その罪の、名前 Ⅱ

萩香

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PAST/いくつかの嘘

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 家で手料理を作って待っていたらしい知香は、遼と恭臣が一緒に現れたことに驚いたようだった。

「駅前の道で、偶然見かけて」

 恭臣は、淀みのない口調でそう説明した。

「バイト帰りで疲れてたから、助かりました。……ごゆっくり」

 遼はそう言って、二階にある自室へ上がった。「コーヒー、入れるわよ?」と知香が背後から声を投げてきたが、聞こえないふりをして階段を上った。

 できることなら、一緒にいたくない。うまく笑える自信がない。
 だがこの分だと、今日の夕食は、恭臣と同じテーブルを囲むことになりそうだ。そんなことを思って、遼は吐き気を覚えた。

 ぐったりと遼がベッドに沈み込んだちょうどその時、携帯のメール通知音が鳴った。寝転んだまま、ポケットに入れていた携帯を取り出し、メールを開く。

『須賀線で寝過ごして気づいたら大船だった』

 名前も書いてない、短い一文。こんなしょうもない内容をわざわざ送信してくるのは、一人だけだ。高校時代のクラスメイトの明るい笑顔を思い浮かべて、遼は思わず笑みをこぼした。

 村岡翔太。卒業してから、彼と実際に会ったのは数える程度だ。だが、メールだけはマメにやり取りしているせいか、疎遠になっている気がしない。

 パソコンを買ったとか、単位を二つ落としたとか、彼女ができたとか。そんな日常の出来事を、翔太は思い出したようにメールで打ってくる。

『ゴハン食べた?』

 遼がそう返信すると、すぐに向こうから『まだ』と返ってきた。
 遼はベッドから起き上がって、すぐに電話をかける。2コール目で、相手が出た。

「……久しぶり。元気?」

 そう言うと、電話の向こうからケラケラと笑う声が返ってくる。

『まあな。寝過ごしたけどな。……おまえは、元気ないじゃん』

 相変わらずの明るい声に、遼は思わずホッとした。救われた思いで、電話の向こうに問いかける。

「翔太。……今日、夕飯食べない?」

『いいけど。どこ?』

 遼は以前にも待ち合わせたことのある、高校の近くの店の名を言った。


 

 
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