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第9話 再会(後編)

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「ぐすっ、ううっ……」

「いや~、ジュンちゃんはおっきくなっても甘えんぼさんね」

「……エモい?」

「そう! アル、正解!
 その感情を忘れないで!」

「……変な言葉をアルに教えるのはやめなさい」

「は、はは……ほんとにマリ姉だ」

 ひとしきりマリ姉の腕の中で泣いた俺は、ようやく顔を上げる。

「それにしても、ジュンちゃんも”転生”してたとはね~」

「!!」

 マリ姉の言葉にハッとする。

「それじゃあ、ヒューバートさんが俺の言葉を信じてくれた理由って」

「ああ、君が現れるまで私も正直半信半疑だったけどね。
 アルも間違いないっていうものだから」

(こくこく)

 俺がマリ姉になでなでされているのが羨ましかったのか、対抗するように抱きついてくるアル。

「あたしはゲームあんまりやらないから、”魔王”が攻めてくるとは知っていたけど、いつ頃か分かんなかったのよね。
 ジュンちゃんはどうしてこの世界に?」

「うん、実は……」

 マリ姉と話していると、子供時代の口調に戻ってしまう。
 俺はあの事故から転生までの事をマリ姉に詳しく説明する事にした。


 ***  ***

「……ジュンちゃんも苦労したんだね。
 大変な時にそばにいてあげられなくてごめん」

「ううん、大丈夫だよ。
 こうして再会できたんだし」

 もともと長い話でもないし、俺が苦労したのはマリ姉のせいではない。
 それなのに俺の話を聞いて涙ぐむマリ姉。

「ジュンヤはアルたちを守ってくれたの。
 すっごいスキルで!
 そこの池もジュンヤが作ったんだよ」

「マジか~」

 俺の活躍を嬉しそうに語るアル。
 そんなに褒められるとくすぐったい。

「あ、もしかしてリバサガってヤツ?
 ジュンちゃん好きだったもんねぇ」

 集会所の椅子に座り、膝の上で甘えるアルを優しく撫でるマリ姉。
 昔よく見た光景に、マリ姉が戻って来たことを実感する。

「えへへ……それにジュンヤと気持ちいい」

「ほう」

 それなのに、いきなり爆弾を投下するアル。

「ほっほ~う、さすが人たらしのジュンちゃん。
 すでにこの子も攻略済みでしたか」

「アル、ちゃんとヒニンはするのよ? 無計画はダメ」

「……ぽっ」

「スキルの話だから!
 リバサガの戦術リンク!!」

「ぷぅ」

 俺の釈明になぜかふくれるアル。

「ふふ、ふふふふっ。
 あははははははっ!」

 慌てる俺の様子にお腹を抱えて爆笑するマリ姉。
 子供時代にいつもしていたやり取りだ。

「あー、笑った笑った。
 あ、そうだアル。
 ジュンちゃんは10歳まで……」

「ふむふむ」

「ちょ、ちょっと待った!」

 このまま放っておいたら俺の黒歴史をマリ姉にばらされそうだ。
 アルの前ではカッコいいお兄ちゃんでいたいのである。

「こんどはマリ姉の事を聞かせてよ!」

「……しかたないなぁ」

 そう、マリ姉が飛行機事故に遭ったのは俺が14歳、マリ姉が24歳の時。
 転生前の時点で9年の月日が経っている。
 それなのにヒューバートさんはマリ姉を27歳だという。

 聞きたいことはたくさんあった。

「ヒュー、調理道具は持ち出してるわよね?
 ジュンちゃん、好物の焼き鳥丼を作ったげるからゆっくり話そうか」


 ***  ***

「美味しい……」

 噛みしめた焼き鳥から、懐かしい味が口いっぱいに広がる。
 実家の近くで居酒屋を営んでいた叔父さんの店をマリ姉がいつも手伝っていたことを思い出す。
 俺にとっての家庭の味は、この焼き鳥だった。

「鶏肉はレッサーグリフォンとかの鳥型モンスターが使えるし、大豆と麹菌を使って醤油はすぐに作れたけど。
 みりんには苦労したわ~」

 ここは小麦が主食っぽいファンタジー世界だ。
 お米が主原料の調味料を作るのは大変だっただろう。

「転生してからは王都のレストランで住み込みで働いてたんだけどね。
 少しだけ余裕が出て来たから日本食の開発にチャレンジしてたわけよ」

「そしたらたまたまヒューがお店にやって来てね?
 おっ、あたし好みのイケオジじゃんと焼き鳥の試作品を食べさせたら……。
 一発であたしの料理と美貌にぞっこんってわけ!」

「胃袋を掴んだ?」

「そうよアル、美味しいものを食べさせておけば男は離れられなくなるわ」

「めもめも」

「………こほん」

 恥ずかしそうに頬を掻くヒューバートさんの反応が新鮮だ。

「掛け値なしに今まで食べた物の中で一番おいしかったな、あれは。
 それに、君の美しい黒髪……その凛としたたたずまいにも見惚れてしまってね」

「ぐは~っ!? イケメンムーブ来た! これで勝つる!」

「……勝つる?」

 マリ姉の外面はクールビューティだからな。
 素はアレだけど。

(だけど……)

 マリ姉は18歳の姿で転生したという。
 元の世界とほとんど変わらない状態で転生した俺や典雅さんとは明らかに異なる。

『対象世界の救済に時間が掛かりそうな場合、赤ん坊として転生してもらうことはありますけどね』
『1つの世界に3人の転生者というのは、ちょっと聞いたことないですし……本部で調べてもらいます』

 とは女神ユーノの言葉だ。
 星の数ほど世界があるのなら、同一世界に3人の転生者と言うのは確かに異例だろう。

「ま、そんなことより」

 魔王は主人公である典雅さんが倒してくれるだろうし。

 もう会えないと思っていた従姉妹に可愛い妹分。
 大切な彼女達をしっかり守っていかないとな!

「よ~し! 腹もふくれたし……。
 新生煉瓦亭を作るか!」

「らじゃ」

「ふふっ、頼むわね」

 モチベーションが爆上がりした俺は、煉瓦亭の建材を集めるため近くの森に突進するのだった。
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