好きになったのが神様だった場合

麻生璃藤(あそう・りふじ)

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#9 小さなほころび

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依代に戻って来た天之御中主神アメノミナカヌシノカミは、その後ろに隠してあったかんざしと明香里の手紙がない事に気が付いた。

「え、何故!? 何処に行った!?」

10年もそこにあったのに。大掃除の折などは、人が来るとこっそり移動させ厨子の掃除が終わると戻していた。10年間、うまくやってきた、見つかったことはないのに。

「おい、狐! ここにあった簪を知らないか!?」
「知る訳ないでしょう」

狐は面倒そうに答える、後ろ足で懸命に全身をカリカリ掻きまくっていて聞いているのかもあやしく見える。

「私はあなた様に体を貸して差し上げて、一緒に出掛けておりましたのに。ついに神職の誰かに見つかったのでありましょう」
「う、む」

そうだ、それしか考えられないのだが。

「もうよいではありませんか」

狐は前脚で顔を撫でながら言った。

「明香里殿は遠いお人ではなくなった。私の体を介してとは言え、逢える関係になれたのですから」
「そうだな」

そう頷きつつも、どこか落ち着かない。

天之御中主神は神だ、未来永劫尽きる事ない存在で、対して明香里はどんなに望んでも限りある命の持ち主。天之御中主神の時間からしたら見る間に老いて、死んでしまう存在だ。
そんな明香里との、大切な思い出だったのに──。

「──手紙まで、なくなってしまった……」
「また書いてもらったらよろしいでしょう。好き好き、大好き、天之御中主神アメノミナカヌシノカミさまー!とでも」

感情も込めずに言う狐が、途端に上から何かに押されたように四肢を広げて床に腹をつけた。





翌日も明香里は、水天宮に遊びに来た。その姿を見つけて、すぐさま白狐が拝殿の戸を開けて出てくる。
木製の階段を降り、下から二段目で待つのはいつも明香里が座る場所だ。明香里が笑顔でそこに座ると、狐はその膝にぴょんと飛び乗り、お座りの姿勢で明香里を見上げる、心なしか微笑んで見えるのは明香里の気のせいだろうか。大きなふわふわの尾が揺れているのが可愛かった。
その頭を撫でようと手を伸ばす、狐も待ち構えて目を細めた時、

「アカリさん?」

明香里の背後から声がかかった、直後狐はぱっと立ち上がり賽銭箱の影に逃げた。急になくなったぬくもりを残念に思いつつも、明香里は振り返る。

「はい」
「ああ、やはりあなたが明香里さんですか」

拝殿の回廊に微笑んで立っていたのは、神主の装束を着た美園健斗だった。

「はい、あの……?」

男の顔は知っていた、氏神である水天宮の宮司一家の息子だ。祭事の際に見た覚えがあるが、その男に声を掛けられる覚えはなかった。

「突然すみません」

凛々しいが、何処か神経質に見える男が優しく微笑む。

「これは、あなたのものですか?」

見覚えのある簪とレポート用紙の手紙を見せられて、「あ」と声が漏れたのは明香里は勿論、狐もだった。天之御中主神アメノミナカヌシノカミが憑依している狐は、すでに拝殿の庇の下にある緩やかなカーブを描く梁、海老紅梁えびこうりょうまで移動していた。その上からふたりを見下ろす。

「え、あ、はい……! ここで落として、ずっと探してました!」

明香里は慌てて適当な言い訳をした。

「申し訳ありません、うちの神殿にありました。先ほどの犬が持ち込んだのでしょうか」

狐を見られたと明香里は心臓がすくみ上る。

(犬ではない!)

天之御中主神は心の中で叫んだ。

「はい、あの、いえ──わかりません!」

慌てた様子の明香里に、健斗はできるだけ優しく微笑む。

「あなたの飼い犬ですか?」
「いえ、違います!」

慌てて否定したが、それをすぐに後悔した。

「野良犬ですか……どこから来るんでしょう? ここを寝床にしていると思ってくまなく探したのですが、その痕跡はなくて」
「あの、えっと、ごめんなさい、わからないです、たぶんここじゃないのでは」

ごまかすことしかできない明香里は視線を彷徨わせて答える、健斗はそれを訝しむことも無く微笑んだ。

「大丈夫ですよ、もし住みついていたとしても殺したりはしません。でも糞尿で社が壊れたりしたら大変ですから、出て行ってはもらわなくてはなりませんが」
「……はい……」

