだなぁって思っただけで……」
そう言いながら、依織はほんの一瞬だけ視線を泳がせる。
「お前も行ったことあるのか?ここにする?」
「え!いや、違うところにしましょう!」
「なんで」
何か動揺しているようにも見える依織の反応に、眉をひそめ問い返す。すると、依織は一瞬言葉に詰まりつつも、口を開いた。
「い、いや……その人、今日もそこにいるかもしれなくて……会っちゃうかもって、思っちゃって」
「ふーん?俺は気にしないけど、なんかダメな理由でもあるのか?」
「そいつ、知り合いっていうか……まぁ、友達なんですけど」
「うん」
相槌を打ちながら、俺は自分のスマホの画面を見下ろす。店の雰囲気は良さそうだ。ウイスキーの瓶が並ぶ棚の写真。個人店らしく、マスターと常連らしき客が笑っている様子も載っている。
まじまじとお店の写真を見ていると横から妙に真剣な視線を感じた。依織は俺の手元のスマホを覗き込みながら、どこか落ち着かない顔をしている。
「……友達なんですけど」
言い淀む声。まさか、俺といる時に友達と会いたくないとかいうつもりじゃないだろうな。
「何が問題なんだよ」
「う~ん……そいつ、パーソナルスペースって言葉を知らないのか?ってぐらい人との距離感近くて、コミュ力も高いし、ボディタッチも激しいし」
困ったように笑うその顔は、愚痴をこぼしているだけにも見える。
「そのせいで、女性関係で揉めることも多くて、俺も何度巻きこまれたことか……」
「俺、男だし大丈ー」
「黒髪美人です」
ぴしゃり、と被せられた。言葉が途中で止まる。
「あいつの好みのタイプは、黒髪の、美人です」
10
あなたにおすすめの小説
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
「大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺は いちご狩りに誘われただけだが。
何故か誘ってくれた大学一軍イケメンの海皇(21)に、突如襲われて喰われたのは俺だった?
ちょっと待ていっ! 意味不なんだが。
いちご狩りからはじまるケンカップルいちゃらぶ♡
※大人描写ありの話はタイトルに『※』あり
定時後、指先が覚えている
こさ
BL
職場で長く反目し合ってきた二人。
それでも定時後の時間だけは、少しずつ重なっていく。
触れるはずのなかった指先。
逸らさなかった視線。
何も始まっていないのに、
もう偶然とは呼べなくなった距離。
静かなオフィスでゆっくりと近づいていく、
等身大の社会人BL。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
(完結)冷徹アルファを揺さぶるオメガの衝動
相沢蒼依
BL
名門・青陵高校に通う佐伯涼は、誰もが一目置く完璧なアルファ。冷静沈着で成績優秀、規律を重んじる彼は、常に自分を律して生きてきた。だがその裏には厳格な父と家の名に縛られ、感情を抑え込んできた孤独があった。
一方、クラスの問題児と呼ばれる榎本虎太郎は自由奔放で喧嘩っ早く、どこか影を抱えた青年。不良のような外見とは裏腹に、心はまっすぐで仲間思い。彼が強さを求めるのは、かつて“弱さ”ゆえに傷ついた過去がある。
青陵高校1年の秋。冷徹で完璧主義の委員長・佐伯涼(α)は、他校の生徒に絡まれたところを隣のクラスの榎本虎太郎(Ω)に助けられる。だがプライドを傷つけられた佐伯は「余計なことをするな」と突き放し、二人の関係は最悪の出会いから始まった。
《届かぬ調べに、心が響き合い》
https://estar.jp/novels/26414089
https://blove.jp/novel/265056/
https://www.neopage.com/book/32111833029792800
(ネオページが作品の連載がいちばん進んでおります)
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
「あなたが見ているのは、誰ですか」
静羽(しずは)
BL
新人社員の湊 海(みなと かい)は大手企業に就職した。
情報処理システム課に配属された。
毎日作成した書類を営業課に届けている。
海は情報処理システム課で毎日作成した書類を営業課に届けている。
そこには営業課に所属するやり手社員、綾瀬 (あやせ はると)の姿があった。
顔見知りになった二人は、会社の歓迎会で席が隣になったことで打ち解け遥斗は湊に一目惚れしていた事、自分のセクシャリティを打ち明けた。
動揺しつつも受け入れたいと思う湊。
そのタイミングで大学時代に憧れていた先輩・人たらし朝霧 恒一(あさぎり こういち)と卒業後初めて再会し、湊の心は二人の間で揺れ動く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる