After Rain

萩香

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 坂井修史と山崎桂は、小学校以来の幼なじみだった。たまたま住んでいた場所が近く、たまたま頭の出来も同じくらいだったから、たまたま中・高と同じ学校へ進んだ。

 修史の記憶するかぎり、中学校時代の桂はいたってごく普通の少年だった。容貌が容貌だけに女子からはよくもてたし、つきあっていた彼女もいた。

 それが何だって、男を相手にするようになったのか。確かに二人の通っているのは男子高だが、近隣の女子校との交流はあったし、事実桂も修史も休日によくでかけるガールフレンドは多い。

「なあ、今日おまえん家寄っていい? ウチ、親戚が来てんだよね」

「……相変わらずだな、おまえの親戚嫌い」

「……おまえん家が駄目なら、藤元先輩んとこ行くけど?」

「馬鹿。あいつの家には2度と行くな」

 学ランを着込んだ細い体。すっきりと澄んだ瞳に、やわらかく弧を描く唇。

 何か頼まれれば、いいよって言ってやりたくなる。素直に謝られれば、つい許してしまう。ずっと昔からそうだ。生意気で我が儘な桂に、修史はどうしても逆らえない。

「……いいよ、ウチで。その代わり、リーダーの訳写させろよ。おまえのクラス、進んでるだろ?」

「今日リーダーなかったからノート持ってないって。修史がうちに取りに行ってくれるなら、写してもいいよ」

「あのなー……」

「……夕飯おごるからさ」

 誰もが桂に惹かれる訳は、わかる。わからないのは桂の心だ。

「デザートつきで」

 にっこりと笑顔で付け加えられた一言に、修史はぎょっとする。

「……言っとくけど、オレをけしかけるなよ?」

「さあ。どうしよっか?」

 艶やかに笑んで、修史の家の玄関へ先に駆け込んで行く。

 桂と二人になるのが、本当は怖い。きっと、ほんのちょっとしたきっかけで理性なんて突き崩される。それがわかりきっていたから。

 二階の修史の部屋へ先にたどり着いていた桂が、昨日買ったばかりの雑誌をめざとく見つけてパラパラめくっている。

「……頼むからそこに寝るな」

 ベッドにうつ伏せてほお杖をついている桂を、修史は床へ引きずり下ろす。くすくす笑うところを見ると、どうもわざとやっているらしい。

「おまえ、誰ん家行ってもこうなわけ?」

「んんー? まあベッドかソファは占領するね」

「おまえさ。誘ってるって思われても仕方ねーよ、それ?」

「別に俺にそういうつもりはないんだけど、なんでか相手がその気になっちゃうんだよね」

「あのなー」

「密室に二人でいて俺に手ぇ出さないの、修史くらいだよ」

「はあー。……って、中山とか、小暮とかもかよ」

「最後までやってないけど」

「……う、そ。あいつらは普通に友達やってんのかと思ってた。信じらんねー」

「……あんまり追求するなって。大したことしてない」

「ホントいい加減にしろ、おまえ」

「怒るなよ。何でおまえが目くじら立てるんだ?」

 楽しそうに聞かれて、逆に答えに詰まる。

「……おまえが、大事だから」

 言ってしまってから、何だかすごく後悔した。それは、別に嘘ではなかったのだけれど。

「やっぱさあ。こんなこと……誰にでも体許して、何もかも許すの、おまえにとって良くねーよ。女みたいなリスクはないかもしれないけどさ。もっと大事にしろって、自分のこと」

「おまえが俺を抱かないのは、俺が大事だから?」

「……そうだよ。自分のことしか考えてなかったら、おまえなんかとっくの昔にどうにかしてる」

「してくれて、良かったのに」

「は?」

「なーんてね」

 ウソ、と呟いて雑誌に目を戻す。何とかしてくれと、修史は天を仰いだ。
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