しかし、狐自体はここに何十年と住み続けていると聞いている。食事や排泄をどうしているかまでは聞いていないが、今更追い出すことはないだろうと勝手に思う。

「随分、あなたに懐いているようですね。私たちはその姿を見たことはないのに」

健斗は尚もにこやかに聞いた。

「あ、はい、えっと、なんでですかね……あ、ごめんなさい、いつもここで逢っていて。かわいくて……あ、でも餌をあげたりはしていません!」
「ええ、存じ上げています、よく御姿を拝見していました。いつかは随分な色男をお連れでしたが、その方ともここで?」
「……色男」

誰の事かと呟いてから、明香里は頬を真っ赤に染めた。天之御中主神アメノミナカヌシノカミが顕現した姿だと判った、それ以外の男だとすれば昨年の例大祭の折に一度来たきりだ、彼は『色男』ではないと思う。
狐も自分の事だと判った、つんと鼻先を自慢げに上げて、尾をゆっくりと左右に振るが、誰もそれを見てはくれない。

「恋人かな?」

恥ずかしそうな明香里をからかうように、健斗は聞く。

「いえ、その、あの……片思いの相手、です……」

恋人と断言できるほどの関係でもないと思えてそう答えた、あれ以来、その姿で逢ってもいないのだ。ましてやこの先どうなるかもわからない相手だ。

「片思いですか、手も繋いでいたのに。なかなか鈍い相手なのかな?」
(違ーう!)

狐は音もなく回廊の床に着地した、そのままジャンプして明香里の背に飛びつき、明香里も健斗も驚いた。

「あ、天之あめのくん……!」

明香里は慌てて背後に手を回しその腕に抱きしめた。狐は大きな口をパクパクさせるが、さすがに声は発しない。

(俺は鈍くない! 明香里は片思いなどではない! 俺と明香里は、仲ようやっている! 明香里も何を片思いなどと!)
「天之くん、だめ、落ち着いて!」

暴れる白狐を抱きしめ、懸命に押さえる。

「ほう、その犬が、あめのくん、と言うんですか」

手紙の名前だと思い出す、すでに犬でないこともわかったが、あえて犬であるということにした。

「え、あ」

この祭神の名だ、よもやその祭神が狐の体を借りているとは思わないだろうが、明香里は焦る。明香里の手が緩むと、狐も暴れるのをやめ、明香里の膝の上に伏せをする、明香里にしゃべりかけるなと目でのけん制は忘れない。

「名づけは誰が? ここに祀られているのが天之御中主神アメノミナカヌシノカミと知ってる方は少ないと思いますけど」

本神は、源平合戦で入水した安徳天皇である。

「あ、と、え……と、彼です」
「そうですか、素敵な彼氏ですね。もしかして、その犬は、彼の持ち物?」
(犬ではなーい!)
「いえ、違います、一緒に可愛がってはいますけど」

ペットにしてしまったら犬を放し飼いにしていることになる、そんなこと嘘でも公言してはいけないとわかり、それは断言した。

「あ、でもご迷惑なんですよね、この子は連れて帰ります」

言ってから焦った、そんな事はできるのだろうか?
明香里の家はかつての境内からも大きく外れている。天之御中主神アメノミナカヌシノカミは神域を出られない、狐はどうなのだろう?
それが憑依している狐では? 狐だけでも連れて帰れるのか?

「大丈夫ですよ、うちに住みついているわけではなさそうですし。ご自宅で飼えるのならお願いしますが」
「え、あ」

そうだと思う、マンション自体はペット可だが、母がいいというかどうか。
そんな表情を読み取ったのか、

「良ければうちで預かりましょうか」

健斗は笑顔で言った。

「え、でも……」
「社で繁殖でもされていたら困ると思ったのですが、どうやら大丈夫そうですし、でしたら本格的に繁殖される前に飼ってしまうのがいいでしょう。あなたのように可愛がっている人がいるなら大事にしないとバチが当たりそうですし」
「ええ、でも」

どうしよう、と明香里は口ごもる。この狐は神の使いとか言う存在なのだ、そんなものを飼ってもいいのだろうか。

「なにより」

健斗は囁く様に言うと音もなく明香里に近づき、その傍らに膝をつくと肩に手を置いた。

「あなたが連れて帰ってしまったら、俺があなたに逢う口実がなくなってしまう」

小さな声で言われて、明香里は目が点になる。

「──はい?」
「毎日のように詣でてくれてますよね。と俺が気付いたのは、ここ最近ですけど」

天之御中主神アメノミナカヌシノカミと歩いているのを見てからだ。

「今時の若い方にしては珍しく信心深い方だと思って。まあ理由が彼氏さんと逢うためだとしても、きちんと手を合わせていらっしゃる姿に心惹かれました」
「ええ……まあ……」

