その罪の、名前 Ⅱ

萩香

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PAST/いくつかの嘘

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 しばらく距離を置いた方がいいんじゃないかと、翔太は言った。レストランの閉店時間ギリギリまでかかって、いろいろ話し込んだ末のことだ。

「目の前で二人を見てれば、おまえも辛い。しばらく、理由を作ってその二人から離れて……時間が経てば、もう少し、気持ちも落ち着くかもしれないじゃん?」

「……そうだな」

 無理やりでも、離れた方が、楽なのかもしれない。そう思って、遼は頷いた。

「……翔太がいてくれて良かった」

 遼が率直にそう言うと、翔太は照れたように肩をすくめた。

「そんな目で見るなって。……おまえのカオ、オレの好みなんだからさ」

 本気とも冗談ともつかないその台詞に、遼は笑った。

 ……どうして、翔太のことを好きにならなかったんだろう。なぜかふと、そんなことを思った。

 人間が、優しくしてくれる相手を好きになる生き物だったのなら、きっと遼は恭臣のことを好きにはならなかった。

 報われないとわかり切っている相手に、心を奪われることがあるのだ。……理不尽にも。

     ◆  ◆

 精算を済ませて店の外に出たところで、翔太がもう一つだけ遼に尋ねた。

「例えばさ。例えば、だけど。……もしも彼女が、やっぱりおまえとヨリを戻したいって言い出したら、どうする?」

「まさか。……あり得ないよ」

 遼はきっぱりと首を振った。
 そんな、甘い関係ではなかったのだ。ただ、恭臣は遼の体を求めただけで……恋に落ちたのは、自分一人だったのだから。

「あり得ない。それに……万が一そんなことがあっても……絶対に、受け入れられない」

 翔太は眉をひそめた。

「でも……おまえは彼女のこと、まだ好きなんだろう? もしオレだったら、……そんなふうに遠慮されても、ゼンゼン嬉しくないぞ?」

 翔太の言葉に、わかってる、と遼は頷いた。

 すべての真実を知ったら、知香だってきっと、喜んだりはしないだろう。遼がそうであるように、知香もまた、家族を傷つけて幸せになることなんてできない人だ。

 ……だからこそ、絶対に気づかれてはいけないのだ。何があっても。

 
 
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