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PAST/いくつかの嘘
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しおりを挟む翌朝、目を覚ますと、部屋の中に遼の姿はなかった。結局あのままソファで眠っていたらしい自分の肩に、いつの間にか、薄いブランケットがかけられていた。
遼が、かけてくれたのだろうか。……それとも、知香が部屋に来ていたのか。
眠りの足りない頭を振って、恭臣は椅子から立ち上がる。不自然な姿勢で眠ったせいか、体のあちこちが痛かった。
とりあえず風呂にでも入ろうと自分の荷物からタオルを引っ張り出したところで、部屋のドアが開く音がした。視線を上げると、ちょうど風呂から帰って来たところらしい遼が、火照った顔を手で仰ぎながら和室に上がってくる。
恭臣と視線が絡むと、遼は気まずそうに目を逸らした。恭臣も、浴衣から覗く遼の上気した肌を見ていられず、やはり視線を俯かせる。
「……オレも、風呂に行ってくるから」
それだけ言って立ち去ろうとすると、あの、と遼が恭臣を呼び止めた。足を止め、ゆっくりと振り返った恭臣に、遼はぎこちない笑みを投げかけた。
「……まだ、姉さんには言ってないけど……俺、九月からあの家を出ます。留学、するんです」
唐突な言葉に、恭臣は瞬きを繰り返した。
「それは……知らなかった」
「前々から、考えていたことなんです。本当は、もう少し先でいいと思っていたんだけど……今の方が、いいかと思って」
「どのくらい?」
「1年弱、かな。大学は、休学します。だから……」
遼は息をついた。なぜか苦しげに、眉根を寄せて。
「もう俺のことは、気にしないでください」
結婚式にも、出ないかもしれない。きっぱりとそう言って、遼は静かに目を伏せた。
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