明香里にしてみれば、子供の頃から毎日のように来てはいたが、手を合わせていた理由など言えるわけがない、子供の頃に出逢った少年にもう一度逢いたいと願掛けしていたなどと。

「こういう仕事なのでね、なかなか恋愛にまで発展しないんですが、あなたの様な方とならうまくやれそうだ。この子に逢いにこれからも来てください」
「いえ、あの」
「ああ、片思いの人がいるんですね。もう諦めたらいかがです? 望みのない恋もあなたをきれいにしてくれるでしょうが、実りある恋のほうがもっといいと思いますよ」
(勝手なことを言うなあ!)

狐は、明香里の肩に置かれた健人の指を噛む。

「──!」
「わ! こら、天之あめのくん、だめ!」

明香里は咄嗟に狐の体を引いたが、狐は健斗の手から口を離さない。

「ダメだってば! ヒトに怪我なんかさせたら!」

抱きしめ耳元で叫ばれ、さらに明香里の指を歯の間に差し込まれて、天之御中主神アメノミナカヌシノカミはしぶしぶ口を開く。

「──なかなか、聞き分けのいい」

だがなおも噛み殺さんばかりに歯をむき出し睨みつけている、そんな狐を明香里は怯えることなくしっかりと抱きしめていた。

「ふむ、本当に、よくなついてますね」
「いえ! 野犬です!」

堂々と宣言してしまう、それはそれで保健所案件になってしまうかもしれない。

「あの! 失礼します!」

慌てて明香里は立ち上がった。

「家まで送らせてください」
「子供じゃないので、大丈夫です!」

言い捨てて階段を降り、狐を抱いたまま鳥居も駆け抜ける。

「あの権禰宜ごんねぎめ! とんだ助平野郎じゃないか!」

十分に離れたと判断した白狐は揺れながら喋った。

「うん、びっくりした。あんな人だったんだね。見た目は全然チャラくないのに」
「チャラく?」
「あーえっと、『軽薄』?」
「何を言うか、十分軽薄だろう! 明香里を気安く口説きおって!」
「あ、うん、そうだね、それは間違いないや」

まったくの初対面ではないとはいえ、言葉をかけてすぐに交際の申し込みなどありえない。

「俺など、何年も明香里を思い続け、やっとこうして言葉を交わしているというのに! 俺など触れることも叶わなかったのに! あのやろう、明香里に手を、手を!」
「──うん そうだよね」

まったくそのとおりだ、ようやく言葉を交わせるようになった、多少イレギュラーな形ではあるが、このひと時は幸せではある。
明香里は走るをのやめ、歩きながら狐を抱きしめなおした。狐もまた前脚を明香里の首に回して抱きしめる。

ほどなくして。

「──明香里、ここまでだ」

言われれ明香里は足を止める、そこは神域のきわだった。

「今日はしまいにしよう。また明日だ、明香里」
「うん」

明香里が応えると、ふわりと風が頬を撫でた。途端に明香里の腕の中の狐が声をあげる。

「明香里どのーっ! ぎゅうっとしてくだされー!」

明香里にかけていた前脚を密着させようとした狐は、突然何かに引っ張られるように明香里の腕から離れた。
首根っこの毛皮が伸びている、四肢をぶらりと下げてる様子は、まるで釣り下げられたマフラーの様だ。明香里は微笑んでしまう。

「天之くん、そこにいるんだ?」

微笑み聞いていた、返事なのか、狐の体がぶらんと左右に揺れる。

「不思議、狐さんは天之くんに触ってもらえるんだね」
「不本意ながらお使い申し上げている存在です、わたくしめも蹴りのひとつやふたつは見舞うことが」

いった瞬間、乱暴に上下に振られて狐は悲鳴を上げる。

「うらやましいな。私も、せめて見えたらいいのに」

明香里には、その存在すら感じられない。
再度ふわりと撫でられたのは頭だった。とても不安定ながら左右にふわふわと撫でられ、それが風によるものではないと判る。

「……ありがと、天之くん……」

撫でるその手に触れようと手を重ねてみるが、感触などありはしない。

途端に悲しみが押し寄せる、愛しい人と一生触れ合える事は無いのか──にじみ出そうになる涙を懸命に堪えた。

(ずっと、こんなふうにしか逢えないのか)

