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人気のない放課後の廊下を歩いていた修史は、ふと眉をひそめた。
窓から差し込んだ夕焼けを踏んで歩く自分の靴音のほかに、何か物音が聞こえた気がした。
立ち止まった場所が、ちょうど数学科の準備室の前だ。物音というよりは、声をひそめて笑いあうような気配が、する。
「おいおい……」
半分呆れて、修史は一瞬どうしようか迷った。勢いよくドアを開けてやろうか、それともこのまま帰ろうか。
とその時、目の前のドアが唐突に横にスライドした。中からひょいっと顔を出したのが、予想どおりの相手だった。修史がドアの前に立っているのを見て、桂は驚いたように目を丸くする。
「あれ? 何やってんのおまえ。もしかして、俺のこと探してた?」
「もしかしなくても、そうだ。傘がないから送ってけって言ったの、おまえだろ」
「あー、そうだ。……悪い」
桂が後ろ手に閉めたドアの向こうで、ネクタイを緩めた数学教師が煙草の煙をはいているのが見えた。ばか、と修史は握った拳で桂の頭をこつんと叩いた。
「学校ではやめろって言ったろ?」
「……仕っ方ないだろ、向こうが強引なんだからさ」
「自分に原因があるとは、思わないのか?」
「俺の体がオイシソーなのは、別に俺のせいじゃないね」
「あのなあ」
修史には、桂の考えてることがわからない。別にゲイって訳じゃないはずなのに、言い寄って来る男が後をたたない。しかも、なぜかそれを拒まないのだ。弄んで楽しんでいるのだろうか……。
「いい加減、やめとけよ」
「どうだっていいだろ? 別に、減るもんでもないし」
「楽しいかよ、そんなことして」
「……別に」
投げやりに言って、桂は学生鞄を担ぎ直した。昇降口で空を見上げて、クスッと小さく笑う。
「雨、やんじゃったね」
修史は頷いて、いつの間にか晴れた夕焼けの空に目を細めた。
窓から差し込んだ夕焼けを踏んで歩く自分の靴音のほかに、何か物音が聞こえた気がした。
立ち止まった場所が、ちょうど数学科の準備室の前だ。物音というよりは、声をひそめて笑いあうような気配が、する。
「おいおい……」
半分呆れて、修史は一瞬どうしようか迷った。勢いよくドアを開けてやろうか、それともこのまま帰ろうか。
とその時、目の前のドアが唐突に横にスライドした。中からひょいっと顔を出したのが、予想どおりの相手だった。修史がドアの前に立っているのを見て、桂は驚いたように目を丸くする。
「あれ? 何やってんのおまえ。もしかして、俺のこと探してた?」
「もしかしなくても、そうだ。傘がないから送ってけって言ったの、おまえだろ」
「あー、そうだ。……悪い」
桂が後ろ手に閉めたドアの向こうで、ネクタイを緩めた数学教師が煙草の煙をはいているのが見えた。ばか、と修史は握った拳で桂の頭をこつんと叩いた。
「学校ではやめろって言ったろ?」
「……仕っ方ないだろ、向こうが強引なんだからさ」
「自分に原因があるとは、思わないのか?」
「俺の体がオイシソーなのは、別に俺のせいじゃないね」
「あのなあ」
修史には、桂の考えてることがわからない。別にゲイって訳じゃないはずなのに、言い寄って来る男が後をたたない。しかも、なぜかそれを拒まないのだ。弄んで楽しんでいるのだろうか……。
「いい加減、やめとけよ」
「どうだっていいだろ? 別に、減るもんでもないし」
「楽しいかよ、そんなことして」
「……別に」
投げやりに言って、桂は学生鞄を担ぎ直した。昇降口で空を見上げて、クスッと小さく笑う。
「雨、やんじゃったね」
修史は頷いて、いつの間にか晴れた夕焼けの空に目を細めた。
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