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第15話 襲撃

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「……!……ぁ!?」

「…………んっ?」

 まどろみの中、窓の外から聞こえて来た声で僅かに覚醒する。
 オージ王国第三王女フェリシア姫に村を案内した後は、お付きの兵士さんたちと漢飲み会に突入。

 夜半過ぎに酔い潰れた俺と違い、ヒューバートさんたちは朝方まで飲んでたみたいだけど。
 そういえばアルはフェリシア姫と仲良くできたかな?
 村には同世代の子供がいないので、アルの友達になってくれたら嬉しいんだが。


 ズズンッ!!


「はっ!?!?」

 とりとめのない思考は、突如沸き起こった爆発音に断ち切られる。

「な、何が起きた!?」

 慌てて窓に駆け寄り、カーテンを開ける。

「あれは!!」

 俺たちの家は丘の中腹に建っており、村の全貌が良く見える。
 畑の向こう、村を守る黒曜石の砦に手を掛けんとしている巨大な影。

「オーガー? それにしてはデカいっ!」

 砦は二階建てだが、オーガーの頭は2階の窓くらいの高さがある。
 僅かにかがんでいることを考えても、身長は8メートルくらいあるかもしれない。

 この辺りで出現するモンスターとは、明らかに違うレベルのモンスター。

(油断した……か!)

 リバサガでは、プレーヤーの間で”ハリケーン”と呼ばれるモンスターの襲撃イベントが発生する。

 拠点となる村とプレーヤーのランクに応じて出現するモンスターのレベルが変わるのだが、村のランクだけを上げまくると防衛施設の方が強くなり、プレーの緊張感がなくなるのだ。

 それを防ぐためにあえて上位ランクモンスターの襲撃イベントが実装されている。

 ゲームなら、村を破壊されても建て直せば済むが……ここは現実である。

「アル!」

 クローゼットに収納してある装備品を身に着け、走りながらアルの部屋をノックする。

「ういっ!」

 アルもこの事態を察知していたのか、完全装備で部屋から飛び出してくる。

 彼女が身に着けているのは胸元の紅いリボンをワンポイントに、うさぎさんエムブレムのついたグレーのブレザーに膝上のチェックスカート。
 足元はローファーとまるで私立学園の制服だが、これはマリ姉の趣味によるもので、彼女の縫製技術により防刃素材で出来ており防御力が高い。

 魔法使い志望の彼女らしく、蒼いマントとマジックロッドがどうにもアンバランスで微笑ましい。

 あと言い忘れた。
 超似合っている!
 超カワイイ!!

「にひっ♪」

「行くぞ! 戦術リンクだ!」

「うんっ!」

 畑に繋がる道を駆け下りながら、ステータスウィンドウを展開する。

 ======
 モベ ジュンヤ
 LV1 ヒューマン
 HP   :610  最大値:9,999
 MP  :320 最大値:9,999

 攻撃力 :290 最大値:9,999
 防御力 :255 最大値:9,999
 素早さ :180 最大値:9,999
 魔力  :215 最大値:9,999
 運の良さ:180  最大値:9,999
 ☆戦闘スキル熟練度:7
 ☆築城スキル熟練度:12
 ☆戦術リンク(アルフィノーラ):4
 --->エネルギーシールド…… 使用回数2
 --->タイダルウェイブ……… 使用回数2
 --->new エクスプロージョン……… 使用回数1
 --->new ハイパースキャン……… 使用回数2
 E:ロングソード(攻撃力+10)
 E:ファイバージャケット(防御力+50)
 ======

 定期的にモンスター退治はしているが、村の復興を優先していたので
 築城スキルの熟練度に対して戦闘スキルの熟練度が低い。

「アイツがジャイアントオーガーだとしたら……マズいな」

 マリ姉謹製の防具のお陰で、防御力は大きく伸びたけれど……魔法がほとんど使えないのが痛い。

 リバサガでは魔法はレベルアップや熟練度アップではなく、イベントや防衛戦のボスが落とす”マジックマテリア”という宝玉を装備することで習得する。
 マジックマテリアには炎や氷、光や闇などの属性があり、宝玉の属性やランクを組み合わせ強力な魔法を見つけることが楽しみの一つなのだが……。

「くそっ!」

 世界が違うのだ。
 無い物ねだりをしても仕方がない。
 幸いにもジャイアントオーガーは1体。

「戦術リンク:エネルギーシールド!」

 緑色の力場が俺とアルを包む。
 コイツで防御力を上げ、手数で勝負すれば……!