逢えば逢うほど、天之御中主神が好きだと判る。もっと傍に、もっと長く居たいと願ってしまう。なのに、その人は家まで送ってくれないどころか、見る事も触れる事もできないのだ。

(──馬鹿な恋をしている……)

馬鹿だと思っても、あともう少しだけ、とも思ってしまう。初めて自分の弱さを知った。その脳裏に健斗の言葉がよみがえる。
望みのない恋など諦めたらいい、そういっていた。それでもすがりたいのは、思い続けてきた長さなのか。
そしてふと思う、このまま狐を返したら、健斗に捕まってしまうのではと。殺さないとは言っていたが、不安にはなる。

「狐さん、やっぱりうちにおいで」
「よいのですか!」

白狐は宙に浮いたまま、四肢をばたつかせて喜んだ。

「権禰宜さんに見られちゃったからね、もし捕まっちゃったら困るよね? 水天宮には一緒に来ればいいよ」
「致し方ありませぬなぁ、明香里殿のご厚意に預り……」
(ふざけるな狐! 俺をさし置き明香里と居ようなどと!)
「何をおっしゃいます! 神域から出られぬ天之御中主神さまに代わって、明香里殿を護って差し上げるためでございます!」
(なぁに、もっともらしい言い訳をしおって!)
「なにより明香里どのたっての願いではありませぬかぁ」

狐はぶら下がったまま、鼻の下を伸ばし目尻を下げて言う。

(お前は俺の神使だ、俺のそばにいろ!)
「天之御中主神さまのそばにおりましても、大した仕事はございません。おお、最近でこそこの身をお貸しする重要な任務を担っておりますが」
(それもお前の下心があってのことだろう!)
「そんなことはございません、天之御中主神さまの御心のままに」

さも得意げにいう狐に、明香里は微笑んだ。

「狐さんは、天之あまのくんとお話もできるんだ」

羨ましい、そう思って聞いていた。

「はい、この神様は少々多弁です故、うるさくもありますが」
(なんだと!?)

狐の体が90度横を向いた、その鼻先に天之御中主神の顔があるのを明香里は見ることができない。

「うらやましいよ」

言葉に、ふたり、いや1柱と1匹は、明香里の顔を振り返っていた。

「せめて、声くらい、聞こえたらいいのにな」

望んでも、叶わぬ願いだ。それに天之御中主神は唇を噛む。

「狐さん、行こ」

両手を差し伸べた、白狐はせめてもの繋がりだ。

「──天之御中主神アメノミナカヌシノカミさまぁ?」

明香里からは見えぬ天之御中主神を見上げて狐は聞き、途端に狐は明香里の腕に落ちた。

「明香里どのぉ」

今度はハートマークでも付きそうな声と笑顔に、態度だった、機に乗じて抱き付こうとしたが、何かに当たって「むぐ」と声を上げる。そんな姿に明香里は微笑む。

「私が狐さんに乗り移れたらいいのにな」

そうしたら天之御中主神の腕に抱かれることができるだろう、そう思うだけで胸が高鳴る。

(明香里)

気持ちを感じて、心を込めて呼ぶが届くはずもない。

天之あめのくん」

狐を抱き締めて呼ぶが、実際にはあらぬ方向を見ていた、今、天之御中主神は明香里の右隣に居る。

「明日も来るね、待っててね」
「ああ、逢うのが楽しみだ」

聞こえないと判っていても、天之御中主神は返事をした。明香里は狐を抱き直して歩き出す、その背をただ見送るしかない。

家に近づくと、明香里は親に狐の件をどう切り出すかを考え始める。

「素直に、飼いたい、かなあ」

呟きを白狐は聞いた。

「明香里殿、心配召さるな。私は隠れるのは得意ですから、紹介などなさらなくて大丈夫です」
「え、そうなの?」
「神使とは、神に近い存在。肉体こそ持っておりますが、見つからぬよう隠れる事はできます」
「そうなんだ。ああ、でなきゃ何十年も見つからないなんてできないもんね」
「左様。食事も睡眠も要りませぬ故、ひたすら隠れております」
「そっかあ」

だから健斗もその痕跡を見つけることができなかったのだと判る。

「じゃあ、飼うのは楽そう、あ、そこまで来ると飼ってるうちには入らないね」
「そもそも、飼われるつもりもございません」
「そうだね」
「明香里殿のおそばにいる間は、なんなりとお申し付けください。お役に立ちましょうぞ」

