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PAST/いくつかの嘘
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しおりを挟むしばらく距離を置いた方がいいんじゃないかと、翔太は言った。レストランの閉店時間ギリギリまでかかって、いろいろ話し込んだ末のことだ。
「目の前で二人を見てれば、おまえも辛い。しばらく、理由を作ってその二人から離れて……時間が経てば、もう少し、気持ちも落ち着くかもしれないじゃん?」
「……そうだな」
無理やりでも、離れた方が、楽なのかもしれない。そう思って、遼は頷いた。
「……翔太がいてくれて良かった」
遼が率直にそう言うと、翔太は照れたように肩をすくめた。
「そんな目で見るなって。……おまえのカオ、オレの好みなんだからさ」
本気とも冗談ともつかないその台詞に、遼は笑った。
……どうして、翔太のことを好きにならなかったんだろう。なぜかふと、そんなことを思った。
人間が、優しくしてくれる相手を好きになる生き物だったのなら、きっと遼は恭臣のことを好きにはならなかった。
報われないとわかり切っている相手に、心を奪われることがあるのだ。……理不尽にも。
◆ ◆
精算を済ませて店の外に出たところで、翔太がもう一つだけ遼に尋ねた。
「例えばさ。例えば、だけど。……もしも彼女が、やっぱりおまえとヨリを戻したいって言い出したら、どうする?」
「まさか。……あり得ないよ」
遼はきっぱりと首を振った。
そんな、甘い関係ではなかったのだ。ただ、恭臣は遼の体を求めただけで……恋に落ちたのは、自分一人だったのだから。
「あり得ない。それに……万が一そんなことがあっても……絶対に、受け入れられない」
翔太は眉をひそめた。
「でも……おまえは彼女のこと、まだ好きなんだろう? もしオレだったら、……そんなふうに遠慮されても、ゼンゼン嬉しくないぞ?」
翔太の言葉に、わかってる、と遼は頷いた。
すべての真実を知ったら、知香だってきっと、喜んだりはしないだろう。遼がそうであるように、知香もまた、家族を傷つけて幸せになることなんてできない人だ。
……だからこそ、絶対に気づかれてはいけないのだ。何があっても。
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