 だが次の瞬間、ヤツの背後に数十体の狼型モンスターが出現する。

「なっ!?」

 一撃で倒せるとしても数が多すぎる。
 その隙にジャイアントオーガーが村に侵入したら……。

 最悪の可能性が頭をよぎるが、この時の俺はすっかり忘れていた。

 ここはリバサガの世界ではなく、モンクエに似た世界であるということを。
 俺のステータスが、いつの間にか終盤レベルになっていたことを。

「……ねえジュンヤ、この”えくすぷろーじょん”って強いの?」

 目を細めたアルが、俺のステータスウィンドウの一点を指さす。

「そうか!」

 気が急くあまり忘れていた。

 アルと親交(?)を深めたので、戦術リンクのランクが上昇していた。
 唯一の魔法系スキル、タイダルウェイブは大量の水で敵を溺れさせる魔法だが、せっかく造成した畑が水浸しになる危険性があり、使うのを躊躇していたのだ。

 新たに解放された”エクスプロージョン”は威力は低いが効果範囲の広い爆発系魔法。
 うまく行けば、ジャイアントオーガーの周りにいる狼たちを一掃できるかもしれない。

「アル、頼む!」

 農地に当たらずにジャイアントオーガーに射線が通る場所……家々が立ち並ぶ丘を駆け下り、畑の右側に移動し、アルの手をしっかり握る。

「うんっ!」

 ぎゅっ

 小さくて暖かいアルの手。
 しっかりとした戦術リンクの繋がりを右手を通して感じる。

「えへへ」

 彼女もそのぬくもりを感じているのだろう。
 はにかむ笑顔が超絶愛らしい。

「戦術リンク:エクスプロージョン!!」

 ヴィイイイイインッ!

 オレンジ色から真っ白な閃光へ。
 魔力がジャイアントオーガーの周囲に集まっていくのが見える。

「アル! ここから動くなよ?」

 魔法スキルの発動を確認すると、俺はアルの手を放し大きくジャンプする。
 爆発に怯んだジャイアントオーガーに一撃を加えるためだ。

 ダンッ!

(うお!?)

 力を込めて大地を蹴ると、思ったより高い所まで飛びあがる。
 ジャイアントオーガーの頭がはるか下に見えるくらいだ。

 ズッドオオオオオオンッ!

 その瞬間、エクスプロージョンの爆発がジャイアントオーガーと狼型モンスターを包む。

 ズオッ……

 気のせいか、20体を超える狼型モンスターがチリも残さず消し飛んだように見えた。

「くらえっ、”天空斬り”!!」

 ロングソードを大きく振りかぶり、少々焼け焦げているジャイアントオーガーに振り下ろす。

 せめて足を止められれば……そんな思いで放った一撃は。

 ザンッ

 やけに軽い手ごたえと共に、ジャイアントオーガーを真っ二つにした。

「……あれ?」

 ずずん

 悲鳴も上げずに倒れる巨体。
 そこでようやく俺は思い出す。
 この世界のステータス上限が999だということに。

 巨大な体躯を持っていても序盤のボスである。
 剣技スキルを乗せた俺の一撃は、ジャイアントオーガーのHPを削り切ったようだ。

 キラキラキラ……

 通常のモンスターよりはるかに大きい宝石がどさりと焼け焦げた草原に落ちる。

「え~っと」

 周囲を見れば、数十体いたはずの狼型モンスターも綺麗さっぱり消え去っていた。

「凄い凄い! ジャイアントオーガーが一撃だよ!
 それにお金もたくさんゲット!」

 だきっ

 抱きついてきたアルが小さくVサイン。
 どうやら、俺はいつの間にか強くなり過ぎてしまったようだ。


 ***  ***

「んなっ……あれは……まさか、魔族?」

 いまいち何をやったのか実感していないジュンヤに比べ、魔王に詳しい王族であるフェリシアが受けた衝撃は相当なモノだった。

 紫色の肌を持つ特別なジャイアントオーガー。
 ”魔族”と呼ばれる最上位モンスターだ。

 竜とスキュラのキメラと言う魔王ログラースの姿から考えると、四天王の一体だとしてもおかしくない。

「それを、一撃で?」

 彼こそ……ジュンヤこそ真の救世主かもしれない。
 その思いを強くしたフェリシアの脳裏で、1つの計画が急速に形を成して行くのだった。
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