狐は自慢げに、つんっと鼻を上げ、尻尾を明香里の腕に巻き付けた。

「なんなりとか。天之あめのくんは、どんな頼み事をするの?」
「最近は怠惰過ぎてこれと言った使いはありませんでしたが、昔ですと、腹を空かせた子供にお供え物を届けたり、金がないと泣く家に賽銭を届けたり。あるいは他の神々との通信を担ったり」
「神々と通信かあ、そんなお仕事もあるんだね」
天之御中主神アメノミナカヌシノカミさまは、あのお社から離れる事はできませんから」
「そうだよね」

今も神域から出ることができないのだ。

「ん? 出雲に行ったりはしないの? 神無月って言うじゃない」

出雲では『神有月』になるのは有名な話だ。

「天之御中主神さまは出雲出身の神ではございません」
「出雲出身?」
「造化三神は、他の神々とは一線を画します」
「あ、そう、そうなの! 調べても特に何も出て来なくて!」

神話や逸話などがないのだ、どんな神様なのかがさっぱりわからなかった。

「古代より密やかに信仰されてた来た神々でございます。安徳天皇殿の御霊みたまを慰めるために祀られた折に、安徳天皇殿はまだ幼い故、お立場を守る為に一緒に祀られることになりました」
「へえ、そっかあ。優しい神様だね」
「なにが優しいものですか。ものぐさでなんの力も持たぬ神です」

それから白狐は、天之御中主神の悪口を並べ始めた。よくまあそこまで出るものだと感心したが、それでも長年仕えていれば気心が知れているのであろうと思える。

「──いいなあ」

思わず呟いた。

「何がよいものですかっ、代われるものなら代わっていただきたい!」

狐はキンキン声で怒鳴る。

「うん──代われるものなら、代わりたいよ」

小さな声に、狐は冷静さを取り戻す。

「……明香里殿」
「どうしたら神様のお使いになれるのかな。そうしたら天之あめのくんのそばにずっといられるじゃん。お話はできるし、触れることもできるし、姿を見ることもできる」

人間の男女ならば当たり前にできることができないのが辛かった。

「──狐の場合は、長生きすると妖術を得ますが」
「そっかあ、私も頑張って長生きしようかな。人間だったら何年長生きしたらなれるのかなあ」

明香里の淋しそうな笑みを見て、狐は押し黙る。いくら長生きしても人が神使になれた話など聞いた事がない。それでも明香里の願いは理解できてしまうから。

「──叶うとよいですな」

小さな声で言っていた。

「ありがと」

明香里は淋し気に微笑んで答えた、自身もそんな事が叶うとは思っていない。





翌日、明香里が学校帰りに水天宮へやってくるであろう頃合いを見計らって、狐は軽やかな足取りで水天宮に向かって歩いていた。

狐は霊体ではない、すり抜ける芸当などないから、潜んでいた明香里の部屋の腰高の窓のサッシに器用に乗ると前脚を掛けて錠を外し、更に器用に窓を開けると一旦床に降りてから、助走もなしに窓を飛び越え外に躍り出る。
外のコンクリートの地面から、6階の開けっ放しの窓を見上げる。よくそんな高さから飛び降りて平気だったと自画自賛しながら、足音もなく走り出していた。

人が来る気配を感じると、さっと物陰や植え込みに隠れる。明香里の家でもそうだった、基本的にはベッドの下に潜り込んでいたが、掃除機のヘッドが侵入してくるとそれを身のこなしも軽く避けてかわし、覗き込まれる気配には、さっとベッドの上に上がって視界から逃れるのだ。
そんな風に存在がばれぬよう、何十年も生きてきた。別段知られてもいいのだ、それはそれで神秘的な狐として崇められることもあるからだ。しかし狐はそれをよしとしなかった、ひたすら隠密に天之御中主神の神使として仕えてきた。先代の神使にそう言われたから守っている、次の神使にもそう伝えるだろう。

やがて水天宮に着いた、そっと社の戸を開け、中に入る。

天之御中主神アメノミナカヌシノカミさま」

呼ぶより前に、その存在はふわりと狐の前に現れていた。

「明香里は!?」
「まだ学校にございます、直にいらっしゃるであろうと先に参じました」
「そうか、そうだったな。時にお前、昨夜は明香里と……」
「はい、寝所ねどを共にさせていただきました」
「な、なんと……!」

