その罪の、名前 Ⅱ

萩香

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PAST/いくつかの嘘

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 気取らない雰囲気のレストランに足を踏み入れた遼は、奥のテーブルに翔太の姿を見つけ、案内のウェイターに断ってからその席へ足を向けた。

「……ごめん。待たせた?」

 椅子を引きつつ詫びると、翔太はあっさりと首を振った。

「いまさっき、着いたとこ。……ビールでいいか?」

「うん……」

 本当は、明るく乾杯という気分ではないのだけれど。そんなことを思って苦笑した遼の表情に気づいて、翔太は眉をひそめた。

「……おまえ、痩せた?」

 メニューを開きながら、遼は首を傾げる。

「さあ。そうでもないよ」

「ごまかさなくても、わかってるって。……あれだろ? 家政婦さんが来なくなって、ここ数年、姉ちゃんの料理ばっか食ってるから。いよいよ我慢が切れて、外食に走ったと」

 突拍子もない翔太の推論に、遼は笑った。

「それ、85%くらい正解かな」

 笑いながらそう言うと、翔太は苦笑を浮かべ、テーブルの上で頬杖をついて遼の顔をのぞき込んだ。

「で? ……残りの15%は?」

「…………」

 遼は沈黙した。
 翔太は、これだからありがたい。遼の気分を、ただ明るくさせるだけでなく……ちゃんと、話を聞いてほしい時はわかってくれる。

「例えば、さ……」

 遼は迷いながら口を開いた。相談したいのは山々だが、いったい何をどう話せばいいものか悩んだ。たとえ翔太が相手でも、さすがにまだ全部を正直に話す気にはなれない。

「例えば……翔太の彼女と、俺が昔つきあっていたとして」

「エッ……、……そうなの?」

「馬鹿、違うよ。おまえの彼女なんて会ったこともない。……例えばの、話」

「……びっくりした。心臓に悪い例えだな、それ」

 本気で驚いている翔太に苦笑を向けて、ごめん、と遼は謝った。
 ちょうどその時、ウェイターが注文をとりにきたため、いったん話は中断される。二人は慌ててメニューを繰って、いくつかの料理をオーダーした。


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