天之御中主神の体が震え出す、怒りでだ。

「ベッドと言うものはよいものですなあ、ふわふわと温かい寝所ねどでございました。何より明香里殿のぬくもりがなんとも言えず。明香里殿も私の体が気持ちがいいとぎゅっと抱きしめたまま一晩中」
「一、晩、中」

天之御中主神が低い声で呟いた時、ガタピシと音を立てて、社務所と拝殿を繋ぐ廊下のドアが開いた。
白狐はそれより早く、壁に掛けられた壁代の布の影にするりと隠れる。
引き戸を開けて姿を見せたのは健斗だった。

「──さて。狐くん、いるんだろう?」

白狐がこの拝殿に入った姿をしっかりと見た。
隠れる必要がない天之御中主神は、間近で健斗の顔を見ていた。

「貴様、あれが狐と判っていたのか」

声を掛けるが、当然聞こえない。健斗は天之御中主神の体をすり抜けて拝殿の中を進んだ。

「狐くん?」

狐は壁に沿い床を這うようにして奥へと逃げ始める、本殿まで行ければまず見つかることは無い。

「狐くーん」

布に近づこうとする健斗の頬に、何かが当たった、それは空気の塊だった。ん?と足を止めた健斗を、今度は強風が襲う。
窓も開いていない室内なのに。それは狭い室内で荒れ狂い、渦を巻き、様々なものを薙ぎ払う。
ものの数十秒、それはぴたりと収まった。

「──これは……」

乱れた室内を一瞥して、健斗は呟いた。

「……狐くんの力かな」
「ちがーう!!!」

天之御中主神は怒鳴るが、その声は届かない。
そこへ音を聞きつけた泰道が飛び込んで来る。

「わ! なんだこりゃ! 健斗! 前、ぐちゃぐちゃになったのも、お前の仕業か!」
「そんな事あるわけないでしょう、あの時は私だって文句言いながら片付けたんですよ」

天之御中主神アメノミナカヌシノカミが明香里からの手紙を受け取ったあの日だ。

「風です」

健斗は呟く。

「は? 風? 窓も開いてないのに?」

泰道は嫌そうに顔を歪めながら聞き返す。

「ええ、なのに吹いたんです──何故でしょうね」
「知るか!」

床に落ちた榊を拾いながら泰道は怒鳴る。

「──ふむ」

健斗は厨子に視線を送った、そこだけは何事もなかったように整然と物が置かれたままだ、焚かれている蝋燭も消えてはいない。
厨子に腰掛けた天之御中主神は、じろりと睨み付ける。勿論見えていないことは百も承知だ。
だが、健斗はなにかを感じた。外れて垂れ下がった装飾の内陣御簾みす戸帳とちょうを跳ね上げ、厨子に近づく。

「おい、健斗も手伝え!」
「勿論、手伝います」

言いながらも厨子に近づいた、狭い厨子の中に視線を走らせる。
何もない、いや、何もいない、なのに感じる、なにかの存在感を。
天之御中主神はなおも健人を睨んでいた、勘がいい者は自分の存在を感じ取れると知っている、それでもそれをやめることが出来ない。
健斗は圧倒的な質量を感じ、手を差し伸べていた。しかしその手は何かに触れた感触もなく厨子の奥深くまで入って行く。
自身の胸を貫通した腕を、天之御中主神は静かに見下ろした。

「健斗!」
「──今、行きます」

健斗が背を向けた瞬間、白狐は音もなく壁を蹴り上がって厨子の奥深くに身を潜めた。





明香里が制服のまま水天宮に現れると、すぐさま狐が姿を現した。

天之あめのくん」

明香里は笑顔ですぐに狐を抱き上げる。

「明香里、すぐにここを離れろ」
「え?」
「詳しくはあとで話す。早く」
「う、うん」

早口に言われ、明香里は訳も判らず狐を抱いたまま敷地を出た。その姿を、健斗はしっかり見ていた。

川沿いの遊歩道には、ところどころベンチがある。
そのひとつに腰掛けた。

「権禰宜の男はどうも胡散臭い」

狐は明香里の膝の上で丸くなって文句を言った。

「ごんねぎ?」

明香里は狐の背中を撫でながら聞く。

「神事を取り仕切っている男の息子だ」
「ああ、神主さんか」

神主とは、本来、宮司や禰宜をまとめた呼称だ。権禰宜とは禰宜の下の役職となる。トップは宮司で、この水天宮では、いわばナンバースリーといえるポジションだ。

「狐の存在にも気付いているな」
「うん、昨日も住みつかれたら困るって言ってたじゃん」

「そうではない、ただの獣とは思っていない様子だ」
「本当!?」

明香里が叫んだ瞬間だった。

「明香里さん?」

背後からの声に、明香里はとびきり驚いて叫びそうになる。それを堪えて振り返ったが、変な顔になっている自覚はあった。

健斗は笑う。

「そんなに驚かなくても」
「あ、え、いや、はい……っ」
「もしかして、その犬が妙な事を?」

顎で示された狐──天之御中主神アメノミナカヌシノカミはひくりと体を強張らせ、明香里の膝で伏せの状態で身構える。

(狐と知っていて、何故犬などと)

明香里はそんな狐をそっと手で包み込んだ。

「ごめんなさい、家から逃げ出してしまったんですね」

冷静に答えた。

「やはり根城の方が落ち着くのでは。うちで預かりますよ? どうせうちに寄り道は欠かさないのでしょう?」

健斗は笑顔だ、その笑顔がどこか薄ら寒く感じる。
はい、と言ってもいいのだが。狐が手の中で震えている、寒さや怯えではないのは、その目を見れば明らかだ、怒りに震えていた。怒っているのが天之御中主神だとしても、狐を渡してはいけないと判る。

「──いえ」

明香里は静かに答える。

「うちで飼うって決めましたから、一度飼うと決めたら簡単に手放しちゃいけないんですよ? 私が家に居ない時はゲージに入れるようにしますね」
「そんな事言わないで。わかってください、あなたに逢う口実が欲しいんです」

健斗の言葉を無視するように、明香里は狐を抱き上げ、立ち上がった。

「だめです、私は心に決めた人がいます。神主さんも素敵な人だと思いますけど、私が好きな人にはかないません」

言い切ると、ぺこりと頭を下げて歩き出す。健斗は引き止めなかった。
十分に離れた事を確認してから、狐は声を上げる。

「明香里、明香里! 心に決めたとはどういう意味だ!」
「……そんな事」

言えない、と明香里は狐を抱く手に力を込めた。

「それは俺のことだろう! 教えてくれ、明香里は俺とどうしたい!」
「──無神経」

ぽつりと呟いた。

「は?」

受け入れられない言葉に、天之御中主神は素っ頓狂な声を上げる。

「そこは感じ取ってよ、神様でしょ。ううん、神様じゃなくたってわかるよ」
「わからんから聞いている」
「だから。無神経」

明香里はずんずんと足を早めた、その先にあるものを天之御中主神は知っている。

「おい、待て、明香里、この先は──!」

神域の果てだ。

「止まれ、明香──里どの!?」

狐の声音はしゃべっている間に変わった、そして数歩進んでから明香里は足を止める。

「──天之あめのくん?」

そっと呼びかけた。

「──後方におります」

白狐が甲高い声で答える。

「……そっか」

勢いあまって神域を出てしまうなど、あり得ないのだと再認した。

「明香里殿、天之御中主神さまは泣いております」
「いいよ、ほっといて。ごんねぎさんもいるのに戻れない」
「──はあ……」

狐は体を伸ばして後方を見た。
ただ突っ立って明香里を見送るしかない天之御中主神と、その後ろに、健斗がにやにやとした笑みを浮かべ立っている。

「──明香里どの」
「もう、水天宮に行かない方がいいね」
「明香里どの」

明香里の宣言を、狐は名前を呼んで問い詰める。

「狐さんも近づかないで。きっとあの人に捕まって閉じ込められちゃうよ」
「そんなにどんくさくはありませぬ」
「そうかもしれないけど、もしかしてがあるかも知れないじゃん。来る時は私と一緒ね、家からも出ちゃだめだよ?」
「厳しいですなあ……」

それでも明香里の腕の中で揺られながら、狐はその案に納得した。確かに健斗は自分を探していたのだ、狐、と呼んで。捕まるほどドジではないが、危うきに近寄らず、だ。


***


翌朝、行かない方がいいね、と宣言したはずの明香里は水天宮に現れた。
その姿を見て、厨子の中で拗ねて大の字になっていた天之御中主神アメノミナカヌシノカミは慌てて体を起こす。
明香里が賽銭と一緒に紙切れを賽銭箱に入れたのが見えた、鈴も鳴らさずに手を合わせ、小さく会釈をしてさっさと踵を返すさまをじっと見ていた。
参道を歩いて鳥居を抜けた明香里は、いつもと違って左に折れて消えた。それは学校へ向かうルートだ。

その姿が見えなくなってから天之御中主神はふわりと移動を開始した、拝殿の戸をすり抜け、賽銭箱を覗き意識を集中させる。
中に明香里の気配を感じる物がある、ひとつは冷たい感覚、それは賽銭だろう。それから少し離れたところに、温もりを感じる存在があった。それを呼び寄せるとふわふわと浮き上がり姿を見せる。

B版のルーズリーフを半分に切り、更に幾重にも折られた手紙だった。天之御中主神は辺りを確認し、誰も見ていないのを確認してからそれを完全に箱から出し、床を擦るようにして移動させると拝殿の奥の神殿まで運び入れる。

宙に浮いたそれは勝手に開き、中身を天之御中主神の目に晒した。

天之あめのくん、昨日はごめんね。
神社で会うのは神主ご一家の目もあるからやめよう。
今日の四時、前の一ノ鳥居があった辺りで、狐さんと待ってるから。来てね。
                  明香里』

「明香里ーーーーっ!」

天之御中主神アメノミナカヌシノカミの歓喜の雄叫びは、誰にも聞こえなかった。





天之御中主神に時間の感覚はない。
朝なのか、昼なのか、夜なのかくらいは勿論判るが、月日の感覚すら薄い。
それを知るのは人の行動だ。
神職があげる祝詞や、いつも来る熱心な参拝者など判断するが、それもざっくりとした時間でしかない。

(四時、四時かあ……)

昼を過ぎたあたりからそわそわしてしまう。
拝殿に時計はない、時折ふわりと社務所まで顔を出して時計を確認した。数字は判る、四時がどこを指し示すかも。

「なかなか進まんな! この時計は壊れているのか!」

当たり散らすがそんなはずもない、時計は文句も言わずに正確にその任務を遂行している。
いつもならぼーっと厨子に居ても気にならないのに。今日ばかりはじっとしていられなかった。社務所に顔を出した後、3回に1回は一ノ鳥居まで飛んだ。当然いるはずがないのだが、辺りを見回し、少し待ってみて拝殿に戻る。

それを何度も繰り返した四時少し前、ようやく愛しい人の姿を見つけた。

「明香里!」

声を上げるが聞こえるはずもない。
一旦帰宅し私服に着替えた明香里は、狐を抱き抱えてゆっくりとした歩みでそこへ向かう。

「おお、天之御中主神アメノミナカヌシノカミさま」

狐が声を上げた。

「え、もう居るの?」
「ええ、早う来いとジタバタしております」
「そっかあ」

明香里は笑顔になった、その姿が見れないのは悔しいが、待ってくれている姿を想像すれば喜びが込み上げる。
なのに明香里はぴたりと足を止めた。

「明香里殿?」

狐が不思議そうに顔を上げる。

「ふふ、ちょっと意地悪」

突然止まり、腕の中の狐と会話をしている様子の明香里を遠く見て、天之御中主神はまさしく地団駄を踏んだ。

「明香里、なにをしている、早くもっと近くへ!」

なのに、明香里はくるりと背を向ける。

「明香里ーっ!」

しかし一歩進んだだけで、再び天之御中主神の方へ向き直る。

「明香里殿?」

狐はそれこそつままれたように明香里を見上げた、明香里はくすくす笑っている。

天之あめのくん、怒ってる?」
「と言うより、泣きそうです」
「そっかあ」

天之御中主神の姿を想像して嬉しくなる、きっと自分と同じくらい、逢いたいと言う気持ちを持ってくれているのだと感じられるからだ。

(どうせなら、通訳なしで逢いたいけど)

それはどんなに願っても叶わないのだとわかっていた。
先程までより歩幅が大きく、早くなったのを自覚しながら明香里はかつて一ノ鳥居があった場所に着いた。
途端に狐の体が震え、明香里の腕の中で立ち上がる。

「明香里! 逢いたかった!」

素直な言葉を聞いて、明香里も素直に嬉しくなる。

「──うん、私もだよ」

抱き締め、ふわふわの首筋に鼻を埋める。

「昨日は悪かった! 俺も心に決めた!」
「──え?」
「お前とずっといたい! そういう事だろう!?」

なんの比喩でもない、ストレートな言葉に、明香里は驚き、次には嬉しくなる。

そうだ、そうなのだ。ただ好きな人といたい、それだけだ。それが簡単には叶わぬ相手だとしても──。

「うん」

明香里は小さく頷いた。

「そういう事だよ。少しでも長く、一緒に居ようね」

明香里は狐を抱き締め歩き出す、今日も川沿いの遊歩道で短い逢瀬を重ねようと思った。

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